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結章
結章 第二部 第五節
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射干玉の
夜半の寝覚めの
朧月
花 踏む 鬼の 名を問わば
夢幻と こたふなり
□ ■ □ ■ □ ■ □
嫡流祖語句の歌声は小さかったが。
ティエゲは、閉じていた目を片方だけ開けた。それを横滑りさせて、デュアセラズロ―――彼女にとっては―――を見やる。
夜。王都王裾街に間借りした、ティエゲの私室である。秘密裏ながら大陸連盟員としての派出所を兼ねることもあるので、そこいらにプライベートな品物が投げ出されているわけでもない―――どころか、椅子や机などの家具から衣服のような生活物資まで、無個性かつ地味な事務向けの作りをしている。それでも我が物顔でそこに居座り、窓からの月明かりに照らされた横顔に頬杖を突いて寛ぐ彼の様子はひどく自然で、しっくりと溶け込んでいた。部屋自体があっさりと家主を乗り換えたようにも感じられて、それがどことなく落ち着かず、彼女自身は壁を背に二メートルばかり距離を置いて佇んでいたのだが。
(こんなとこで、どんだけひとり職場してきたと思ってんのさ。だってのに、この裏切りモンめ)
部屋―――の中でも彼の掛けた机と椅子―――に逆恨みを刺し終えると、ティエゲは嘆息した。
そうだ。逆恨みでしかない。まっとうに恨むなら、デュアセラズロ当人が筋というものだろう。彼女がここにこうしている抜本からして、彼に原因があると言っても過言ではない。彼が失踪しなければ、大陸連盟は指名手配をかけることはなかった……同様に彼女も、落ちぶれるとはいえ単身で辺鄙な辺境まで足を伸ばす境遇に甘んじるほどトチ狂いはしなかったはずだ。
テュアセラズロという名には、毀誉褒貶が付き纏う……軽はずみにディエースゥアーと揶揄する外様者から、実際に人生を狂わされて冗談にもならない転落を遂げた内部関係者まで。どちらかと言えばティエゲも後者ではあるものの、泡を食って同盟背反罪を適用するような立場でもなかったし、間柄となると立場よりも説明しづらい。傍観者的に経歴を説くなら簡単だ―――少なくとも、伝説としてならデュアセラズロの人生はありふれたパターンの範疇と言える。最短かつ最年少で魔術と学業を極め、五グレードほど飛び級してからはティエゲの同級生となった。扱いづらい曲者揃いのクラス内では模範的な優等生に属していたが、それはしょせん教師を小馬鹿にしての慇懃無礼の裏返しでしかなく、事実として彼は上層部からの期待や圧力よりも独自のルールを率先するところがあった―――それにしたって年端もいかないうちに忽然と雲隠れするとは、誰ひとり思いも寄らなかったろう。彼女自身ですら、そうだった。
だからこその懸念が消えずにいる。認めて、ティエゲは重苦しい呼気を上塗りした。分かっている。懸念に基づくならば、このまま胸に秘めてしまえばいい……ならば、色々と済ませておきたい庶務があると言い逃れて留まり続けたりせず、いっそのこと二人して大陸連盟まで直帰してしまえば踏ん切りもつく。だが、のろのろと燻り続けて、こうして数日。分かっている。同盟背反罪で指名手配を受けた当時ならいざ知らず、上層部の人間関係や権力闘争が様変わりした現在において、帰参した彼がどのような役割を誰から采配されるのか見通しが立たないとしても、ティエゲが干渉できない範囲の気がかりという意味では、ドロンしてくれた端緒から一向に変わらない。直帰してしまえばいい。分かっている。布地に解いた正装と、切ったデュアセラズロの髪を売り飛ばしたおかげで、差し当たっての路銀も心配なくなった。直帰してしまえる。分かっている。短くしてから癖をひどくさせ始めた蓬髪を押さえるように、額にひと巻きにした革紐―――黒髪に紛れてしまって分からないが、その紐に編み込むようにして結わえた宝石は、きっと学生の頃と同じようにデュアセラズロの左耳の裏にあるのだろう。手首で折り返した手套の陰にポケットを設えて隠し持つ常套手段を、彼は嫌っていた。そもそも日常的に手袋をすること自体、不衛生だと嫌っていた。だから今、屋内では素手でいる……夜欠銀の指円環だけを、右手の中指に纏って。それくらいには、彼のことも分かっている。
(そうだね。分かってる)
分かり切ったことだ。藪をつついて蛇を出すのは愚かしい。藪は避け、棒は杖にすればいい。賢く生きていくのは楽なことだ。
だからこそ―――億劫ではあったが。ティエゲは、デュアセラズロの様子に……音を上げた。わざとらしく、この国の風土らしい言葉で。
「上機嫌だね」
「不機嫌になる理由ないもの」
こちらに合わせてか、彼からの返事もまた嫡流らしくなくなっていた。ついでのように、訊いてくる。
「ティエゲにはあるの?」
「そうね」
肯定の意味で、前のめりに首を折る。小さく―――肩を落とすように。
「ただし、あたしの機嫌じゃない。あんたの機嫌を損ねることが、ある……多分」
「―――へえ?」
デュアセラズロが、頬杖をやめて身を起こした。椅子に座したまま、部屋の奥にある窓から差し込む月光を背負うような角度で、ティエゲへと向き直る。後光を受けて影に埋没させた目鼻の中から、漆黒のはずの瞳を湖面のように青く煌めかせて、その眼光よりも冴え冴えと温度を下げた声音を差し向けてきた。
「教えてくれる?」
―――自分で蒔いた種だとしても。開けていた片目を閉じて、ティエゲは観念した。
「……話しづらいから、屋上に出ようか」
「先行ってるね」
言うが早いか、デュアセラズロが立ち上がった。そして踵を返すと、窓へ向かう。無論のこと硝子などない、夜になると雨戸を下げるだけの、粗末な四角い穴だ。そして、
「予てより語る破れ目をくぐれ、汝‘子爵’ジュサプブロス」
あっさりと魔神を現出させる―――人型に、だ。編んだ長髪を海蛇のようにうねらせた奥で、悪戯っぽい瞳をにたつかせた、薄着の青年……と、目が合った。ような。
のみならず。ほぼ同時だった。
「君は息―――口遊む息、編み紡ぐ歌星まで渡る」
あっさりと重力制御の魔術を編み上げて、両者とも窓から飛び出すまま上空へ飛翔した。この部屋は二階建て建築の、二階部分だ。夜更けに素面で街路を行く者もいないだろうし、目撃されたところで夢でも見たと思ってくれるだろう。連盟員たる練成魔士の悪癖で、ティエゲが相手に譲った服の上下―――机より椅子より先に呪詛を向けるのを忘れていた―――も頑丈な長袖のズボンにシャツと、外套さえ羽織れば旅路を行けるような機能性重視の縫製をしている。宙返りするくらいでは、糸が解れることすらなかろうが……
