されど誰(た)が為の恋は続く

DNDD(でぃーえぬでぃーでぃー)

文字の大きさ
60 / 78
結章

結章 第二部 第四節

しおりを挟む
「―――シゾーさんが、ここまで来るわ」

 夜とはいえ、眠っていたのではなかったが。

 それでも閉じていた目蓋まぶたを上げたことに、眼前の少女―――キルルは、ほっとしたらしい。手前の床で四つんばいするような姿勢でこちらをのぞき込みながら―――昼間の格好とは違っていたものの、これもまたどっかりと地べたに胡坐あぐらをかけるようなものではないらしい―――、やや輪郭りんかく弛緩しかんさせる。部屋のすみひざを抱えるだけのうつむいた姿に変化が無かったから、少しであれ反応が見られたことが喜ばしかったのだろう。そんなことを他人事のように理解したのは……言われたことの方が、咄嗟とっさには理解できなかったからだ。

「シゾーさんが来るのよ。決まってるでしょう。あなたがいるからよ」

 小声で、口早くちばやに念押しされる。先を急ぐように、キルルは続けた。

「わたしはそれに協力し、あなたもろとも、そのまま行かせるつもりでいる。わたしの―――意志で。それを伝えに来たの」

 そして、ようやく自分が顔までも上げる頃には、キルルは立ち去ってしまっていた。俊敏しゅんびんな足取りで、どこかへ遠のいていく……靴底がきざむその音が聞こえる。

 それまでも聞き終える頃に、やっとのことで、思考が追い付いた。言われたことを、繰り返す。

(ここまで―――来る? 超えてくる? シゾーが?)

 繰り返して、思い浮かんだのは。

 現実感のない現実にお似合いの、ただひたすらな納得だった。疑う方が賢いに違いないのに、ただただ呑まれるしかない……納得の現実だった。

(はは。おじさん。あんたの息子は、身も心もでっかくなり過ぎだよ。雷雲かみなりぐもつきやぶって、霹靂へきれきふんじばりに来るんだと。馬鹿だなあ。どーせ感電させられて泣かされんのに、これっぽっちもりやしねえなあ)

 しどろもどろになることすら叶わない自分に、わらうしかない。

 それとて、のどの肉がひくつく程度だったが。そんなことすら久しぶりだったせいで軽く咳き込んで、ゆさゆさと揺れるむき出しの羽の感触を輪をかけて味わう破目はめになり、うつ々とした暗澹あんたんが一層に深まる。深まる、としても……それでも。

 今となっては、その絶望以外に、気付くことはある―――

(―――違うなあ。懲りてないのは、俺の方だ。シゾーが泣き虫なんて当たり前過ぎて気付きもしなかったけど……そうじゃなくて、俺が、泣かせないようにしなくちゃいけなかったんだ。俺が、変わらないとならなかったんだ。変わろうと―――決める番だったんだ。それを待ってくれていたシゾーに、俺だから……こたえないと、いけなかったんだ)

 自然と、言葉があふれていた。

「もう、疲れた―――のに、」

 ちっぽけなささやきは、残響すらせずにほどけて消える―――としても。

 それでも、そうし続ける。そう出来る限りは。ちっぽけなちから

「疲れ切ってしまった、はず、なのに……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

処理中です...