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俺・今野浩紀は本日をもってめでたく退職する。
退職金もしっかり頂き、これからは年金ライフとなる。
妻もそのことはわかっているが、今日は俺のために “退職祝いパーティー”を開いてくれるそうだ。
いやぁ、俺はマジで働いた。あぁ、働いた。
『24時間働けますか?』とCMで言った時は俺はまだ若かったからなぁ。2徹くらいならイケたかもなぁ。
政府が退職年齢を引き上げた時は「マジかよ?!」と思ったけど、この度めでたく退職の65才。年金はもう貰っているのか?えーと、会社員として払っていた年金が返ってくるから、厚生年金か?その辺がよくわからないが、年金だ!年々額が減ってるらしいな。
ふっ、俺は見越して貯蓄もバッチリだ。
憧れの老年スローライフを満喫するんだー!
と、思ってたのにさぁ。何でだよ?俺が何かしましたか?神様仏様?どっちも信仰してないけど、困った時に頼りにするのは悪い癖だよな。
しかしだ!これは酷くね?俺はこれからスローライフを満喫するはずだったのに…。
ここはドコデスカ?非常に緑が生い茂っていて空気が澄んでいますね。ふと見ると近くにログハウスが。住人に話を伺おう。
どういうことだ?不用心も甚だしい!無人で無施錠!
近くに畑があったけど?畑の持ち主の持ち家じゃないのか?
俺はドキドキと鼓動が跳ねるのを感じた。
「いやぁ、悪いねぇ。本当は君の息子さんをこっちに送る予定だったんだけど、ずれちゃった」
誰?
「私は、うーん君の言う所の神様仏様ってやつ?」
軽い!
「お詫びに君に“神からのプレゼント”をあげよう」
この際、もらえるものは何でもいい。
「“能力・農業”」
俺の体が光った。
「えーとね。この力を使えば簡単に耕せたりするし、実りも早いはずだよ」
‘はず’って何?
「レベルが上がれば、もっと凄いことできるんじゃないかなぁ?」
神様仏様なら確実なこと言って欲しいものだと真に思う。
「そんじゃあねー」
あ、軽いノリであっさりとどっかに行った…。
あのログハウス使ってもいいのかな?実りがどうとか言ったけど、まずは種まくとか、苗植えるとかしなきゃダメじゃん。使えねー。
ん?俺、ちょっと若返ってるか?鏡がないからわからないが、長年苦しんでる腰痛がない!
これは…20代くらいの体になっているのでは?
************
その頃の今野家…
「親父、帰ってくるの遅くねー?」
「私は通帳に退職金が振り込まれるからいいのよ」
「かー、母さん。ゲンキンだなぁ」
「付き合い長いとねぇ」
翌朝も浩紀は帰ってこず。
「どこで何やってるのよ?」
「はぁ?親父だって男だもん。キャバクラ梯子してるかもしんないじゃん」
「どこにそんなお金…あ、退職金!」
「そういうこと~」
という親子の会話をされていた。
その翌日も帰ってこず。
「いい加減、おかしくない?どうしましょ?警察に連絡しましょうか?」
「警察沙汰かぁ。別にいいけど?」
そして俺は公開捜査となった。
「この場合、父さんの年金ってどこに振り込まれるのかしら?」
「親父の通帳じゃない?死亡じゃないし。行方不明だからなぁ」
などと言われていると俺は思いもしなかった。
****************
ログハウスにある鍬とか使っていいのかな?
【あはは、君の鍬だよ】
なんだ?神様の声が頭で聞こえるのか?
【正解!】
神様って似合わないし、別の名前を付けよう。
ベス 【却下、犬みたい】
セバスチャン 【却下、どこの執事ですか?】
ゴット 【却下、神を英語にしただけじゃん?】
…・・・【名付け下手だね…】
ハデス 【却下、負の神様じゃない?】
ポチ
タマ
……【却下、動物の名前シリーズ?】
ノークレーム 【よし、それにしよう。今日から俺はノークレーム!】
クレーム祭りだったけどな。
俺は農地になりそうな土地に鍬を振りかぶって…使ったんです。
一振りで、10メートルくらい耕せました。
なので五振りくらいで10メートルの畝が5つ出来ました!
これで種とか苗があればなぁ……。
【市場に行けば売ってるぞ】
で、その市場はどこに?俺は現金持ってた?
【市場の場所は俺が頭から案内する。現金?何を言ってるんだ?今は何でもカードで支払うもんだ】
カードにはどうやってお金を入金するんだ?結局現金持ち歩かないとダメじゃん。
【カードとカードでお金をやり取りするんだ。まだ何か?】
そのカードには無限にお金が入ってるわけじゃないだろ?って話だ。
【あぁ、仕事の価値をカードが勝手に計って算出して、カードに入れる。つまり、よい野菜を作れば作るほどお前の収入は増える】
わかりやすい。
そのようなやり取りをしながら、俺は市場に辿り着いた。
ぐうぅうぅぅうぅうぅうぅぅぅ――――
俺の腹が盛大に鳴った。そう言えば…食事という食事をしていない。
自慢じゃないが、俺は料理が下手だ!
【料理の仕方もサポートするけど?】
なんて素敵なノークレーム!ちゃんとした料理が俺に出来るようになるだろうか?
料理本がそばにあっても、肝心の料理の腕が悪ければ、美味しいものはできないが大丈夫なのだろうか?
【その体を俺に明け渡してくれれば、俺が料理するけど?】
ノークレーム万歳!!美味しい飯が食える!!
