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11章 大叔父との再会と不思議な力
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「あれよ」
少し登り坂になった村落の細道を歩いていくと、一番奥に見える小さい家をローサが指差した。全く孤立した家というわけでもなく、登って行く道の両側には間隔を開けて四
、五軒の家が並んでいた。
その家の前に立った涼介は、何か思い出せることがあるかなと期待した。しかし当然ながら、全く知らない家だった。大叔父が身を隠すために住んでいた家だものな…。涼介は納得した。
「ごめんください、お邪魔します」
同行した二人の男のうちの一人が玄関の戸を軽く叩き、大声で言った。すぐにパタパタと土間を小走りに近づいて来る誰かの足音がした。玄関の戸を開けてエプロン姿の中年の女性が顔をのぞかせ、頭を下げた。
「よくいらっしゃいました。おじいさんは元気にしておられます」
「ご苦労様です」ローサは言って、涼介に振り向いた。「この人はボランティア組織から派遣されているのよ。あなたの大叔父さんはよくお世話をしてもらっているわ。それじゃ、私たちは車で待っているから」
彼らは涼介を一人にして外に出た。
派遣の女性は彼らにあらかじめ話を伝えられていたのだろう。笑顔で涼介を案内した。奥の部屋は和室で、老人が腰を曲げて座卓に向かっている後ろ姿が見えた。その座卓にはパソコンが見える。随分古い型に見えた。
「岸本さん。お客様がお見えですよ」
女性が大叔父の名前を呼ぶと老人は振り向いた。丸まった背中、深く刻まれた皺で、痩せて小さな顔。その目元に涼介は見覚えがあった。
「大叔父さん。僕、涼介です」
「涼ちゃんか、よく来てくれた」
大叔父はぎこちなく体を回し、涼介に向き合おうとした。涼介は慌てて大叔父のそばに座った。
「お久しぶりです。会えて嬉しいです」
「おう、本当にな…」
涼介は何を話していいかわからなかった。あまりに長い間会ってなかったからだ。大叔父は九十歳に近いはずだったが、受け答えの様子から見て頭はしっかりしているようだ。
涼介は大叔父の目の前のとても古そうな型式のパソコンを見た。どこのメーカーのものかわからない。大叔父はマシンの下に何か敷物を敷いて、大事にしているのがよくわかる。パソコンのスクリーンには、いくつかのアイコンが並んでいる。フォルダーらしきアイコンもいくつかある。
「大叔父さんはパソコンを使えるようになったんですね」
「そう…。そうそう、涼ちゃんがパソコンを教えてくれたことがあったな。これで文を書いたりできるようになったよ」
「それはよかったです」涼介は嬉しかった。「他にも色々できるようになったんですね」
「そうだよ、これとか…。画像の処理とか、難しいな」
「見せてもらえますか」
手を伸ばしてマウスに触った涼介はハッとした。
ー ん? この感触…。僕の手のこの感触は…。
涼介はマウスから手を離し、両手を開いて見つめた。以前、何かが…あった。
涼介は右手をそっとパソコンのディスプレーに向けて差し出してみた。スクリーン上にぼやけた黒い丸が現れた。
涼介はゆっくりと右の人差し指をディスプレーの上で回して行く。すると黒丸がその動きに合わせて動く。意識して強く回そうとすると黒丸が大きくなる。指をさらにスクリーンに近づける…
ああ、これは!
