テューリンゲンの庭師

牧ヤスキ

文字の大きさ
165 / 171
嵐の後に

6-2

しおりを挟む




「…ルージッドへの返還は勿論お約束します。
ただ、少しだけ時間をください…。」


セスは下を向き、絞り出す様に返答した。


「なぜだ!一刻も早く返還していただきたい。
それほど我々はカスパルの身を長く案じてきたのだぞ…!」


ルージッド国王が詰め寄るも、セスは俯いたまま目線を合わせない。
肩は少し震えてさえいた。

それはまるで自分の罪の重さにセスの身体が根を上げているようだった。

「それは……。」


セスは言い淀む。
しかし暫く何度か唾を飲み込み、決心した様に口を開いた。


「…俺は以前、護衛軍に所属していました。
軍の中では一番年下で、上司である隊長…カスパルさんにはよく面倒を見てもらっていたんです。」

「なんだと…?」

セスの独白に室内がざわつく。
小風も静かに、真剣にセスの話を聞いていた。


「結局、俺はカスパルさんを裏切る形で宮廷を抜け、反政府の指揮をすることになりました…。
カスパルさんは恐らく…俺が抱えていた事情も、抜けた理由も分かった上で…最後まで一人宮廷に残られた。」



セスの言葉は酷く震えていた。

ルージッド国王はわなわなと唇を振るわせると、激しく顔を歪ませてセスの元へと迫ると強く肩を掴んだ。


「カスパルを裏切っただと…!?
部下の立場でなぜそのような非道なことが出来たのだ!
そのせいで今あの子がこの渦中にいるのだとしたら、やはりそなたの所には置いておけない…!」

肩を掴まれ揺さぶられたセスは堪えていた涙が溢れてぼろぼろと豪奢な絨毯を濡らした。

「申し訳ありません…!
あの時は最善の選択だと思っていたことが結局全て間違っていたと気づくにはもう手遅れだったんです、
俺だって、隊長を裏切りたくなんてなかったんだ…本当に尊敬していたから…!!」


しゃくり上げながら悔しそうに何度も何度も涙をこぼして叫ぶ。

小風も立ち上がり、左手でルージッド国王の手を退けた。

「ルージッド国王陛下、私も話は聞いております。
護衛軍には既に裏切り者が潜伏していたのです、その裏切り者がセスに擦りつけてこの世を去っている。
彼はそういった事実は最初からなかったのだと言うように全てを背負ってカスパルの前から消える選択をした。
私はこれを間違っていたとは思っていません。」

