苛烈なひとよ、忍に愛を

鉄永

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2章

第十四話

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 真木は繰り返し夢に見る。
 上総の乗る馬の背に、一緒に乗せられた記憶。
 馬の背は高くて、恐ろしくて、真木は馬にしがみつくように乗っていた。

「それじゃ蛙のようだぞ」

 笑う上総に、真木は頬を膨らませる。

「か、かえるじゃない。まきは、まき…です」
「なら、たてがみを持って体を起こせ、まき」

 後ろから襟元を引かれ、真木は体を起こされる。
 不安定になる座り心地に、真木は「ヒッ」と怯えた声を上げ、目をつぶる。

「心配せんでもわしが支えてやる」

 上総は苦笑して、真木の身体を足で支えてやった。
 少し安定して、真木はそろそろと目を開ける。
 歩き始めて、スピードを上げる馬の背にしばらくいると、真木はすぐに慣れた。
 肩の力を抜いて、改めて馬を見る。

「うま、大きい、ね」
「口を閉じんと舌が無くなるぞ」
「え」

 慌てて口を閉じる真木の素直な様子に、上総はころころと笑った。
 そうして、真木が馬の上でうとうとと船を漕ぎはじめたころ。
 「ついたぞ」と上総に起こされ、真木は目を擦る。

 そこは、小さな集落だった。
 何人かの人間が家から出てきて、上総たちを迎える。
 真木は馬から降ろされ、軽く背を押された。

「今日からお前はここで過ごすんじゃ」
「ここ?」
「おう。…しばらくわしには会えんだろうが、迷惑をかけんようにな」
「え⁉」
「ん?なんぞ不満か?」

 てっきり上総と暮らすのだと思っていた真木は、驚いて上総の服を引く。

「はたらくの、は…?」
「…そうじゃな」

上総は真木の前に膝をつき、目線を合わせた。


「お前が直ぐにわしの隣で働くには、いささか知らんことが多すぎる」
「そんなことない、です。ま、まき、お洗濯も、ご飯も、できる…」
「字の書き方は?刀の扱い方はどうじゃ。馬の乗り方も知らんじゃろう」

 先ほどまで上総に支えられてやっと馬に乗れた真木は、何も言い返せなかった。

「…はい…」
「じゃから、しっかりわしの隣で働けるように、ここでまずは修練じゃ」
「しゅうれん」
「そう。お前が上手く修練を行えるように、そいつらがおる」

 上総は集落の人間たちを顎で示す。

「そいつらの言うことを、わしの言うことと思うて、しっかり聞け」
「…うん」

 上総の強い眼差しに、真木は口を結ぶ。
 その顔を見つめていた上総が、ふっと目を細めた。
 真木はその表情の意図が読み取れず、首を傾げる。

「まぶしい、の?」
「…ああ。お前の目が、眩しくてな」

 上総の言葉に「え」と真木は慌てて目を閉じる。

「まぶしいと、目が悪くなるんだよ」
「…そうかもしれんな」
「そうだよ」
「でも、目を瞑ったら、お前さんはわしが見えんじゃろ」
「…」
「ほれ、開けてみい」

 そうっと目を開ける真木の目には、微笑む上総の顔が写った。

「わしの顔を、しっかり目に焼き付けろ。どこにおっても、わしを見つけられるようにな」


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