涼介は目を見開いた。長い間忘れていた感覚と不思議な力だ。手で直接触れていないのに、テレビや、テレビゲームのスクリーンに奇妙なことが起こる。
「あれ? 見てよ、これ。すごい!」
大威張りで親に見せたら、親は驚愕の表情を示し、叱責した。
「やめなさい!」
両親が激しく叱ったので涼介は驚き、シュンとなった。それからの涼介は彼の「不思議な力」を人に見せないようになった。それでも夜、一人になった時にテレビゲームを無茶苦茶な展開にして遊んだりした。
しかし何時ごろのことだったか、その力は消えてしまった。今の涼介にはわかる。小6の時に始められた『訓練』のせいだ。あの訓練で涼介らはいじくりまわされた挙句、この密かな力を奪われてしまったのだ。わずかな自衛能力だけを残して。
今、その力が戻ったのだ。
頭の中に教官の怒鳴り声が響いた。
「君らは行動に細心の注意を払わないといけない。意味がわかるか? うっかりして友達や周りの人を傷づけることがあってはならないんだ。鋭い刃物を持ったら大胆になってはいけない。とことん臆病になることだ。意味がわかるか? わからなくても、俺の言っていることは忘れるな」
少し登り坂になった村落の細道を歩いていくと、一番奥に見える小さい家をローサが指差した。全く孤立した家というわけでもなく、登って行く道の両側には間隔を開けて四
、五軒の家が並んでいた。
その家の前に立った涼介は、何か思い出せることがあるかなと期待した。しかし当然ながら、全く知らない家だった。大叔父が身を隠すために住んでいた家だものな…。涼介は納得した。
「ごめんください、お邪魔します」
同行した二人の男のうちの一人が玄関の戸を軽く叩き、大声で言った。すぐにパタパタと土間を小走りに近づいて来る誰かの足音がした。玄関の戸を開けてエプロン姿の中年の女性が顔をのぞかせ、頭を下げた。
「よくいらっしゃいました。おじいさんは元気にしておられます」
「ご苦労様です」ローサは言って、涼介に振り向いた。「この人はボランティア組織から派遣されているのよ。あなたの大叔父さんはよくお世話をしてもらっているわ。それじゃ、私たちは車で待っているから」
彼らは涼介を一人にして外に出た。
派遣の女性は彼らにあらかじめ話を伝えられていたのだろう。笑顔で涼介を案内した。奥の部屋は和室で、老人が腰を曲げて座卓に向かっている後ろ姿が見えた。その座卓にはパソコンが見える。随分古い型に見えた。
「岸本さん。お客様がお見えですよ」
女性が大叔父の名前を呼ぶと老人は振り向いた。丸まった背中、深く刻まれた皺で、痩せて小さな顔。その目元に涼介は見覚えがあった。
「大叔父さん。僕、涼介です」
「涼ちゃんか、よく来てくれた」
大叔父はぎこちなく体を回し、涼介に向き合おうとした。涼介は慌てて大叔父のそばに座った。
「お久しぶりです。会えて嬉しいです」
「おう、本当にな…」
涼介は何を話していいかわからなかった。あまりに長い間会ってなかったからだ。大叔父は九十歳に近いはずだったが、受け答えの様子から見て頭はしっかりしているようだ。
涼介は大叔父の目の前のとても古そうな型式のパソコンを見た。どこのメーカーのものかわからない。大叔父はマシンの下に何か敷物を敷いて、大事にしているのがよくわかる。パソコンのスクリーンには、いくつかのアイコンが並んでいる。フォルダーらしきアイコンもいくつかある。
「大叔父さんはパソコンを使えるようになったんですね」
「そう…。そうそう、涼ちゃんがパソコンを教えてくれたことがあったな。これで文を書いたりできるようになったよ」
「それはよかったです」涼介は嬉しかった。「他にも色々できるようになったんですね」
「そうだよ、これとか…。画像の処理とか、難しいな」
「見せてもらえますか」
手を伸ばしてマウスに触った涼介はハッとした。
ー ん? この感触…。僕の手のこの感触は…。
涼介はマウスから手を離し、両手を開いて見つめた。以前、何かが…あった。
涼介は右手をそっとパソコンのディスプレーに向けて差し出してみた。スクリーン上にぼやけた黒い丸が現れた。
涼介はゆっくりと右の人差し指をディスプレーの上で回して行く。すると黒丸がその動きに合わせて動く。意識して強く回そうとすると黒丸が大きくなる。指をさらにスクリーンに近づける…
ああ、これは!
涼介は目を見開いた。長い間忘れていた感覚と不思議な力だ。手で直接触れていないのに、テレビや、テレビゲームのスクリーンに奇妙なことが起こる。
「あれ? 見てよ、これ。すごい!」
大威張りで親に見せたら、親は驚愕の表情を示し、叱責した。
「やめなさい!」
両親が激しく叱ったので涼介は驚き、シュンとなった。それからの涼介は彼の「不思議な力」を人に見せないようになった。それでも夜、一人になった時にテレビゲームを無茶苦茶な展開にして遊んだりした。
しかし何時ごろのことだったか、その力は消えてしまった。今の涼介にはわかる。小6の時に始められた『訓練』のせいだ。あの訓練で涼介らはいじくりまわされた挙句、この密かな力を奪われてしまったのだ。わずかな自衛能力だけを残して。
今、その力が戻ったのだ。
頭の中に教官の怒鳴り声が響いた。
「君らは行動に細心の注意を払わないといけない。意味がわかるか? うっかりして友達や周りの人を傷づけることがあってはならないんだ。鋭い刃物を持ったら大胆になってはいけない。とことん臆病になることだ。意味がわかるか? わからなくても、俺の言っていることは忘れるな」
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