掌編小説まとめ

椿叶

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薔薇の吸血鬼

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 吸血鬼は薔薇の蜜を吸って生きる。人間の血は美味だが彼らの愚かさが伝染ると、偉人が言ったのがきっかけで、血を求め彷徨う吸血鬼は減った。ある者は薔薇の蜜が至高の美味なのだと自信に暗示をかけ、ある者は血に似たワインを飲み、文化的で空腹な日々を凌いでいた。
 薔薇にほんの少し口付ければ蜜は吸える。薔薇の園は花弁の前に跪く吸血鬼で溢れる。しかしその日は薔薇の花に上品に触れる者はおらず、少女ひとりだけがそこにいた。
 唇を薔薇の色に染め、ひきちぎり噛みちぎった赤薔薇の上に座り込んでいる。
「お腹がすいたの。薔薇の蜜を吸い続けた吸血鬼を食べれば、たくさんの薔薇の蜜を吸ったことになるでしょう?」
 零れた息には鮮やかな血が混ざって、端から花弁に変わっていく。
 あなたのことも食べさせてね。その言葉が、耳に残る最後だった。
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