「―――いつだって先行くくせに。なぁによ今更」
聞こえない悪態は吐いて捨てるだけにして、ティエゲは背中で壁を蹴り離した。
窓辺へ近づく。デュアセラズロに張り合うつもりもなく、窓を閉めた彼女は家主として真っ当に―――そうだとも、家主だ―――扉から出て鍵をかけた。そして、外付け階段の延長線のような、外壁煉瓦の凹凸を梯子のように踏んで屋上へ上がる。もとより室内で提灯も点けていなかった手前、夜目になっていたのだから、これくらいは造作もない。
四角い屋根の、ちょうど彼女の対辺に、デュアセラズロは立っていた。さっきいたティエゲの部屋の窓の真上だ。もちろん自分たち以外の人影はない―――人を模った魔神すらも。宝石の燐光を危ぶんで、封じたのだろう。その主といえば、角ばったところの目立たない少年のような横身をこちらにさらしながら、目線をはるか先の王冠城へと伸ばしている。この国の首都の街並みは、裾から襟にかけて、おしなべて夜間の照度が上がる……デューバンザンガイツは、ここしばらく特に明かりを焚いていた。雲間から垣間見える月よりもそれらしく白々と光り輝いている。
建物の縁をなぞるように壁のふちの上を歩きながら、ゆっくりとティエゲはそちらへと回り込んだ。
「デュアセラズロ」
「なに?」
「あたしが教えてあげられるのは、馬鹿の四パターン目」
そこで呼びかけを切ったのは、単に間合いを必要なだけ詰め終えたからだった。
彼の正面に立ちはだかって、手を伸ばせば触れることが出来る距離から、横槍を入れる。
「千里の馬も蹴躓く―――それを忘れてしまった、独り天下の弊竇」
「ふぅん。僕が過信から見当違いを起こしているって?」
神妙そうに応じて声を低めながらも、こちらへ向けられたデュアセラズロの眦は甘く弛んでいる。ゆくゆくは敗者となる者を憐れむ目だ。
後ろめたくはあったものの、ティエゲはそれを見返した。
「キルル・ア・ルーゼ後継第二階梯。彼女に傅いていたイーニア・ルブ・ゲインニャは、毒殺された。まず間違いなく、後継第二階梯を狙った暗躍に巻き込まれて」
「と、思うよ」
「どうして死傷者が、そんだけなのさ?」
「どうしてって。すぐに後継第三階梯が、彼女へ退避命令を―――」
「キルル・ア・ルーゼ後継第二階梯の身の回りじゃない。イヅェン・ア・ルーゼ後継第三階梯のそれについてだよ」
告げる。
「百歩譲って言って、手の施しようがない父親は死亡スタンバイ状態だったとしても。姉と違って、弟の身辺警護は一揃い固められてんでしょ? キルルさんが召し抱えていた下仕えですら毒牙に掛けられておきながら、イヅェンさんの下仕えどころか護衛の一人さえ無傷なのは何でよ? ア族ルーゼ家そのものが邪魔だと目されてるんならさ」
デュアセラズロの立ち居から、すっと余裕が抜けるのを感じた。表情ではない。顔色というわけですらない。敢えて言うなら、においのような空気感かもしれない。剣呑な刺々しさとは違う―――魚の小骨のように、やわらかな棘。
それは脆い部分に確かに刺さるし、傷口となれば膿むかも分からない。それでもティエゲは、推知を進めた。
「王城デューバンザンガイツに召し上げられたのは、父親・双子のきょうだい同時。死にかけの父親は、王権執行者としては抜け殻でしかない。それに続くキルルさん・イヅェンさんの階梯順位は、父親のヘマのせいで血が弱まっていると見做されたがゆえの、じゃあ強くしないとってだけの交配目的で女が上にあてがわれただけ。本来なら、どっちが上でも、おかしくないんだ。双子だからね」
「つまり?」
「ア族ルーゼ家そのものが標的とされての御家騒動なら、最低でも、双子同時に暗殺が持ち上がるはずよ。それがなかった。ってことは、これはイヅェンさんを王にという策略なんじゃないの?」
デュアセラズロが、ついに黙り込んだ。分からず屋の無言の抵抗のようにも見えたが、違う。
「現王は腑抜け。次期王は腰抜け。とくれば、抜け目なさげな文武両道の三番目が王位代行するまま玉座に就いてくれた方が都合いいって派閥が台頭して当然でしょ。もとより、ア族ルーゼ家にしたって、ふたりきりで階梯権利のみならず交配権まで独占されちゃ、利権の集中にしたって集まり過ぎだ。イヅェンさんが上位なら姉と結婚することもないし、だったら均等に王族から夫人を何人も召し上げることが出来る。そうすれば、ぽろぽろと羽かぶりを授けてくれる可能性が高まる。こっちの方が、血族としても政権としても安定するから、御の字だ。となると―――」
一気に畳み掛けることができなかったのは、息が続かなかったことだけが原因とは言い難かったが。
それでも訓練された身体なりに呼吸法を意識すると、動悸はそれなりに凪いでくれた。だからこそ、結論を遂げる。
「―――後継第一階梯は、後継第二階梯以上に、邪魔な存在になる。王の喪が明けて存在が公にされる前に暗殺される公算が、ひときわ高い」
と。
ティエゲは両手を腰のあたりで左右に広げて、肩を竦めてみせた。瞬きすら固まらせているデュアセラズロへと、もう一歩だけ踏み込んで、
「まあ全部が全部、あくまで推測。もしかしたら、イヅェンさんの方の騒ぎは、未遂で揉み消されたのかも分からない。派閥争いがあったところで、優秀な殿下の手によって、とうに鎮圧されていたとしてもおかしくはない。なにより……あんたの言ってた通り、基本的に、王家なら王城総出で守り抜いてくれる。それは間違いない。それでも、―――あたしなりに、言わせてもらうよ。デュアセラズロ。嘘なんて吐きたくないからさ」
間が空いた。
時間としては一秒あるかないか程度だったが、歩数としては……違う。デュアセラズロは三歩ほど後ろへよろめいて―――たったそれだけでショックを受け入れると、そのままその場で踏み堪える。そして苦々しく舌打ちを噛み殺すと、ティエゲの双肩の向こう側―――デューバンザンガイツへ、はっきりと底光りし始めた眼差しを注いだ。
「ティエゲの言う通りだとしたら―――まだだ」
「なにが?」
「約束が。まだだ。行かないと」
「やめなよ」
「なんで?」
「破ったっていいじゃん。約束くらい」
「嘘つき」
「うん。吐くさ。嘘くらい」
「吐きたくないって言ったのに?」
「うん。人間だもの。どれだって本心だよ。それを責められる?」
おどけるように、ティエゲは掌を上にした両腕を、肩の高さまで上げた。相手を抱きとめるように―――あるいは、十字架のように。まさかそれを気取ってのことでもなかったが。
それでもポーズを取ってしまえば、受け身に応じなければならない気がした。問いを投げかける―――こたえ続けてきただろう彼へと。それでも。彼女だから、続ける。
