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四章
アマチュアカメラマン
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登場人物:
山田剛蔵 京都工芸袋物業を営む、18年前に死亡、享年44歳
山田華 妻、55歳
山田剛志 長男、32歳、夫婦で家業を継ぐ
山田和馬 次男、27歳、公務員
山田彩奈 長女、23歳、グラフィックデザイナーとして会社勤めを始めた。
鷺沢洋一 アマチュア写真家、公務員、43歳
住吉涼子 アーティスト、46歳
「警察って、どう言うこと? 警察……」彩奈の心臓が奇妙に音をたてる。「ええっ、お父さんは事故で亡くなったのよ。どうして警察が?」
「う~ん、その通りだ。お父さんは住吉家の山荘のある小山、と言うか丘陵の端の崖から足元を誤って転落死したんだ。でも、その場所が場所やったからね。一応、事件性がないかどうか警察が調べたらしい。俺らは子供だったからよく知らなかった」
「場所が、ってことは……」
「うん、まあ、お父さんと住吉さんの、その……。噂があったからだろ。何か利害関係があったりしたら、人と人の間の感情のもつれとか疑われて」
「いやっ!」
彩奈は小さく叫び、顔を背けた。
黙っていた次男の和馬がプロ仕様のカメラで撮られたと思われる、その数枚の写真を手に取り、眺めた。
「確かに上手く撮れているね……。赤くなったモミジに上手いこと焦点が合っててなあ、ほんまプロの仕事や。でも、この布切れは何だろうね。模様が紅葉だから、わざと構図に入れたのかな」
顔を背けていた彩奈は和馬の言葉を聞いてゆっくりと振り向く。三枚の写真のうち、一枚だけに紅葉の模様の布地が写っている。
「そうなの?」
「いや、わからんけどね。この三枚の写真が警察に持っていかれたんだろ。何か問題があったのかな」
剛志は三枚の写真を手に取り、表裏をあらためた。
「ふむ。ここに撮った人のハンコみたいなのが押してある。鷺沢…って人か。思い出した」
剛志は素人のカメラで撮られた写真の中から何かを探した。「あった、この人だ、ほら」
彩奈は写真を覗き込んだ。数人が庭に散らばり、自然なポーズを取っていた。庭の隅で控えめに立っている男性が彩奈の注意を引いた。
その若い男性はベレー帽を被り、胸に薄手のマフラーを巻き、ガッチリしたカメラを首から下げている。ベレー帽の下には柔和な笑顔が見えた。
「ふ~ん」彩奈はその男性を見つめたまま尋ねた。「この人も、住吉さんのサークル仲間だったんだね」
「そんな感じだね」剛志が答える。「20年ほど前は、日本も景気がよかったからね。芸術家のタマゴたちがこうやって集まって、作品を競ったりして活気があったやろね、羨ましい。今の俺らの時代は残念なことになってしもたね、ははは。……おっと、こんなことしてたら時間ばっかりたってしまう」
剛志は慌てて立ち上がった。「さあ、気合いを入れて作業しよ! 今日中に終わらせんとあかんよ」
和馬も慌てて立ち上がった。
兄2人が階段を降りて行った後も、彩奈はしばらく机の上に広げられた写真を眺めていた。
山田剛蔵 京都工芸袋物業を営む、18年前に死亡、享年44歳
山田華 妻、55歳
山田剛志 長男、32歳、夫婦で家業を継ぐ
山田和馬 次男、27歳、公務員
山田彩奈 長女、23歳、グラフィックデザイナーとして会社勤めを始めた。
鷺沢洋一 アマチュア写真家、公務員、43歳
住吉涼子 アーティスト、46歳
「警察って、どう言うこと? 警察……」彩奈の心臓が奇妙に音をたてる。「ええっ、お父さんは事故で亡くなったのよ。どうして警察が?」
「う~ん、その通りだ。お父さんは住吉家の山荘のある小山、と言うか丘陵の端の崖から足元を誤って転落死したんだ。でも、その場所が場所やったからね。一応、事件性がないかどうか警察が調べたらしい。俺らは子供だったからよく知らなかった」
「場所が、ってことは……」
「うん、まあ、お父さんと住吉さんの、その……。噂があったからだろ。何か利害関係があったりしたら、人と人の間の感情のもつれとか疑われて」
「いやっ!」
彩奈は小さく叫び、顔を背けた。
黙っていた次男の和馬がプロ仕様のカメラで撮られたと思われる、その数枚の写真を手に取り、眺めた。
「確かに上手く撮れているね……。赤くなったモミジに上手いこと焦点が合っててなあ、ほんまプロの仕事や。でも、この布切れは何だろうね。模様が紅葉だから、わざと構図に入れたのかな」
顔を背けていた彩奈は和馬の言葉を聞いてゆっくりと振り向く。三枚の写真のうち、一枚だけに紅葉の模様の布地が写っている。
「そうなの?」
「いや、わからんけどね。この三枚の写真が警察に持っていかれたんだろ。何か問題があったのかな」
剛志は三枚の写真を手に取り、表裏をあらためた。
「ふむ。ここに撮った人のハンコみたいなのが押してある。鷺沢…って人か。思い出した」
剛志は素人のカメラで撮られた写真の中から何かを探した。「あった、この人だ、ほら」
彩奈は写真を覗き込んだ。数人が庭に散らばり、自然なポーズを取っていた。庭の隅で控えめに立っている男性が彩奈の注意を引いた。
その若い男性はベレー帽を被り、胸に薄手のマフラーを巻き、ガッチリしたカメラを首から下げている。ベレー帽の下には柔和な笑顔が見えた。
「ふ~ん」彩奈はその男性を見つめたまま尋ねた。「この人も、住吉さんのサークル仲間だったんだね」
「そんな感じだね」剛志が答える。「20年ほど前は、日本も景気がよかったからね。芸術家のタマゴたちがこうやって集まって、作品を競ったりして活気があったやろね、羨ましい。今の俺らの時代は残念なことになってしもたね、ははは。……おっと、こんなことしてたら時間ばっかりたってしまう」
剛志は慌てて立ち上がった。「さあ、気合いを入れて作業しよ! 今日中に終わらせんとあかんよ」
和馬も慌てて立ち上がった。
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