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嵐の後に
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しおりを挟む「…ルージッドへの返還は勿論お約束します。
ただ、少しだけ時間をください…。」
セスは下を向き、絞り出す様に返答した。
「なぜだ!一刻も早く返還していただきたい。
それほど我々はカスパルの身を長く案じてきたのだぞ…!」
ルージッド国王が詰め寄るも、セスは俯いたまま目線を合わせない。
肩は少し震えてさえいた。
それはまるで自分の罪の重さにセスの身体が根を上げているようだった。
「それは……。」
セスは言い淀む。
しかし暫く何度か唾を飲み込み、決心した様に口を開いた。
「…俺は以前、護衛軍に所属していました。
軍の中では一番年下で、上司である隊長…カスパルさんにはよく面倒を見てもらっていたんです。」
「なんだと…?」
セスの独白に室内がざわつく。
小風も静かに、真剣にセスの話を聞いていた。
「結局、俺はカスパルさんを裏切る形で宮廷を抜け、反政府の指揮をすることになりました…。
カスパルさんは恐らく…俺が抱えていた事情も、抜けた理由も分かった上で…最後まで一人宮廷に残られた。」
セスの言葉は酷く震えていた。
ルージッド国王はわなわなと唇を振るわせると、激しく顔を歪ませてセスの元へと迫ると強く肩を掴んだ。
「カスパルを裏切っただと…!?
部下の立場でなぜそのような非道なことが出来たのだ!
そのせいで今あの子がこの渦中にいるのだとしたら、やはりそなたの所には置いておけない…!」
肩を掴まれ揺さぶられたセスは堪えていた涙が溢れてぼろぼろと豪奢な絨毯を濡らした。
「申し訳ありません…!
あの時は最善の選択だと思っていたことが結局全て間違っていたと気づくにはもう手遅れだったんです、
俺だって、隊長を裏切りたくなんてなかったんだ…本当に尊敬していたから…!!」
しゃくり上げながら悔しそうに何度も何度も涙をこぼして叫ぶ。
小風も立ち上がり、左手でルージッド国王の手を退けた。
「ルージッド国王陛下、私も話は聞いております。
護衛軍には既に裏切り者が潜伏していたのです、その裏切り者がセスに擦りつけてこの世を去っている。
彼はそういった事実は最初からなかったのだと言うように全てを背負ってカスパルの前から消える選択をした。
私はこれを間違っていたとは思っていません。」
「…しかし、あの子からしてみたら突然部下が裏切ったに過ぎないだろう。
カスパルは優しい子なのだ、どれだけ胸が痛んだか想像に容易い…。」
ルージッド国王は納得いかないようにため息を吐きつつ、悲しげに睫毛を震わせた。
セスはルージッド国王の言葉に更に涙を流す。
カスパルと過ごした平和な護衛軍での生活が思い出された。
優しく、時に厳しくセスを見守ってくれた。
剣技が上達すると頼もしい笑顔で誉めてくれた。
その思い出はセスの誇りだ。
「……分かっています、隊長はとてもお優しい方ですよね。」
セスの、懐かしむような、優しげに細められた涙に濡れる眼にルージッド国王は黙る。
本当にカスパルのことを大切に思っている目だと感じていた。
「俺はまだ隊長と話が出来ていないんです…。
いっぱい話がしたいんです、だからどうか少しだけ返還までお時間を頂けないでしょうか…?」
セスは涙を溢しながら深く頭を下げた。
小風も頭を下げる。
「カスパルは私の大切な友人でもあります。
私もカスパルと話さなきゃならないことが幾つもあるのです。
どうか、どうかお願いいたします。」
「……。」
ルージッド国王はただ悲しげに下を向いた。
皆心を痛めている。
その事実だけでもう十分だった。
「よかろう…、事情は分かった。
返還時期については適宜見定めるとしよう。
…それでいいな…?」
セスと小風は顔を上げ、安堵した様に息を吐いた。
「ありがとうございます…!」
会議終了後、セスと小風は客間に通された。
今日中にレグランドへ戻るのは厳しいため、本日はルージッドの王城に泊めてもらうことになった。
客間の扉が従者によって閉められると室内には小風とセスだけになった。
極度の緊張と、様々な感情ですっかり疲労困憊していたセスは二人だけになった途端、糸が切れた様にガクガクと足を震わせてその場にへたり込みそうになった。
「セス!しっかりしろ。」
小風は慌ててセスの脇腹に手を差し込み抱き締めて支えた。
セスは酷く震える手でなんとか小風の背中にしがみ付いて持ち堪える。
「…ごめん、ありが、とう。キンバリー…」
小風はセスを抱き締めて初めてセスがまだ少年を抜け切れていない細い身体であると気づく。
護衛軍で一番年下と言っていたセスは、まだこんな若さでイリスという重い責務を背負い、各国の国王女王たちと渡り合ったのかという感心と不憫さに胸が痛んだ。
「君はよくやったよ。偉いな。
今日はもう終わりだ、ゆっくり休もう。
ベッドまで行けるか?」
セスは何度か頷くも足に力は入っていない。
小風は軽く笑うと、身体を支えながらベッドへ一緒に向かった。
ベッドに腰掛けたセスは、その柔らかくあたたかい感触に安堵しつつも小風を見上げた。
「キンバリー、一緒にいてくれて本当にありがとう。
俺一人だけだったら挫けてた、今日も…暴動の時だって、」
小風は改めて礼を言うセスの頭を軽く撫でた。
それはまるで小さな子供にするような気楽さで。
「小風でいいよ。
それが僕の本名なんだ。」
小風は優しげに微笑んだ。
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