「約束って、なによ?」
「頼まれた」
「なにを?」
「頼む。そう言われた。シザジアフから。死にぎわに」
待つのだが。告白は継がれない。
信じられず、腕を下げながら唖然と反駁する。
「―――だけ?」
「そう。シザジアフは、死体すら残してくれなかった。だから僕も、これっきりしかない」
自明の理とばかり、よどみなくデュアセラズロは首肯した。
「死体すら……なんて、言えた口じゃないけどさ。きっと僕が、魔術で消し飛ばしてしまったんだろうから。三年前―――シザジアフから、あの子を受け取って、言いのこされた直後から……しばらく意識と記憶が無いんだ。どうも武装犯罪者の生き残りに後頭部を殴打されてから、リミッターが外れて暴走したみたいなんだけど。現場に追い付いてきた旗司誓の言に依れば、誰ひとり―――なんてレベルじゃなく、いったい何人いたのかすら分からないほど、原形を留めていなかったらしい。胃袋の倍数みつかった手足が奇数なのに頭部が偶数だから計算が合わないとか魘されてたっけ。合わないかなあ? 胃袋は知らないけど、そもそもどいつかこいつか元から片輪だったのかも知れないじゃない。でしょう?」
うっすらとしていた嘲笑―――その矛先を、今度こそ明確に己自身へと翻して、デュアセラズロは沈鬱の中で薄笑いを深めた。自傷しておいて痛がる無様さを、嘲ろうにも嗤えない……そんな苦みばしった険のある顔だ。
唖然とそれを眺めながら、つい疑問を募らせてしまう。デュアセラズロが後れを取ったという過去もそうだが―――どうしても、一連の事態を信じることができなかった。
「あんた、なんでそこまで、その……錆びた雲色の髪の―――シザジアフさんって人に、肩入れしてんのよ? 昔っから、なんでも出来たから、なんにも執着しなかったじゃんよ」
「一目惚れかなあ。言うなれば」
「え?」
「数え歌だよ。あるでしょう? 一目で始まり、二人は恋した―――僕だけだと思っていたのに、ふたりいたんだと知ってしまったから、知らなかった頃に戻れなくなった。だったなら、これだって一目惚れなんじゃないの」
さらりと例え話を済ませて、デュアセラズロが背を返した。くるりと踵を巡らせて、あてどなく暗がりを向く。
「ティエゲ。僕が君に残した最後の言葉、覚えてる?」
「忘れるもんか。覚えてるから、ここにいる」
憎らしいほどにあの頃と変わらないその横顔を、もどかしくも直視しながら。ティエゲは胸の奥深くから反芻したその独白を、夜気に乗せた。
「僕が人間に見えるか?」
デュアセラズロが、今は告白として、それを継いでいく。
「そう。僕は人間になりたかった。未知の……怪物の領域なら、僕を―――人から化けた死に神でも、人に化けたモノでも、なくしてくれるかもと。思いついてしまったから、僕は大陸連盟を出奔した。この影法師は誰だろうって、自分自身の影踏みをし始めた。ゼラと名乗り出したのはこの頃で、なんならゼラにアーギルシャイアやディエースゥアーなんて繋げる箔付けも、進んでしていた」
「あまりの胡散臭さで、虚実ないまぜに言い包めようとして?」
「そう。今にして思えば、思春期にしたって御大層な自分探しだったよ。十三歳か十四歳かの時だった」
「……あたしは落ちこぼれだったけれど、あんたは吹きこぼれだった。だから、あんたが行ってしまった時あたしは止められなかったし、あんたがいなくなっても あたしは大陸連盟に居続けた」
―――ふと自嘲がこみ上げて、どうしようもなく、ティエゲは吐露するしかなかった。
「両極なのに、おんなじ過ぎたね。あたしたち」
情けなくも、わらってしまう。それは、さっきのデュアセラズロのそれと同じようでいて、きっと別物なのだろうが。それでも痛んだのは同じところだと……そう思えた。
彼も、そうだったのかもしれない。そっと黙り込んで―――ティエゲの物思いから感傷が退くのを待って、会話を再開する。
「流浪する中で、デュアセラズロの再来という噂を耳にした。僕のように短期間で面妖な頭角を現した異端者がいるってね。その真贋を見定めようと、僕はこの国に入った。そして、ある組織でシザジアフとジルザキアの兄弟と知り合った……その時、僕は自分のことをゼラ・デュアセラズロ・アーギルシャイアってふれ回っていたから、接触を呼ぶのは易かったよ。本人たちにも異名の自覚はあったらしい」
「きょうだい?」
「彼らも、義兄弟でね。特にジルザキアは、ずば抜けていた。驚かされた……シザジアフのおまけで組織にいる馬の骨かと見縊っていたからさ。ふざけ半分で医療知識を横流ししたら、すんなりと頭の中で系統立てて理解して四手くらい先読みするどころか、治療手技まで我が物にしてくれた。テストキューブですら模造品ながら解いてみせたものだから、練成魔士として指南さえした。僕と同世代であそこまで突出した才覚は、大陸連盟でも見たことが無い。恐らくシザジアフは、野心ありきで組織に所属していたというよりか、一般社会から弾かれた弟を野放しにしておけなくて一緒にいたんじゃないかと思う……無論、それだけの理由で組織にいるなんてこと自体、とんでもない離れ業だけどね」
「そのシザジアフとジルザキアってのが、デュアセラズロの再来?」
「そう。しかも間が良いことに、僕は組織にモグリの練成魔士として雇われた。法外の値段を出してまでも……どうしても成功させなければならない密命があった。それが、妊婦ジヴィンの拉致だった」
「あの子の……シヴツェイア・ザーニーイの、お母さんね」
「そう。僕は、シザジアフと組まされた。ジルザキアはシザジアフに心酔していたから内心は反対していたのだろうけど、彼自身あまりに出来が良かったのが仇となって隊を分けられてしまったのさ。だからこその……事故が起きた」
「事故?」
「シザジアフは、ジヴィンに遭遇してしまった。僕はそれに……立ち会った」
「願ったり叶ったりじゃないの」
「願った。叶った。だけじゃなかった。奇跡が起きた」
「奇跡?」
「ふたりは恋に落ちた」
度肝を抜かれて目を丸くした拍子に、合いの手すら失くしてしまう。
ティエゲのそれを見て、当時の自分自身の様子でも記憶にぶり返したらしい。デュアセラズロが、場違いな柔和さで口許を綻ばせる。
「落ちたんだ。落ちてしまった。落とし穴だった―――掘ってあったところに、通りかかってしまった。偶然ね。運命かも知れない。だとしたら奇跡だけど、どうであれそれは事故。でしょう?」
そして種明かしでもするかのように、広げた両手をひらつかせてみせた。無論掌は空っぽだったが、なめらかな象牙色の肌が月光を受けて燐光を咲かせているので、ぱっと花でも開いたかのように感じる。夜欠銀の指円環だけが、花弁の虫のように……染みのように、ぽつんとそこに留まっていた。
