掌編小説まとめ

花籠しずく

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宝石の涙

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 涙が宝石になるという少女の身体には、酷い傷跡がいくつも残っていた。その傷跡のひとつひとつをなぞりながら理由を問えば、彼女は無表情に「いちいち覚えていない」と答えるのだ。
 僕は宝石なんて要らなかった。確かに光り輝くそれはうつくしいのだろうけれど、僕は彼女の本当の涙が見たかった。雪の降る外を眺めながら二人で寄り添って、皮膚と皮膚を溶け合わせている時のほうが、よほど価値がある。しかし彼女は己の存在意義に宝石を作ることしか知らず、色とりどりの鉱物を差し出してくるのだった。
 ある日僕が差し出された薄桃色の水晶を口に含むと、砂糖菓子のように溶けていった。
 幸せの味がする。僕の言葉に、彼女はやっと本物の涙をみせた。
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