「…しかし、あの子からしてみたら突然部下が裏切ったに過ぎないだろう。
カスパルは優しい子なのだ、どれだけ胸が痛んだか想像に容易い…。」

ルージッド国王は納得いかないようにため息を吐きつつ、悲しげに睫毛を震わせた。

セスはルージッド国王の言葉に更に涙を流す。
カスパルと過ごした平和な護衛軍での生活が思い出された。

優しく、時に厳しくセスを見守ってくれた。
剣技が上達すると頼もしい笑顔で誉めてくれた。

その思い出はセスの誇りだ。



「……分かっています、隊長はとてもお優しい方ですよね。」

セスの、懐かしむような、優しげに細められた涙に濡れる眼にルージッド国王は黙る。
本当にカスパルのことを大切に思っている目だと感じていた。


「俺はまだ隊長と話が出来ていないんです…。
いっぱい話がしたいんです、だからどうか少しだけ返還までお時間を頂けないでしょうか…?」

セスは涙を溢しながら深く頭を下げた。
小風も頭を下げる。

「カスパルは私の大切な友人でもあります。
私もカスパルと話さなきゃならないことが幾つもあるのです。
どうか、どうかお願いいたします。」

「……。」



ルージッド国王はただ悲しげに下を向いた。
皆心を痛めている。
その事実だけでもう十分だった。


「よかろう…、事情は分かった。
返還時期については適宜見定めるとしよう。
…それでいいな…?」

セスと小風は顔を上げ、安堵した様に息を吐いた。

「ありがとうございます…!」















会議終了後、セスと小風は客間に通された。
今日中にレグランドへ戻るのは厳しいため、本日はルージッドの王城に泊めてもらうことになった。

客間の扉が従者によって閉められると室内には小風とセスだけになった。

極度の緊張と、様々な感情ですっかり疲労困憊していたセスは二人だけになった途端、糸が切れた様にガクガクと足を震わせてその場にへたり込みそうになった。

「セス!しっかりしろ。」

小風は慌ててセスの脇腹に手を差し込み抱き締めて支えた。
セスは酷く震える手でなんとか小風の背中にしがみ付いて持ち堪える。

「…ごめん、ありが、とう。キンバリー…」


小風はセスを抱き締めて初めてセスがまだ少年を抜け切れていない細い身体であると気づく。
護衛軍で一番年下と言っていたセスは、まだこんな若さでイリスという重い責務を背負い、各国の国王女王たちと渡り合ったのかという感心と不憫さに胸が痛んだ。

「君はよくやったよ。偉いな。
今日はもう終わりだ、ゆっくり休もう。
ベッドまで行けるか?」


セスは何度か頷くも足に力は入っていない。
小風は軽く笑うと、身体を支えながらベッドへ一緒に向かった。

ベッドに腰掛けたセスは、その柔らかくあたたかい感触に安堵しつつも小風を見上げた。

「キンバリー、一緒にいてくれて本当にありがとう。
俺一人だけだったら挫けてた、今日も…暴動の時だって、」


小風は改めて礼を言うセスの頭を軽く撫でた。
それはまるで小さな子供にするような気楽さで。


「小風でいいよ。
それが僕の本名なんだ。」

小風は優しげに微笑んだ。






 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【本編完結】処刑台の元婚約者は無実でした~聖女に騙された元王太子が幸せになるまで~

TOY
BL
【本編完結・後日譚更新中】 公開処刑のその日、王太子メルドは元婚約者で“稀代の悪女”とされたレイチェルの最期を見届けようとしていた。 しかし「最後のお別れの挨拶」で現婚約者候補の“聖女”アリアの裏の顔を、偶然にも暴いてしまい……!? 王位継承権、婚約、信頼、すべてを失った王子のもとに残ったのは、幼馴染であり護衛騎士のケイ。 これは、聖女に騙され全てを失った王子と、その護衛騎士のちょっとズレた恋の物語。 ※別で投稿している作品、 『物語によくいる「ざまぁされる王子」に転生したら』の全年齢版です。 設定と後半の展開が少し変わっています。 ※後日譚を追加しました。 後日譚① レイチェル視点→メルド視点 後日譚② 王弟→王→ケイ視点 後日譚③ メルド視点

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

拝啓、目が覚めたらBLゲームの主人公だった件

碧月 晶
BL
さっきまでコンビニに向かっていたはずだったのに、何故か目が覚めたら病院にいた『俺』。 状況が分からず戸惑う『俺』は窓に映った自分の顔を見て驚いた。 「これ…俺、なのか?」 何故ならそこには、恐ろしく整った顔立ちの男が映っていたのだから。 《これは、現代魔法社会系BLゲームの主人公『石留 椿【いしどめ つばき】(16)』に転生しちゃった元平凡男子(享年18)が攻略対象たちと出会い、様々なイベントを経て『運命の相手』を見つけるまでの物語である──。》 ──────────── ~お知らせ~ ※第3話を少し修正しました。 ※第5話を少し修正しました。 ※第6話を少し修正しました。 ※第11話を少し修正しました。 ※第19話を少し修正しました。 ※第22話を少し修正しました。 ※第24話を少し修正しました。 ※第25話を少し修正しました。 ※第26話を少し修正しました。 ※第31話を少し修正しました。 ※第32話を少し修正しました。 ──────────── ※感想(一言だけでも構いません!)、いいね、お気に入り、近況ボードへのコメント、大歓迎です!! ※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

処理中です...