「まあでもそれも、泡沫で終わってしまったよ。ザシャ・ア・ルーゼを筆頭として放たれていた刺客の一派が、ジヴィンを殺害すべく殺到してきた。僕とシザジアフで、返り討ちにしはした。けれど、騒動の余波でジヴィンは破水した。思えば、その時にはもう吹き矢のような暗器で毒でも射ち込まれていたんだろう。出産の只中で死んでしまった」
「シザジアフさんにゃあ、さぞかし この世の地獄だったろうねえ」
「それは、これからさ」
「え?」
「赤ん坊をたすける為に、ジヴィンの腹を裂いたのは彼だ。僕が……赤ん坊の身代わりになって死んでくれる、めぼしい新生児を探しに出た間に、彼は―――そうした。僕が持ってきたその新生児も、臍部から滅多刺しにした。臍の緒を偽装する為に」
絶句したのは、数秒で済んだ。
ただし通弁を取り戻すにはもう数十秒を要したし、それを乗り越えたところで躊躇いは払拭されなかった。幾度となく生唾を嚥下して、どうにか浅瀬から話に踏み込み直す。
「よく見つけたもんだことね。あんた。都合よく。生きてるにしても死んでるにしても……産まれたての、赤毛の赤んぼ」
「当時、国内は弩級の昏迷期だったからね。ジヴィンと間違われて殺される母子まで出てからは、自分だけでも逃げ延びようと堕胎する女は、相当数いたんだ。しかもこの国じゃ、赤毛なんて孤児院でも引き取ってくれないし。後ろ暗い廃品を投棄する場所なんてものは、お定まりのポイントが必ずあるものだよ……こんなの、草ぼうぼうの空き地に腕を突っ込めばポイ捨てされたゴミのひとつくらい掴めるだろうってだけの話さ。あ。あと、赤ん坊は生命兆候がある者を選別したよ。遺体の腐敗速度にズレを生じさせたくなかったからね。置き去りにしたあと野犬や鼠に都合よく食い千切られてくれるか不透明なんだから、検死に備えておくに越したことはない」
にべもなく冷評を遂げてくる冷血漢に、言いたいことは山ほどあった―――人道や道徳などといった、人間的にベーシックな代物まで含めたならば。ただし手遅れでないものとなると、これくらいしか残されていない。口に出す。
「……どうしてシザジアフさんは、そんなことを?」
「ゆびきりしたから」
「ゆびきり?」
「ジヴィンとシザジアフが交わした―――たった、それっぽっちの約束だよ。ジヴィンは弱い女だった。売られたから買われたし、言い寄られるまま身籠った。それを諦めていた。すべてに呑み込まれていた。だから、ひときわの奇跡を引き当てて絶望から解放された土壇場で、のぞんでしまったのさ。この子は……祝福されるかな、と」
立ち尽くしたまま、デュアセラズロが夜空を見上げた。
地上よりも高い場所で、それでも手が届かない先へ視線を馳せる。そうして彼がのぞむものが何なのか、それは分からない。星か、流れ来る星か―――天罰だったところでおかしくもない、としても……ティエゲは、ただデュアセラズロへ目を寄せていた。恐らくは彼が、シザジアフとジヴィンに心を寄せたのと同様の心地で。その間も、せりふは続行されていた。
「みんなから、世界から、神様から―――祝福されて生まれてくることを、ゆるされるかなと。その祈りに、ゆびきりをした。神様じゃないシザジアフは、ゆびきりをしたんだ。俺が祝福するひとり目になる、名付け親になる、その子の名前はシヴツェイア―――アで閉めれば、ジヴィンの綴りの後継者でも、きっと強い子に育ってくれると。誓って、ゆびきりをしたんだ」
「―――だから、って……おなかを裂いて、嬰児殺しまで」
「シヴツェイアは、神の御手に委ねてしまうなら、死出の旅路へと誘われていた。だからシザジアフは、天国から―――楽園から取り返す為に、ジヴィンの子宮を斬り、赤ん坊の臍帯を断った刃物を影武者の腹に差し込むしか……なかったんだ。その最後に、いみじくも彼は僕に呼びかけた。俺が人間に見えるか? ……―――」
デュアセラズロは、上半身は軽く空へと反らせたまま、眼球だけを傾けてティエゲを視界に入れた。
「人間になりたかった。だから彼は、組織をジルザキアごと裏切って……逃げた。未知の―――怪物の領域へ。子どもがいたから、父親になろうとした。僕も付いていくことにした。見届けたかった。僕も人間になりたかったから」
そして、姿勢を取り戻す。直立する。対峙する。失われた楽園ではなく―――だからこそ自分たちを孕んだ失楽園と。
彼はティエゲを正面に、ズボンに突っ込んでいた手袋を取り出した。それを左右に嵌めて、指の股まで密着させるべく、俯けた顔の下で己の五指同士をぎゅっと組み合わせる。それは―――
(まるで祈りの仕草じゃないか)
思う、のだが。
デュアセラズロだから、伏し目からの眼差しをそこへ触れさせて、物語るだけ。
「そうだよ。ここは独り天下。シザジアフは死んだ。僕だけでも……見届ける」
そこで彼は、両手を解いた。だらりとさせたようでいて隙の無い肢体、それとよく似合う息巻くでもない口調で、訥々と囁く。
「頼むと言われた。僕は後継者だ。シザジアフは、三年前にそれを成し遂げた。今度は僕の番だ―――だから、行く」
すべて聞き終えた。それを直感する。
ティエゲは―――
「しょーがないねー。行きゃんすか」
大息をつきがてら気楽に言ってのけて、その場で屈伸運動を始めた。しゃがんで立つを繰り返してから、首を回して腕まくりをする。
もちろん動作には景気づけの意味しかないし、魔術のバックファイアに備えるならば服の長袖は下ろしておくべきなのだが。盲点を突かれたと顔に書いてあるデュアセラズロを拝めたのだから、一本取ってやれた代価として道化のアクションを前払いする程度は安いものだ。
不良の若者のように股を割ってしゃがみ込み、首を捻ってデュアセラズロを見上げる。そうして間抜け面を存分に堪能してから、ティエゲは立ち上がった。前攻後衛を分担していた時と同じく、したり顔を決め込んで、片手を自分の腰に―――もう片手で、ぽんぽんと馴れ馴れしく相手の肩を叩く。嫌がらないと見て、そのままその肩口に引っ掛けた自分の手首を日干しの昆布のようにへらへらさせると、にやつかせた口許を寄せて耳打ちした。彼の襟首に吹き込むように。
「ゼラだかイェスカザだかアーギルシャイアだか、どんだけ我ぁ張ってたんだか知んないけど。ちょいとばかし離れてたくらいで、水クッサい生意気つべこべ抜かしなさんなっての。強情張るにしたって他人行儀だっつーのよ。弟の分際で」
「―――そうだね。ねえさん」
立て続けざまに えもいえぬ納得に呑まれたらしいデュアセラズロが、まるきり素直にこくりと頷いた。たじろぎもしない。あどけない子どものように。裏表なく。否応なく。
