苛烈なひとよ、忍に愛を

鉄永

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1章

第一話

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 目の前の柔らかな肉に指を沈ませる。
 すると嬌声が甲高く響き、上総かずさは思わず眉を顰めた。
 きっとあいつはこんな声はださんだろうな、と思ったからだ。
 すると、今しがた喘いでいた女が上総をねめつける。

「旦那様、別の女のことをお考えですね」

 手が止まっておりますよ、と女が口をとがらせる。
 上総はその言葉に、少し笑う。
 そして、謝罪を口にする代わりに、自分の下にいる女を抱え込んで自分の上に座らせた。
 女は感じ入ったような声を出して、上総の首に腕を回す。
 上総は軽く女を揺すりながら、耳孔に言葉を吹きかけた。

「花街の女がよう言うわ。その口、明日には別の男の上で囀っとるくせに」
「そんないけずなこと、…は、あ…言わんでくださいな」

 女は熱く湿った吐息を漏らす。
 上総は女の反応に昂りを感じながらも、どこか冷静だった。
 目の前の女が、自分の求める人間であれば。
 そうすれば、自慰のような虚しさは感じないのだろうか。
 自分の女々しい思いに自嘲する。
 けれど、所詮、自分は男である。
 目の前の女の腰を掴み、その虚に欲望をねじ込む。
 上総は寂しいと告げる自分の感情を、快感で塗りつぶした。


***


 真木まきは、いつものように目を覚ました。
 まだ日も上がりきらず、冷たい空気に手指を擦らせる。
 外に出て適当な手ぬぐいに水がめの水を含ませ、顔を拭う。
 余分な皮脂が落ちる感覚にほう、と息を吐く真木は、次の瞬間、殺気を感じて飛びすさった。
 タンッという音と共に、先ほどまで立っていた真木の足元にクナイが刺さる。

「おはよ、真木ちゃん」
「物騒な挨拶ですね。伊津いつさん」

 真木がクナイの飛んできた方向を見ると、一人の女が出てきた。
 伊津と呼ばれた女は、地面に刺さったクナイを引き抜き、くるくると手の中で回す。

「真木ちゃんの色んな顔を見てみたいだけよ。昔から全然動じないんだもの」
「そんなことないですよ。驚きました」

 真木は少し微笑んでみせる。
 真木と伊津は山間にある野得やえと呼ばれる里に暮らす、くのいちであった。
 里に住むのは、とある領主が集めた孤児たちで構成された忍である。
 真木と伊津も、そうだった。

「それで、わざわざ私の顔を見に来ただけではないんですよね?」
「ご明察。上総様が真木ちゃんのことを城にお呼びですって」
「城に、ですか?」

 上総は、この村を作った領主であり、真木たちの当主だった。
 上総の暮らす城は山を越えた先にある。
 真木たちに命令が下されるときは、伝令役の者が村まで伝えに来る。
 そのため、直接指名され、城に呼ばれることは稀だ。
 だから、真木は驚きと共に、遂に来たか、という気持ちで伊津に礼を言う。
 時が来たのだ。
 真木は高揚感に身震いをした。


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