テューリンゲンの庭師

牧ヤスキ

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特異の入廷者

2-11

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「王妃様が呼んでいるわ。」

そう抑揚の無く、冷たい声色で放たれた言葉を背中にぶつけられたジェーンは後ろを振り返る。
侍女の先輩である女に全く物怖じしないどころか、より不機嫌さを含ませたジェーンは彼女を睨んだ。


ジェーンは入廷してから数日も経たないうちに、自分が周りに笑顔を振りまき媚び諂う意味も価値も無いと悟り、早々にそのふてぶてしい本性を晒していた。
その影響からか侍女達からさらに後ろ指を刺され一人孤立していた。


しかしジェーンはそれが気持ちいいくらい清々しい気分だった。


エリザベス王妃もジェーンのその変貌に早く気付き、屋敷で笑顔を振りまいていた彼女に一体何があったのか思考を巡らせてみたが、もしかしたらこれが今の彼女の本当の顔なのかもしれない、と様子を伺うことで落ち着いたようだった。


自分から混ざろうと思わず、一人何をしていようがどうということはないという、まだ幼さの残る性格はまだ十四のジェーンにとっては年相応なのかもしれなかった。



ジェーンは他の侍女達からジロジロと敵を見る目で睨まれながら、王妃の元へと歩み寄る。



「お呼びでしょうか、王妃陛下」


エリザベスは相変わらず優しげに目を細めてジェーンを見つめる。
ジェーンはその王妃の笑顔で余裕を見せつけてくるところや、常に上に立っているのだとその目で語る姿があまり好きではなかった。

いや好きではないというよりも、自分も知らない自分の中を見透かされているようで酷く落ち着かなかった。



「ごめんなさいね、急に呼び出してしまって。
昨日陛下が諸外国との会議から戻られる事は話したわね。」


「はい」


ジェーンは短く返事をして昨日の事を思い出した。


今、レグランド王はカスパルを含めた護衛軍の一部を引き連れて、同盟国との定例会議に出席するためルージッドの山岳にある教堂に出向いている。


そんな彼らが今晩に戻ってくる予定であることを王妃から言われたばかりだった。



「本当はご帰還が遅くなるという伝えだったのだけれど、とても早く話を切り上げたみたいで今日の夕方にはもう着くそうなの。
だからご帰還のパーティーを早めて、今晩開くことにしたのよ。」


「…さようでございますか。」



「そこで今日は、ナタリー、イブニス、
そして貴方をパーティーに連れて行こうと思っているの。」



ジェーンは思わず目を見開き王妃を直視した。
まわりで訝しげに見ていた侍女達も同じ反応のようだった。



ナタリー、イブニスは二人ともレグランド高名貴族の出身であり侍女の統括を行う古参であるためパーティーへの出席は必須だが、そこに突如新参のジェーンが一人抜擢されたことは周りに良い作用を及ぼす訳もなく、ジェーンを押しのけ、あれよあれよと侍女達は王妃に詰め寄る。



「し、失礼ですが王妃様?
わたくしの方がこの子よりも侍女としての責務は果たせているかとは思っていたのですが…」


「わたくしも同意見です!
それにこの子はまだ入ったばかりの身、作法もまだ備わっていない者を誰かの目に触れるのは同じ侍女として恥ずかしいですわ!」



わらわらと自分の言い分を告げる彼女たちを、後ろでどこか他人事のようにジェーンは聞く。
侍女達の申し出も全てごもっともだと思いながらも、小さい場所で必死に異議を唱える背中達は滑稽で笑そうになる。


王妃は困ったように笑いながら片手を上げた。


「やめてちょうだいな。
これはもう私が決めたことなの。
ジェーンに息抜きと、美味しい食事を食べさせてあげたいのよ。
この子の紹介もしてあげなくてはならないでしょう?」



ジェーンは思い切り顔を歪ませる。

王妃は皆が誰かしらを監視し合う夜のパーティーで、本当に息抜きが出来るとでも思っているのだろうか。
余計なお世話もここまでになると害だ、とジェーンは不機嫌さを隠しきれない。



周りの侍女達は王妃の言葉で反論を言えなくなり、複雑な表情でジェーンを無言で睨みつけた。

こうしてまたジェーンは標的になるのだった。
王妃の言葉と言動でたった今より孤立したというように、王妃はパーティーが楽しみねとジェーンを見つめて微笑んでいた。













その日の16時を少し過ぎた時に、宮廷の横にある護衛軍本部である塔の上の巨大な鐘が鳴り響いた。


レグランド王のご帰還だー!!

どこからか次々に上がるその声に王都の者や、宮廷に住まう者も働く者も皆一様に手を止めてその彼方へ視線を向けた。



シムも丁度ドリーから色々と話を伺った後でどうしようかと教会の前の庭だった場所に立ち尽くしながら考えているところに鐘の音が響き渡った。

王が帰還された。
この国の王とはどんな人なのだろうか、と想像をするも全く見当がつかなかった。


ただ思うことはこのような広大な国を治める王という人物は、きっと慈悲深く寛大で神に近いお方なのかもしれないという期待だ。




「カスパル、さん」

屋敷以来顔を合わせていない人物の名を不意に声に出してしまい、シムはたまらなく寂しい気持ちになってしまった。

こんなに寂しいと思うことはシムも初めてで、胸の奥のツーンとした痛みに眉を下げる。


いつか会えるのだろうか、この宮廷にいれば、いつかは。
と夕に傾く空に問いかけた。















 
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