夜半の寝覚めの
朧月
花 踏む 鬼の 名を問わば
夢幻と こたふなり
□ ■ □ ■ □ ■ □
嫡流祖語句の歌声は小さかったが。
ティエゲは、閉じていた目を片方だけ開けた。それを横滑りさせて、デュアセラズロ―――彼女にとっては―――を見やる。
夜。王都王裾街に間借りした、ティエゲの私室である。秘密裏ながら大陸連盟員としての派出所を兼ねることもあるので、そこいらにプライベートな品物が投げ出されているわけでもない―――どころか、椅子や机などの家具から衣服のような生活物資まで、無個性かつ地味な事務向けの作りをしている。それでも我が物顔でそこに居座り、窓からの月明かりに照らされた横顔に頬杖を突いて寛ぐ彼の様子はひどく自然で、しっくりと溶け込んでいた。部屋自体があっさりと家主を乗り換えたようにも感じられて、それがどことなく落ち着かず、彼女自身は壁を背に二メートルばかり距離を置いて佇んでいたのだが。
(こんなとこで、どんだけひとり職場してきたと思ってんのさ。だってのに、この裏切りモンめ)
部屋―――の中でも彼の掛けた机と椅子―――に逆恨みを刺し終えると、ティエゲは嘆息した。
そうだ。逆恨みでしかない。まっとうに恨むなら、デュアセラズロ当人が筋というものだろう。彼女がここにこうしている抜本からして、彼に原因があると言っても過言ではない。彼が失踪しなければ、大陸連盟は指名手配をかけることはなかった……同様に彼女も、落ちぶれるとはいえ単身で辺鄙な辺境まで足を伸ばす境遇に甘んじるほどトチ狂いはしなかったはずだ。
テュアセラズロという名には、毀誉褒貶が付き纏う……軽はずみにディエースゥアーと揶揄する外様者から、実際に人生を狂わされて冗談にもならない転落を遂げた内部関係者まで。どちらかと言えばティエゲも後者ではあるものの、泡を食って同盟背反罪を適用するような立場でもなかったし、間柄となると立場よりも説明しづらい。傍観者的に経歴を説くなら簡単だ―――少なくとも、伝説としてならデュアセラズロの人生はありふれたパターンの範疇と言える。最短かつ最年少で魔術と学業を極め、五グレードほど飛び級してからはティエゲの同級生となった。扱いづらい曲者揃いのクラス内では模範的な優等生に属していたが、それはしょせん教師を小馬鹿にしての慇懃無礼の裏返しでしかなく、事実として彼は上層部からの期待や圧力よりも独自のルールを率先するところがあった―――それにしたって年端もいかないうちに忽然と雲隠れするとは、誰ひとり思いも寄らなかったろう。彼女自身ですら、そうだった。
だからこその懸念が消えずにいる。認めて、ティエゲは重苦しい呼気を上塗りした。分かっている。懸念に基づくならば、このまま胸に秘めてしまえばいい……ならば、色々と済ませておきたい庶務があると言い逃れて留まり続けたりせず、いっそのこと二人して大陸連盟まで直帰してしまえば踏ん切りもつく。だが、のろのろと燻り続けて、こうして数日。分かっている。同盟背反罪で指名手配を受けた当時ならいざ知らず、上層部の人間関係や権力闘争が様変わりした現在において、帰参した彼がどのような役割を誰から采配されるのか見通しが立たないとしても、ティエゲが干渉できない範囲の気がかりという意味では、ドロンしてくれた端緒から一向に変わらない。直帰してしまえばいい。分かっている。布地に解いた正装と、切ったデュアセラズロの髪を売り飛ばしたおかげで、差し当たっての路銀も心配なくなった。直帰してしまえる。分かっている。短くしてから癖をひどくさせ始めた蓬髪を押さえるように、額にひと巻きにした革紐―――黒髪に紛れてしまって分からないが、その紐に編み込むようにして結わえた宝石は、きっと学生の頃と同じようにデュアセラズロの左耳の裏にあるのだろう。手首で折り返した手套の陰にポケットを設えて隠し持つ常套手段を、彼は嫌っていた。そもそも日常的に手袋をすること自体、不衛生だと嫌っていた。だから今、屋内では素手でいる……夜欠銀の指円環だけを、右手の中指に纏って。それくらいには、彼のことも分かっている。
(そうだね。分かってる)
分かり切ったことだ。藪をつついて蛇を出すのは愚かしい。藪は避け、棒は杖にすればいい。賢く生きていくのは楽なことだ。
だからこそ―――億劫ではあったが。ティエゲは、デュアセラズロの様子に……音を上げた。わざとらしく、この国の風土らしい言葉で。
「上機嫌だね」
「不機嫌になる理由ないもの」
こちらに合わせてか、彼からの返事もまた嫡流らしくなくなっていた。ついでのように、訊いてくる。
「ティエゲにはあるの?」
「そうね」
肯定の意味で、前のめりに首を折る。小さく―――肩を落とすように。
「ただし、あたしの機嫌じゃない。あんたの機嫌を損ねることが、ある……多分」
「―――へえ?」
デュアセラズロが、頬杖をやめて身を起こした。椅子に座したまま、部屋の奥にある窓から差し込む月光を背負うような角度で、ティエゲへと向き直る。後光を受けて影に埋没させた目鼻の中から、漆黒のはずの瞳を湖面のように青く煌めかせて、その眼光よりも冴え冴えと温度を下げた声音を差し向けてきた。
「教えてくれる?」
―――自分で蒔いた種だとしても。開けていた片目を閉じて、ティエゲは観念した。
「……話しづらいから、屋上に出ようか」
「先行ってるね」
言うが早いか、デュアセラズロが立ち上がった。そして踵を返すと、窓へ向かう。無論のこと硝子などない、夜になると雨戸を下げるだけの、粗末な四角い穴だ。そして、
「予てより語る破れ目をくぐれ、汝‘子爵’ジュサプブロス」
あっさりと魔神を現出させる―――人型に、だ。編んだ長髪を海蛇のようにうねらせた奥で、悪戯っぽい瞳をにたつかせた、薄着の青年……と、目が合った。ような。
のみならず。ほぼ同時だった。
「君は息―――口遊む息、編み紡ぐ歌星まで渡る」
あっさりと重力制御の魔術を編み上げて、両者とも窓から飛び出すまま上空へ飛翔した。この部屋は二階建て建築の、二階部分だ。夜更けに素面で街路を行く者もいないだろうし、目撃されたところで夢でも見たと思ってくれるだろう。連盟員たる練成魔士の悪癖で、ティエゲが相手に譲った服の上下―――机より椅子より先に呪詛を向けるのを忘れていた―――も頑丈な長袖のズボンにシャツと、外套さえ羽織れば旅路を行けるような機能性重視の縫製をしている。宙返りするくらいでは、糸が解れることすらなかろうが……
「―――いつだって先行くくせに。なぁによ今更」
聞こえない悪態は吐いて捨てるだけにして、ティエゲは背中で壁を蹴り離した。
