苛烈なひとよ、忍に愛を

鉄永

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1章

第九話

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 慌てて居住まいを正す男たちに、上総は笑う。

「良い、良い、そのままで。真木は別嬪じゃからの、振られたら悔しかろ」

 上総はどかりと男たちの間に腰を下ろした。

「それに、今は酒の席よ。多少の羽目は外してもらわんと困るくらいじゃ」

 トクトクトク…と男のお猪口に酒を注ぎ、「な」と上総は笑う。
 男たちはほっとした表情で肩の力を抜いた。
 
「まあ確かに、真木にはいつも裏方をさせとるからな。真木もそこに座れ、遊びじゃ」

 上総の言葉に、真木は頷いて静かに腰を下ろす。

「さっきまでやっとったんは…ああ、銭投げか。あの酒杯が的じゃな」

 銭を投げて、酒杯に入った数を競う、簡単な遊びだ。
 上総はふむ、と顎に手をやる。
 そのまましばらく考えてから、上総は何かを思いついたような表情になる。
 そして、隣の男に肩を回した。

「お前、的になれ」
「え」
「上を向いて、口を開けていろ。お前があの酒杯じゃ」
「い、いやいや、上総様。ご冗談を」

 ははは、と男は笑う。
 上総もそれにあわせて笑う
 しかし、回した腕は離れなかった。

「座れ」
「あの…」

 男が冷や汗をかき始める。
 上総は笑顔を消して言った。

「二度言わせるか」

 男は、逆らえなかった。
 「申し訳ありません」と震え、少し離れた位置に腰を下ろす。

「ほれ真木、わしが先行、お前が後攻じゃ」

 ちゃりちゃりと手の中に3つ、銭を握らされる。
 さて、わしは強いぞ、と上総は銭を投げる動作をする。
 周囲の男たちは、複雑な顔をして顔を見合わせた。
 しかし、止める者はいない。

 真木は手の中の銭を眺める。
 あの男に恨みはない。
 けれど、ここでやらないのも、上総の機嫌を損ねそうだ。
 銭を握りなおす真木を見て、上総は「よし」と笑った。

「やるぞ」

 そいっ、と掛け声一つ。
 上総が銭を投げる。
 銭は低い軌道で、男の喉仏に当たる。
 男が呻き、上総は笑う。

「はは、難しいな」

 もう少し上か、と言い、上総は銭を放る。
 二投目は高く弧を描いてから、男の目元に当たった。
 咄嗟に顔をそむけた男に「的が動いてどうする」と上総は野次を飛ばす。

「次が最後じゃ。…動いたら殺す」

 上総が狙いを定める。
 三投目。
 男の口に入る軌道を描く銭に、真木はとっさに持っていた銭を投げる。
 カチンと音を立て、銭は床に落ちた。

 シン、と沈黙が広がった。
 上総は真木を見る。
 
「申し訳ありません、手が滑りました」

 真木は上総の目を見つめ返して、静かに言う。

「…」

 数秒黙ってから、上総は「ははは」と笑い出した。

「妨害を禁じてはおらんからな。してやられた」

 しばらくクスクスと笑ってから、よし、と膝を叩き、上総は腰を上げる。

「興が冷めた。後は好きにせい」

 お猪口に残った酒を平らげ、上総は息を吐く。
 そして、真木を見て、言った。

「真木、昼間の返答を聞いとらんかったな。今夜はお前がわしの相手をするか?」
「…はい」
「なら来い」

 歩き始める上総に、真木は銭を床に置く。
 そして、男たちに「失礼します」と手をつき、挨拶を一つ。
 異様な空気の広間を後にした。

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