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愛について
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しおりを挟む「お前が嘘をついてない証拠は?
俺たちを言い包めて人買いに売らないって誓える証拠はあるのかよ?」
卸屋の男が必死に馬を走らせてる最中、後ろの荷台でガタガタと揺られながら少年が敵意を剥き出しにしてくる。
荷台に積まれた様々な花に囲まれて座っている少年は敵意とは裏腹に、甚だ可愛らしい光景となってしまっていた。
卸屋の男は自分の後ろで花と一緒に座る少年とその弟、そして赤ん坊の方を振り返った。
「証拠なんかある訳ないだろ!
あんな所に突撃して逃してやった俺の偉大な優しさが十分な証だと思うけどな。」
卸屋の男も負けじと悪態を吐きながら道を進み続ける。
連れて来るんじゃなかったと、あの時の咄嗟の良心を途中何度か悔いたがそれは喉元まで出かかって飲み込んだ。
「お…おいこの道の先は北側だぜ!
危ない街だ、やっぱりお前俺達を騙したんだな…!
今すぐ降ろせ!
ラナダ、飛び降りるぞ。
俺の背中に乗れ!」
「ああもううるせぇな!
娼婦がそこら中でヤッてるだけで、俺といれば危なくねぇよ!
転がり落ちると車輪に巻き込まれて死ぬぞ!」
結局散々怒鳴り合いながら目的地まで辿り着いてしまった。
その騒音に驚いた娼館の店主であるユーゴがシャツにローブと言うシンプルな格好で飛び出してきた。
「ちょっと!
店の前で騒がないでくれる?!
…って何この子供達…、あんた保育園でも始めたの?」
花と一緒に子供達を運んできた卸屋の男を、主人ユーゴは非常に不憫な眼差しで見やる。
「馬鹿!んな訳ないだろ!
こいつらがシムと知り合いかも知れなくて、会いたいっつうから確認だけでもと思ってよ。」
そう言うと目の前のユーゴは溜息を吐いて腕を組んだ。
卸屋の男の後ろにいる子供達は先ほどから、垂れ目で優男の風貌をしたユーゴのことを非常に警戒した目で見ていた。
「おい、誰だあのカマ野郎は?」
少年は卸屋の男に問いかける。
少年にとってはこの様な雰囲気を纏う男は初めてだったらしく度を越して女らしい男と判断した様だった。
「はぁ?!カマ野郎じゃないよ俺は!」
少年から出た言葉だけ瞬時に心外そうに否定した後、卸屋の男にこちらに寄る様に片手をひらひらと動かしてみせた。
「生憎、あの子は今朝早くに帰ったんだよ。」
「本当かよ…!
こんなに危険なのに何で行かせたんだよ?!
て事は、あの怪我人は…?」
まさか主人ユーゴがシムをすんなりと帰す事は想定外だったらしく、卸屋の男は瞠目した。
「ああ、怪我人なら昨日目が覚めたんだ。
ショックなのか長く寝たきりだったからか、まだ声が出せないみたいなんだけどね。
杖を貸したらよぼよぼ動き始めたよ。
……シムの事は、俺には止められなかったんだよ。
ビシッとした目で帰るなんて言われちゃさ…。
きっとやることがあったんだろうね。」
「…そうか。」
卸屋の男と主人ユーゴが話している間を、赤ん坊を抱いている方の少年が割って入ってきた。
「なあおっさん達、ここにお前達のシムはいねえって事なんだろう?
そもそもシムって言ったって俺達が会いたかったシムだとは限らねえし。」
少年の足元に駆け寄ってきた弟らしき子供が兄にしがみ付いたまま同じく声を出した。
「シムは、やさしくてゆっくりしゃべってくれてニコニコしてるにいちゃだよ。
花もくれたんだよ!」
子供達の言い分を受け止めた大人二人は、お互いに目を合わせ再び子供達に視線を戻す。
「じゃあ多分昨日までここにいたシムで間違いないね。」
「ああ、あいつは庭師だからな。」
子供の言った特徴が、そのままユーゴも卸屋の男も思い当たる節がありすぎたため即答する。
その姿を少年は目を見開きながら受け止めた。
と言う事はいずれにしても昨日までいたシムはもうここにいないのだ。
そもそも何故宮廷庭師のシムが娼館などにいたのだろうか。
ふつふつと湧いて出る疑問をどう言葉にしていいか分からずしばらく押し黙った後恐る恐る口を開いた。
「じゃあ何であいつはこんな所にいたんだよ…?
…好きな女でも出来たのか?」
「ああ、そんなんじゃあないよ。
あの子が重症の怪我人拾ってきて、ここで匿ってあげる代わりに働かせてただけ。」
「…ユーゴ、じゃあ無駄足だったみたいだから花置いたらこいつら広場に戻しに行くわ。」
子供達に説明するユーゴの肩をポンポンと叩きながら卸屋の男はそう告げる。
それに対してユーゴも「ああ。」とだけ相槌を打ち、伝票にサインをするためのペンを取りに館に入ろうとした時、ユーゴのローブの裾を控えめに引っ張ってくる小さな手がある事に気づいた。
「ん?何?」
ユーゴが足元を見ると妙に嬉そうな目をした弟の方らしい子供が見上げていた。
「おじさん、母さんとおなじにおいがする!」
「…あ、あぁそう。
同じ香水でも使っているんじゃないの?
て言うかまだおじさんじゃないし。」
変に懐かれた様で苦笑いをしながら掴まれたローブをひらりと動かして手を離させた時、館の中からゴトゴトと何かが落ちる様な音がした。
ユーゴはすぐに館の入り口から顔を覗かせる。
すると、杖を付きながらバランスを崩し廊下でへたり込む怪我人がいた。
まだ完治には程遠く、骨も軋むのか非常に痛そうに顔を歪めている。
しかし必死に館の扉の方を一心に見ている。
「ちょっと…!無理しないでよ!
何かあったら俺がシムに怒られちゃう!」
慌てて駆け寄りユーゴは怪我人に肩を貸し起き上がらせる。
それでも怪我人は前に前にと進もうと力の入らない足を踏み出そうとしていた。
「おい!大丈夫かよ?」
少年もその騒ぎに、恐る恐る辺りを見渡しながら娼館の中から顔を覗かせた。
その瞬間、喋る事の出来なかった怪我人がユーゴの肩を借りながらも、くしゃりと顔を歪ませながら口を開けた。
「……レ、…ンっ……イ……!」
大粒の涙が何度も零れ落ちくぐもり掠れ切った声で何かを訴える。
怪我人に隣で肩を貸すユーゴは首を傾げながら様子を見るが、その二人の前にいた少年は二人を目にした瞬間瞠目し、そして似た顔立ちをくしゃりと歪ませた。
「っ父さん………!
父さんっ…!!」
子供達は一斉に怪我人へ駆け寄った。
ラナダは決壊した様に大粒の皆涙を流した。
「ばかぁ!どこ行ってたんだよ!!」
兄のレインも大きな声で捲し立てながらも、ふら付く怪我人、リゲルにひしと抱きついた。
「…はは、まじか…。」
卸屋の男は頭をかきながら驚いた様に子供達を見守る。
ユーゴも娼館通りでは見れる筈もない親子の感動的な場面に、おかしそうにそして優しげに微笑んだ。
そして館の死角となっている裏路地から様子を伺っていた灰色のマントの男、小風もまた怪我人の回復を知って、心から安堵したのだった。
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