苛烈なひとよ、忍に愛を

鉄永

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1章

第六話

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 そして始まる一日だが、予定通りに事が進むことはほとんどない。
 上総は、気に入らなければすぐに予定を変更するのだ。
 家臣の話が冗長だから、公務を止める。
 天気が良いから、早駆けに出かける。
 とにかく気分屋だった。
 それでも、領主としての手腕は確かだ。

「わしの役目は決めることであって、長々と無用な説明を聞くことではない。わしがやることは指の先で「良い」か「悪い」かを示すだけじゃ」
 
 とは、上総の言い分である。
 しかし、予定の変更のために調整で家臣たちは走り回らねばならない。
 城は毎日忙しなかった。
 バタバタと人が行き交う廊下を、真木は眺める。
 そんな真木に、軽やかな声がかかった。
 
「大変みたいね」

 真木は声の方へ振り向く。
 見慣れない女中を引き連れて、ゆっくりとこちらへ向かってくる女性。

「これは…仁波になみさま」

 真木は顔をほころばせる。
 彼女は仁波といい、上総の妹である。
 現在は他国の領主の元へ嫁いで暮らしている。
 婚礼の日に、真木は仁波の護衛を仰せつかり、その際に仲良くなったのだった。

「お久しぶりでございます。本日はどのようなご予定でしょうか」
「ちょうどお養父様がここへ使いをやるという話だったから、付いてきたのよ」
「左様でございましたか」

 仁波は、真木が控えていた部屋にちらりと目をやる。
 襖の閉められた大広間。
 中では、仁波の言う“使者”と、上総、そして家臣が一堂に集まり、話をしている。
 普段は開け放たれている襖が全て閉められている物々しい雰囲気に「なんだか物忌みみたいね」と仁波は肩をすくめた。

「最近は暗い話題ばっかり。民が反乱を起こしただの、どこそこが戦だの…。もっと明るい話をしてほしいものだわ」

 仁波は溜息をつく。
 そして、思い出したようにパッと顔を上げて真木を見た。

「そうだ、真木。あなたいい人はいないの?」

 真木は今朝の上総との会話を思い出し、苦笑した。
 よりによって、日に二度も色恋沙汰の話を振られるなんて。
 しかも、こんな叩いても埃しか出ないような女の自分に。

「私は、上総様にお仕えしておりますので」
「あら、それとこれとは話が別よ」

 そこで言葉を切って、仁波は少し寂しげに笑う。

「誰かに懸想けそうするくらい、本人の自由じゃない」

 その言葉に、真木は目を伏せる。
 仁波は、この城に好きな相手がいた。
 その男は冬也といい、今も上総の家臣として働いている。
 冬也も、仁波に好意を寄せていた。

 しかし、この国の姫である仁波は、国と国との政略のために生きねばならなかった。
 婚礼当日に人知れず泣いていた仁波を、真木は思い出す。
 きっと仁波は、まだ冬也のことを想っているのだろう。


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