苛烈なひとよ、忍に愛を

鉄永

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1章

第二話

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 襖の奥へ「真木です。参りました」と告げると、中から「入れ」と声が聞こえる。
 部屋へ入り、中央まで進むと、真木は膝をついた。

「面を上げよ」
「は」

 真木は伏せていた目線を上げる。
 部屋の奥には、男が一人。
 髪を雑に結び、上等な着物をだらしなく着流している。
 この男が、真木の主人であり、この国の領主たる、男。
 上総かずさだ。
 上総は真木を見て、にやりと笑みを浮かべる。

「久しいな、真木。前に顔を見かけたのは、花見の頃か」
「はい。一年ぶりでございます」
「寄れ、もっと。そんな遠くちゃ、声を張り上げにゃならんだろ」
「承知致しました」

 真木は音を立てないように移動し、上総の座る上段の間の少し手前で腰を落とす。
 しかし、真木の止まった位置に、主人は不満げに鼻を鳴らした。

「わしを歩かせる気か?」

 上総は持っていた扇子で、自身の前の床を叩く。

「ここまで来い」
「…は」

 少し戸惑いながら、真木は上総に近寄った。
 互いの着物が擦れるほどの距離に、真木は目線をどこにやればよいか分からなくなる。
 そんな真木の顎を、上総は扇子でつい、と上げた。

 鼻先三寸。
 吐息のかかるような距離で、真木は上総の強い眼に射すくめられる。
 真木は目の端に映る上総の髪色に、意識を逸らせた。
 上総の髪色は、一般的な黒ではなく、枯葉の色が混じったような、少し赤みがかった色をしていた。

 記憶より鮮やかなその色を、真木はぼんやり眺める。
 上総も、真木の顔を堪能しているようだった。
 しばらくして、嬉しそうに目を細める。

「相変らず、眩しい瞳じゃな。…海を超えた先の色をしておる」
「恐れ入ります」

 真木は、人とは違う、緑がかった目の色をしている。
 印象に残りやすい特徴のため、忍の真木は喜ばしいとは思ったことは無い。
 だが、上総が気に入るのならば、その瞳を嫌いにはなれなかった。

「…昔は不躾にも、目線を外さん奴だったな」

 くっくっと上総が笑いをこぼす。

「よくもまあ、躾が行き届いたもんじゃ」
「お恥ずかしい限りで御座います」

 自身の幼少期を思い出し、真木は苦笑する。
 感慨深いものだ、もう七年前になる。
 その間、上総の言うように、真木は里で”躾けられた“。

「…で、その躾の結果、お前は、わしの隣で働けるくらいまで成長したんか?」

 そう。今日、真木が上総に呼ばれたのは、昔話に花を咲かせるためではない。
 真木が、一人前の忍になったかどうかを、判断してもらうためだ。

 真木と上総は七年前、約束をした。
 一人前になったその時、真木は上総の懐刀として働くのだ、と。
 その約束は、真木がいままで生きてきたことの、全てだった。

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