窓辺へ近づく。デュアセラズロに張り合うつもりもなく、窓を閉めた彼女は家主として真っ当に―――そうだとも、家主だ―――扉から出て鍵をかけた。そして、外付け階段の延長線のような、外壁煉瓦の凹凸を梯子のように踏んで屋上へ上がる。もとより室内で提灯も点けていなかった手前、夜目になっていたのだから、これくらいは造作もない。
四角い屋根の、ちょうど彼女の対辺に、デュアセラズロは立っていた。さっきいたティエゲの部屋の窓の真上だ。もちろん自分たち以外の人影はない―――人を模った魔神すらも。宝石の燐光を危ぶんで、封じたのだろう。その主といえば、角ばったところの目立たない少年のような横身をこちらにさらしながら、目線をはるか先の王冠城へと伸ばしている。この国の首都の街並みは、裾から襟にかけて、おしなべて夜間の照度が上がる……デューバンザンガイツは、ここしばらく特に明かりを焚いていた。雲間から垣間見える月よりもそれらしく白々と光り輝いている。
建物の縁をなぞるように壁のふちの上を歩きながら、ゆっくりとティエゲはそちらへと回り込んだ。
「デュアセラズロ」
「なに?」
「あたしが教えてあげられるのは、馬鹿の四パターン目」
そこで呼びかけを切ったのは、単に間合いを必要なだけ詰め終えたからだった。
彼の正面に立ちはだかって、手を伸ばせば触れることが出来る距離から、横槍を入れる。
「千里の馬も蹴躓く―――それを忘れてしまった、独り天下の弊竇」
「ふぅん。僕が過信から見当違いを起こしているって?」
神妙そうに応じて声を低めながらも、こちらへ向けられたデュアセラズロの眦は甘く弛んでいる。ゆくゆくは敗者となる者を憐れむ目だ。
後ろめたくはあったものの、ティエゲはそれを見返した。
「キルル・ア・ルーゼ後継第二階梯。彼女に傅いていたイーニア・ルブ・ゲインニャは、毒殺された。まず間違いなく、後継第二階梯を狙った暗躍に巻き込まれて」
「と、思うよ」
「どうして死傷者が、そんだけなのさ?」
「どうしてって。すぐに後継第三階梯が、彼女へ退避命令を―――」
「キルル・ア・ルーゼ後継第二階梯の身の回りじゃない。イヅェン・ア・ルーゼ後継第三階梯のそれについてだよ」
告げる。
「百歩譲って言って、手の施しようがない父親は死亡スタンバイ状態だったとしても。姉と違って、弟の身辺警護は一揃い固められてんでしょ? キルルさんが召し抱えていた下仕えですら毒牙に掛けられておきながら、イヅェンさんの下仕えどころか護衛の一人さえ無傷なのは何でよ? ア族ルーゼ家そのものが邪魔だと目されてるんならさ」
デュアセラズロの立ち居から、すっと余裕が抜けるのを感じた。表情ではない。顔色というわけですらない。敢えて言うなら、においのような空気感かもしれない。剣呑な刺々しさとは違う―――魚の小骨のように、やわらかな棘。
それは脆い部分に確かに刺さるし、傷口となれば膿むかも分からない。それでもティエゲは、推知を進めた。
「王城デューバンザンガイツに召し上げられたのは、父親・双子のきょうだい同時。死にかけの父親は、王権執行者としては抜け殻でしかない。それに続くキルルさん・イヅェンさんの階梯順位は、父親のヘマのせいで血が弱まっていると見做されたがゆえの、じゃあ強くしないとってだけの交配目的で女が上にあてがわれただけ。本来なら、どっちが上でも、おかしくないんだ。双子だからね」
「つまり?」
「ア族ルーゼ家そのものが標的とされての御家騒動なら、最低でも、双子同時に暗殺が持ち上がるはずよ。それがなかった。ってことは、これはイヅェンさんを王にという策略なんじゃないの?」
デュアセラズロが、ついに黙り込んだ。分からず屋の無言の抵抗のようにも見えたが、違う。
「現王は腑抜け。次期王は腰抜け。とくれば、抜け目なさげな文武両道の三番目が王位代行するまま玉座に就いてくれた方が都合いいって派閥が台頭して当然でしょ。もとより、ア族ルーゼ家にしたって、ふたりきりで階梯権利のみならず交配権まで独占されちゃ、利権の集中にしたって集まり過ぎだ。イヅェンさんが上位なら姉と結婚することもないし、だったら均等に王族から夫人を何人も召し上げることが出来る。そうすれば、ぽろぽろと羽かぶりを授けてくれる可能性が高まる。こっちの方が、血族としても政権としても安定するから、御の字だ。となると―――」
一気に畳み掛けることができなかったのは、息が続かなかったことだけが原因とは言い難かったが。
それでも訓練された身体なりに呼吸法を意識すると、動悸はそれなりに凪いでくれた。だからこそ、結論を遂げる。
「―――後継第一階梯は、後継第二階梯以上に、邪魔な存在になる。王の喪が明けて存在が公にされる前に暗殺される公算が、ひときわ高い」
と。
ティエゲは両手を腰のあたりで左右に広げて、肩を竦めてみせた。瞬きすら固まらせているデュアセラズロへと、もう一歩だけ踏み込んで、
「まあ全部が全部、あくまで推測。もしかしたら、イヅェンさんの方の騒ぎは、未遂で揉み消されたのかも分からない。派閥争いがあったところで、優秀な殿下の手によって、とうに鎮圧されていたとしてもおかしくはない。なにより……あんたの言ってた通り、基本的に、王家なら王城総出で守り抜いてくれる。それは間違いない。それでも、―――あたしなりに、言わせてもらうよ。デュアセラズロ。嘘なんて吐きたくないからさ」
間が空いた。
時間としては一秒あるかないか程度だったが、歩数としては……違う。デュアセラズロは三歩ほど後ろへよろめいて―――たったそれだけでショックを受け入れると、そのままその場で踏み堪える。そして苦々しく舌打ちを噛み殺すと、ティエゲの双肩の向こう側―――デューバンザンガイツへ、はっきりと底光りし始めた眼差しを注いだ。
「ティエゲの言う通りだとしたら―――まだだ」
「なにが?」
「約束が。まだだ。行かないと」
「やめなよ」
「なんで?」
「破ったっていいじゃん。約束くらい」
「嘘つき」
「うん。吐くさ。嘘くらい」
「吐きたくないって言ったのに?」
「うん。人間だもの。どれだって本心だよ。それを責められる?」
おどけるように、ティエゲは掌を上にした両腕を、肩の高さまで上げた。相手を抱きとめるように―――あるいは、十字架のように。まさかそれを気取ってのことでもなかったが。
それでもポーズを取ってしまえば、受け身に応じなければならない気がした。問いを投げかける―――こたえ続けてきただろう彼へと。それでも。彼女だから、続ける。
「約束って、なによ?」
「頼まれた」
「なにを?」
「頼む。そう言われた。シザジアフから。死にぎわに」
待つのだが。告白は継がれない。
