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2章
第十八話
しおりを挟む上総は強い。身体能力も高い。
会議そっちのけで乗馬や肉体修練にいそしんでいただけのことはある。
だが、今の上総には武器がない。
それに、既に体力は大きく消耗している。
防具も無いので、一度でも当たればひとたまりもない。
息が上がり、上総はじりじりと追いつめられていく。
「初めて弱い者の立場になって、どうです」
「ああ、最悪の気分じゃ」
そう言いながら、上総は歯をむき出して笑う。
まるで獣のようだ、と冬也は苦々しい顔をした。
「…あなたに、あと少しでも慈悲の心があれば。…いいえ、妹君を見捨てた時点で、あなたは悪鬼羅刹の類に違いありませんが」
「群れは、強い長と共通の敵がおらんと、固まれん」
追い詰められながらも、上総は冷静だった。
「わしはわしのやり方でそれをした。それが人でなしのやり方だと言われるのは、結構。…じゃが、お前のやっていることは、いたずらに、第二第三の仁波を増やすだけじゃ」
「強さだけにこだわったあなたに、言われたくはない!」
冬也が振るった刀が、上総の体を掠める。
上総は患部を抑え、膝をつく。
「終わりです。あなたの言葉で言うなら「最後に残るものが正しい」」
「…ああ」
冬也は、迷いなく、刀を振り下ろす。
上総は目を閉じた。
しかし、次に上総の耳に聞こえたのは、何かを貫く音と、カシャリという、刀を取り落とす音だった。
上総は、ゆっくりと顔を上げる。
「…人の生き死に、正しさなどありません」
冬也の胸から飛び出る、切っ先。
口から血を吐き出し、冬也が膝をつく。
その背後にいたのは、真木だった。
「ま…きぃ…」
「申し訳ありません、冬也様」
真木は肩で息をしながら、冬也を見下ろす。
「おま、えも…どうせ、すてられる、ぞ」
「それでも…拙にとって大切なのは、冬也様ではなく、上総様なのです」
冬也は口を開きかけたが、そのまま、何も言うことは無かった。
どさりと地面に転がる。
ぴくぴくと数度痙攣し、数秒。
冬也は、動かなくなった。
真木は冬也が動かないことを確認して、上総の前に膝をついた。
「上総様、ご無事ですか」
「…無事に見えるか」
「申し訳ありません」
上総は「ふ」と少し笑った。
「冗談じゃ。…大事無い、ようやった」
「いえ…」
「…阿呆じゃの。そいつも、わしも」
「…」
上総は冬也を眺める。
そして、真木に視線を戻した。
「行くか、真木」
「はい」
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