文筆家殺人事件

花籠しずく

文字の大きさ
1 / 3

しおりを挟む
 ええ、はあ、わたくしが血まみれでいた理由でしょうか。旦那様を抱き起した際に、それはもう、ひどく血がついたもので。旦那様は、ごくごく普通にお茶を飲んでいまして、そのお茶はわたくしが女中のりんに淹れさせたものだったのですが、そのお茶を飲みました途端に、ひどい痙攣を起こしまして。あまりにも苦しそうで、気の毒で、介錯して差し上げようと思ったのでございます。介錯して差し上げることは、何か悪いことでしたでしょうか? その割には随分落ち着いている、とおっしゃいますが、そう言われましても、わたくしも一体何が何やら……。巡査さまも慌ててやってきて、おもてなしする間もなく、こうして、仁王立ちで見下ろされているわけですから。わたくしも混乱している最中ですし、そもそも、旦那様とは仲が良好とは言えませんでしたので、今すぐ悲しめと言われましても、困ります。泣き叫べば納得してくださるのなら、泣き叫ぶことも出来ますけれど。巡査さま、それでは納得してくださらないでしょう? 死体とお茶を調べるのでしたら、どうぞ、ご自由に。でも、りんに乱暴なさるのはよしてくださいね。りんはとてもよく働いてくれていますし、わたくしが生家から嫁いだ後も、ずっとわたくしに優しくしてくれたのです。旦那様を殺してしまえば、わたくしは露頭に迷ってしまうでしょう? 明治になったと言えども、女一人で稼ぐことは叶いませんし、旦那様を立て、子を産み、子を立派な跡継ぎにするために女は存在するのですから、男なしに女は生きていけなければ、名を挙げることも叶わないのです。それなのに、りんがわざわざ旦那様を殺そうとするはずがないでしょう? 余計なことを疑うのはよしてくださいませんか。りんは血を見て、ひどく顔を青ざめさせて、しばらく気を喪っていたのですから、そっとしておいてやってほしいのです。できれば、わたくしが手ずからお世話してあげたいくらいなのですが、巡査さまとお話をしなければなりませんし。他の女中も、騒動のおかげで気の毒ですし、息子も息子もまだ外から帰ってきていませんから、ここは家を守る役目の女が踏ん張らねばならないはずなのですが、どうにもできませんので。とにかく、りんをそうっとしてやってくれるのであれば、わたくしを調べるのは、どうぞご自由になさってくださいまし。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜

桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。 上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。 「私も……私も交配したい」 太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。

新人メイド桃ちゃんのお仕事

さわみりん
恋愛
黒髪ボブのメイドの桃ちゃんが、働き先のお屋敷で、旦那様とその息子との親子丼。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

処理中です...