時空間を駆ける者たち

桐原真保

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10章 涼介、不思議な場所に連れ去られる

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 ローサと涼介はカフェを出て駐車場に向かった。

 涼介は怒りを感じた。それと同時に動揺した。涼介の肩のマイクロチップは委員会によって埋め込まれたものに違いない。何てことだ、人の体に勝手なことをしやがって!
 しかしこれがオフにされた今、彼らは涼介を追跡できなくなったのだ。彼らは涼介の居場所を知ることができず、万が一の時に助けに来ることもできない。
 歩きながら涼介は胸に手をやった。この「お守り」が今や大切なバックアップ機能を果たすことになったのか。これを今発信させ、コンビニの前に置いていくべきか、それともこのまま持っていくか…。いや、待て待て、あわてるんじゃない!
 涼介はもうしばらく様子を見る方を選んだ。

 ローサはワゴン車の助手席に乗り、待っていた二人の男のうち一人は運転席、もう一人は二列目に座った。
「後ろの席に座ってね」
 涼介は最後列に座るように言われた。
 乗り込む前に涼介は、車体の下の地面がぼんやり明るいのに気が付いた。車の下に首を近づけて見てみると、車の底のカバーが虹色のプラスチックのように見えた。よくよく近づいて拳で叩いてみると軽い金属音がした。
 こんな金属があるのか?
 しかしローサらが不審がるといけないので、涼介は慌ててワゴン車に飛び乗った。車は動き出した。
 ワゴン車の両側の窓はスモークが貼ってあり、まともに外が見えない。前の列との間はプラスチックガラスで仕切られており、これもスモークが貼ってあった。涼介の席の前には、飛行機の内部のようにテレビ画面があった。彼らの自主制作映画が見られるらしい。
「そんなに遠くないから」
「場所を教えてくれないんですか」
「あなたの大叔父さんが内緒にしてくれと言ってるのよ…」
 車が発進してから5分ほどは途中で止まってはスタートするの繰り返しで、市街地を走っているらしかった。それからしばらくの間、車はスピードを上げて止まることなく進む。さらに行くと、車がガタガタと小さく揺れ始め、涼介は吐き気を感じた。
ー おかしいな。車酔いなんて、なったことがないのに。
 いよいよ吐きそうと思った瞬間、鈍い衝撃音がして涼介の体は前に傾いた。
 そのあとはスムースに車は進んで行く。えっ…まるで飛行機が空港に着陸した時のようだ、と涼介は思った。吐き気は次第に収まった。

 さらに20分ほど進んだ後、ワゴン車はスピードを緩めてゆっくりカーブし、エンジンを止めた。全部で4、50分ほど走ったように感じられた。
ー たった40分ほどでこんなところに出るのか? 
 彼は不思議に思った。東京の周辺の県に出たかもしれない。涼介は携帯を見た。携帯には「圏外」の警告が出ていた。
 圏外? 
 涼介は焦って窓の外を見ようとしたが、スモークガラスで何も見えない。ただ外は相変わらず明るく、緑色の場所が多いと言うことだけはわかった。だが「圏外」になるほどの鬱蒼とした山の中とも思えなかった。
 ローサらは車を降りた。彼らに促され涼介もワゴン車をおりた。目に入ったのは草木に溢れた田舎の光景だった。
 
 彼らに連れられて歩きながら涼介はモヤモヤとした違和感を感じた。普通の田舎の里山風景に見える。空を見上げると、当たり前のように太陽が雲の間で見え隠れしている。しかし、山々の向こうが背景のように霞んでぼやけているのだ。場所がどこなのか、ヒントになるものがない。
 草むらの中の細道を歩き、そばの背の高い草に触ると、草についた露は確かに水滴だった。間違いなくどこかの田舎なのだが…。
 涼介は違和感と胸騒ぎを振り払おうとした。
 石ころ混じりの道を歩きながら、ふと、あのプログラムで涼介らを訓練した教官の言葉を思い出した。
「君たちがなぜ選ばれたか。その特殊な感覚、ユニークな発想。今すぐ学業成績に反映されなくてもいい。それを感じたら忘れないで欲しい。いつかそれが君たちを、そして私たち全体を助けるかもしれない」
 今思い出しても、奇妙な文句だった。一体誰が、どんな危険に晒されると言うのか?
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