信じられず、腕を下げながら唖然と反駁する。
「―――だけ?」
「そう。シザジアフは、死体すら残してくれなかった。だから僕も、これっきりしかない」
自明の理とばかり、よどみなくデュアセラズロは首肯した。
「死体すら……なんて、言えた口じゃないけどさ。きっと僕が、魔術で消し飛ばしてしまったんだろうから。三年前―――シザジアフから、あの子を受け取って、言いのこされた直後から……しばらく意識と記憶が無いんだ。どうも武装犯罪者の生き残りに後頭部を殴打されてから、リミッターが外れて暴走したみたいなんだけど。現場に追い付いてきた旗司誓の言に依れば、誰ひとり―――なんてレベルじゃなく、いったい何人いたのかすら分からないほど、原形を留めていなかったらしい。胃袋の倍数みつかった手足が奇数なのに頭部が偶数だから計算が合わないとか魘されてたっけ。合わないかなあ? 胃袋は知らないけど、そもそもどいつかこいつか元から片輪だったのかも知れないじゃない。でしょう?」
うっすらとしていた嘲笑―――その矛先を、今度こそ明確に己自身へと翻して、デュアセラズロは沈鬱の中で薄笑いを深めた。自傷しておいて痛がる無様さを、嘲ろうにも嗤えない……そんな苦みばしった険のある顔だ。
唖然とそれを眺めながら、つい疑問を募らせてしまう。デュアセラズロが後れを取ったという過去もそうだが―――どうしても、一連の事態を信じることができなかった。
「あんた、なんでそこまで、その……錆びた雲色の髪の―――シザジアフさんって人に、肩入れしてんのよ? 昔っから、なんでも出来たから、なんにも執着しなかったじゃんよ」
「一目惚れかなあ。言うなれば」
「え?」
「数え歌だよ。あるでしょう? 一目で始まり、二人は恋した―――僕だけだと思っていたのに、ふたりいたんだと知ってしまったから、知らなかった頃に戻れなくなった。だったなら、これだって一目惚れなんじゃないの」
さらりと例え話を済ませて、デュアセラズロが背を返した。くるりと踵を巡らせて、あてどなく暗がりを向く。
「ティエゲ。僕が君に残した最後の言葉、覚えてる?」
「忘れるもんか。覚えてるから、ここにいる」
憎らしいほどにあの頃と変わらないその横顔を、もどかしくも直視しながら。ティエゲは胸の奥深くから反芻したその独白を、夜気に乗せた。
「僕が人間に見えるか?」
デュアセラズロが、今は告白として、それを継いでいく。
「そう。僕は人間になりたかった。未知の……怪物の領域なら、僕を―――人から化けた死に神でも、人に化けたモノでも、なくしてくれるかもと。思いついてしまったから、僕は大陸連盟を出奔した。この影法師は誰だろうって、自分自身の影踏みをし始めた。ゼラと名乗り出したのはこの頃で、なんならゼラにアーギルシャイアやディエースゥアーなんて繋げる箔付けも、進んでしていた」
「あまりの胡散臭さで、虚実ないまぜに言い包めようとして?」
「そう。今にして思えば、思春期にしたって御大層な自分探しだったよ。十三歳か十四歳かの時だった」
「……あたしは落ちこぼれだったけれど、あんたは吹きこぼれだった。だから、あんたが行ってしまった時あたしは止められなかったし、あんたがいなくなっても あたしは大陸連盟に居続けた」
―――ふと自嘲がこみ上げて、どうしようもなく、ティエゲは吐露するしかなかった。
「両極なのに、おんなじ過ぎたね。あたしたち」
情けなくも、わらってしまう。それは、さっきのデュアセラズロのそれと同じようでいて、きっと別物なのだろうが。それでも痛んだのは同じところだと……そう思えた。
彼も、そうだったのかもしれない。そっと黙り込んで―――ティエゲの物思いから感傷が退くのを待って、会話を再開する。
「流浪する中で、デュアセラズロの再来という噂を耳にした。僕のように短期間で面妖な頭角を現した異端者がいるってね。その真贋を見定めようと、僕はこの国に入った。そして、ある組織でシザジアフとジルザキアの兄弟と知り合った……その時、僕は自分のことをゼラ・デュアセラズロ・アーギルシャイアってふれ回っていたから、接触を呼ぶのは易かったよ。本人たちにも異名の自覚はあったらしい」
「きょうだい?」
「彼らも、義兄弟でね。特にジルザキアは、ずば抜けていた。驚かされた……シザジアフのおまけで組織にいる馬の骨かと見縊っていたからさ。ふざけ半分で医療知識を横流ししたら、すんなりと頭の中で系統立てて理解して四手くらい先読みするどころか、治療手技まで我が物にしてくれた。テストキューブですら模造品ながら解いてみせたものだから、練成魔士として指南さえした。僕と同世代であそこまで突出した才覚は、大陸連盟でも見たことが無い。恐らくシザジアフは、野心ありきで組織に所属していたというよりか、一般社会から弾かれた弟を野放しにしておけなくて一緒にいたんじゃないかと思う……無論、それだけの理由で組織にいるなんてこと自体、とんでもない離れ業だけどね」
「そのシザジアフとジルザキアってのが、デュアセラズロの再来?」
「そう。しかも間が良いことに、僕は組織にモグリの練成魔士として雇われた。法外の値段を出してまでも……どうしても成功させなければならない密命があった。それが、妊婦ジヴィンの拉致だった」
「あの子の……シヴツェイア・ザーニーイの、お母さんね」
「そう。僕は、シザジアフと組まされた。ジルザキアはシザジアフに心酔していたから内心は反対していたのだろうけど、彼自身あまりに出来が良かったのが仇となって隊を分けられてしまったのさ。だからこその……事故が起きた」
「事故?」
「シザジアフは、ジヴィンに遭遇してしまった。僕はそれに……立ち会った」
「願ったり叶ったりじゃないの」
「願った。叶った。だけじゃなかった。奇跡が起きた」
「奇跡?」
「ふたりは恋に落ちた」
度肝を抜かれて目を丸くした拍子に、合いの手すら失くしてしまう。
ティエゲのそれを見て、当時の自分自身の様子でも記憶にぶり返したらしい。デュアセラズロが、場違いな柔和さで口許を綻ばせる。
「落ちたんだ。落ちてしまった。落とし穴だった―――掘ってあったところに、通りかかってしまった。偶然ね。運命かも知れない。だとしたら奇跡だけど、どうであれそれは事故。でしょう?」
そして種明かしでもするかのように、広げた両手をひらつかせてみせた。無論掌は空っぽだったが、なめらかな象牙色の肌が月光を受けて燐光を咲かせているので、ぱっと花でも開いたかのように感じる。夜欠銀の指円環だけが、花弁の虫のように……染みのように、ぽつんとそこに留まっていた。
「まあでもそれも、泡沫で終わってしまったよ。ザシャ・ア・ルーゼを筆頭として放たれていた刺客の一派が、ジヴィンを殺害すべく殺到してきた。僕とシザジアフで、返り討ちにしはした。けれど、騒動の余波でジヴィンは破水した。思えば、その時にはもう吹き矢のような暗器で毒でも射ち込まれていたんだろう。出産の只中で死んでしまった」
「シザジアフさんにゃあ、さぞかし この世の地獄だったろうねえ」
「それは、これからさ」
「え?」
「赤ん坊をたすける為に、ジヴィンの腹を裂いたのは彼だ。僕が……赤ん坊の身代わりになって死んでくれる、めぼしい新生児を探しに出た間に、彼は―――そうした。僕が持ってきたその新生児も、臍部から滅多刺しにした。臍の緒を偽装する為に」
絶句したのは、数秒で済んだ。
ただし通弁を取り戻すにはもう数十秒を要したし、それを乗り越えたところで躊躇いは払拭されなかった。幾度となく生唾を嚥下して、どうにか浅瀬から話に踏み込み直す。
「よく見つけたもんだことね。あんた。都合よく。生きてるにしても死んでるにしても……産まれたての、赤毛の赤んぼ」
「当時、国内は弩級の昏迷期だったからね。ジヴィンと間違われて殺される母子まで出てからは、自分だけでも逃げ延びようと堕胎する女は、相当数いたんだ。しかもこの国じゃ、赤毛なんて孤児院でも引き取ってくれないし。後ろ暗い廃品を投棄する場所なんてものは、お定まりのポイントが必ずあるものだよ……こんなの、草ぼうぼうの空き地に腕を突っ込めばポイ捨てされたゴミのひとつくらい掴めるだろうってだけの話さ。あ。あと、赤ん坊は生命兆候がある者を選別したよ。遺体の腐敗速度にズレを生じさせたくなかったからね。置き去りにしたあと野犬や鼠に都合よく食い千切られてくれるか不透明なんだから、検死に備えておくに越したことはない」
にべもなく冷評を遂げてくる冷血漢に、言いたいことは山ほどあった―――人道や道徳などといった、人間的にベーシックな代物まで含めたならば。ただし手遅れでないものとなると、これくらいしか残されていない。口に出す。
「……どうしてシザジアフさんは、そんなことを?」
「ゆびきりしたから」
「ゆびきり?」
「ジヴィンとシザジアフが交わした―――たった、それっぽっちの約束だよ。ジヴィンは弱い女だった。売られたから買われたし、言い寄られるまま身籠った。それを諦めていた。すべてに呑み込まれていた。だから、ひときわの奇跡を引き当てて絶望から解放された土壇場で、のぞんでしまったのさ。この子は……祝福されるかな、と」
立ち尽くしたまま、デュアセラズロが夜空を見上げた。
地上よりも高い場所で、それでも手が届かない先へ視線を馳せる。そうして彼がのぞむものが何なのか、それは分からない。星か、流れ来る星か―――天罰だったところでおかしくもない、としても……ティエゲは、ただデュアセラズロへ目を寄せていた。恐らくは彼が、シザジアフとジヴィンに心を寄せたのと同様の心地で。その間も、せりふは続行されていた。
「みんなから、世界から、神様から―――祝福されて生まれてくることを、ゆるされるかなと。その祈りに、ゆびきりをした。神様じゃないシザジアフは、ゆびきりをしたんだ。俺が祝福するひとり目になる、名付け親になる、その子の名前はシヴツェイア―――アで閉めれば、ジヴィンの綴りの後継者でも、きっと強い子に育ってくれると。誓って、ゆびきりをしたんだ」
「―――だから、って……おなかを裂いて、嬰児殺しまで」
「シヴツェイアは、神の御手に委ねてしまうなら、死出の旅路へと誘われていた。だからシザジアフは、天国から―――楽園から取り返す為に、ジヴィンの子宮を斬り、赤ん坊の臍帯を断った刃物を影武者の腹に差し込むしか……なかったんだ。その最後に、いみじくも彼は僕に呼びかけた。俺が人間に見えるか? ……―――」
デュアセラズロは、上半身は軽く空へと反らせたまま、眼球だけを傾けてティエゲを視界に入れた。
「人間になりたかった。だから彼は、組織をジルザキアごと裏切って……逃げた。未知の―――怪物の領域へ。子どもがいたから、父親になろうとした。僕も付いていくことにした。見届けたかった。僕も人間になりたかったから」
そして、姿勢を取り戻す。直立する。対峙する。失われた楽園ではなく―――だからこそ自分たちを孕んだ失楽園と。
彼はティエゲを正面に、ズボンに突っ込んでいた手袋を取り出した。それを左右に嵌めて、指の股まで密着させるべく、俯けた顔の下で己の五指同士をぎゅっと組み合わせる。それは―――
(まるで祈りの仕草じゃないか)
思う、のだが。
デュアセラズロだから、伏し目からの眼差しをそこへ触れさせて、物語るだけ。
「そうだよ。ここは独り天下。シザジアフは死んだ。僕だけでも……見届ける」
そこで彼は、両手を解いた。だらりとさせたようでいて隙の無い肢体、それとよく似合う息巻くでもない口調で、訥々と囁く。
「頼むと言われた。僕は後継者だ。シザジアフは、三年前にそれを成し遂げた。今度は僕の番だ―――だから、行く」
すべて聞き終えた。それを直感する。
ティエゲは―――
「しょーがないねー。行きゃんすか」
大息をつきがてら気楽に言ってのけて、その場で屈伸運動を始めた。しゃがんで立つを繰り返してから、首を回して腕まくりをする。
もちろん動作には景気づけの意味しかないし、魔術のバックファイアに備えるならば服の長袖は下ろしておくべきなのだが。盲点を突かれたと顔に書いてあるデュアセラズロを拝めたのだから、一本取ってやれた代価として道化のアクションを前払いする程度は安いものだ。
不良の若者のように股を割ってしゃがみ込み、首を捻ってデュアセラズロを見上げる。そうして間抜け面を存分に堪能してから、ティエゲは立ち上がった。前攻後衛を分担していた時と同じく、したり顔を決め込んで、片手を自分の腰に―――もう片手で、ぽんぽんと馴れ馴れしく相手の肩を叩く。嫌がらないと見て、そのままその肩口に引っ掛けた自分の手首を日干しの昆布のようにへらへらさせると、にやつかせた口許を寄せて耳打ちした。彼の襟首に吹き込むように。
「ゼラだかイェスカザだかアーギルシャイアだか、どんだけ我ぁ張ってたんだか知んないけど。ちょいとばかし離れてたくらいで、水クッサい生意気つべこべ抜かしなさんなっての。強情張るにしたって他人行儀だっつーのよ。弟の分際で」
「―――そうだね。ねえさん」
立て続けざまに えもいえぬ納得に呑まれたらしいデュアセラズロが、まるきり素直にこくりと頷いた。たじろぎもしない。あどけない子どものように。裏表なく。否応なく。
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