そのためにはまず市場で当面の食材を手に入れるのと、種と苗を買わないとなぁ♪
「この若い体に必要なのは…やっぱり肉だろう。タンパク質になって欲しいから、鶏肉は胸肉だな。バランスを考え、野菜も買わないとなぁ♪
肝心の苗と種!難しいなぁ。春に撒くものとかあるのか…」
【浩紀に渡した能力なら季節に関係なく実るはずだ】
あ、関係なく買おう。お金足りるかな?
こうして俺の初・市場は終わった。一部の男たちに目を付けられているとわからずに。ちなみにノークレームは気づいてたらしい。
俺は、早速畝に苗を植えたかったのだが、腹が減っては戦はできぬ!
ノークレーム!頼む!料理してくれ!
ノークレームは買ってきた食材を用いて、見るも美味しそうな、料理本から抜け出したような完成形を数種類作り出した。
流石です。流石ノークレーム!
俺はその美しい料理を完食し、洗い物をし(使いやすいキッチンだと思う)、早速畝に向かった。
【あー、収穫の季節に合わせて畝を変えるとわかりやすいんじゃないか?】
そうだよな。夏野菜畝とかか?
当初、ノークレームが言っていた通りに実りが早かった。
今は春だが、俺の畝では春夏秋冬の野菜が実りまくっている。
俺は、俺が食べる分を残して市場へと売りに行った。
ここに俺の店を出すのか、許可証とか必要じゃないのか?
【ゴメーン、浩紀が寝てる間に体を拝借して許可証はもらって来た】
なるほど、それで今朝はよく寝たはずなのになんか疲れてたのか…。もうそういうことしないでほしい。もしくは事前に言ってほしい。
俺は俺が作った野菜たちが傷つかないように、野菜を陳列した。
春野菜の列、夏野菜の列、秋野菜の列、冬野菜の列とわかりやすく並べた。
「ぜってーおかしい。なんでこの店は今は春だっていうのに秋野菜を置いてるんだよ?」
俺が作ったから。
「夏野菜なんてまだだろう?去年のか?もう腐ってんじゃないか?」
「酷い言いがかりですね?今朝採れたての新鮮ですよ」
と、俺は言っておいた。
【言いがかりを言ってきた奴らは近くで野菜を売ってる。浩紀が目障りなんでしょ】
なるほどね。そんなの勤続65年の俺には効かない。
「食べてみますか?美味しいですよ?ほら、このキュウリ」
キュウリをぽきっと折った。全く腐ってないことがわかる。キュウリは実りが一斉だから、一気に売ってしまいたい。一本無駄にしても痛くない。
「あら、すごく新鮮ね。他の野菜も新鮮なのかしら?」
「はい。私が今朝自ら収穫したものです」
「私はこの季節手に入らないと思ってたのよ~」
冷蔵庫ないのか?
【ないよ。あと年中出回らないし】
「うちは夏野菜を買いだめするわ。うち、息子が男兄弟なのよ~」
「あぁ、それは大変ですね。それではキュウリを1本サービスさせていただきますよ」
「まぁまぁ、若いのによくわかってるわねぇ。今後贔屓にさせてもらうわ」
「ありがとうございます!」
勤続65年の営業職は強かった。数時間もかからずに完売。
また、種と苗を買って帰ろう。
えーっと、今日人気だったのは夏野菜。
2番目が冬野菜かなぁ。変わり種で山菜とか?
ところで俺はどのくらい稼いだんだろう。ステータス画面を見た。
確か昨日買い物に行く時に確認したら、所持金は3,000Gだった。
今日見た。見てしまった!
674.327G
ふぇ?これは何だ?俺の1カ月の収入より多くないか?
【需要があったのと野菜が新鮮だったからね~】
ノリの軽いノークレームに言われるとそうなのかなぁ?と思ってしまうケド、夢か?
思う存分、苗と種と食材を買おう。
【冷蔵庫ないんだから、考慮してよ~】
そうだった…。恐ろしい世界だ。
帰ってきて俺は畝に向かう。
うーん数時間と経たずに完売してしまったならば、畝を増やした方がいいかもしれないな。俺が管理できる範囲で。
畝を5本から7本にした。2本増やした。
【微妙じゃない?10本にしたら?】
俺が管理できるかと思って。
【消極的だね~】
ノークレームがいうから10本の畝にした。取り高がこれまでの2倍になる。
種と苗を季節ごとに植え、ノークレームのミラクルご飯を食べて今日は休んだ。
翌朝、
俺は収穫に勤しんだ。というか、早く取らないと!という危機感でいっぱいだ。
大量に収穫し、この大量の野菜をどうやって市場まで運ぶのか思案していると、ノークレームより荷車をプレゼントされた。…自動車免許持ってるんだけどな。道がない。
荷車を押して俺が市場へと向かっていると、昨日のやつらが絡んできた。
「その野菜を大人しく寄越せ」
ヤダよ。と、俺は猛スピードで荷車を走らせた。
何なんだ?
【大方昨日野菜の収入少なかったから、浩紀が持ってる野菜で昨日の分まで取り返そうってハラじゃない?】
人の努力の上で胡坐かくのはよくない。っていうか破滅するよ。
猛スピードで荷車を動かしていたから当然のように、荷車の車輪が片方取れた。
そこに颯爽と現れるヒーロー!
「護衛料金は20,000Gだ」
ちょっと引く。まぁ、ヒーローだってボランティアじゃないし?わかるけど?
俺はカードをヒーローのカードと重ねた。
「毎度アリ♡」
「この野菜は正当な理由もなく貴殿に渡すわけにはいかない。よって、向かってくるなら斬るが?」
ヒーローは剣士のようだ。柄に手をかけた。
「いや、もういい。どうせその状態じゃ、市場に行けないだろうからな。ご愁傷様~」
そういって去っていった。
さて、ノークレーム、どうすればいい?
【ヒーローに聞いてみるといい】
「危ないところをありがとうございました。ところで、この野菜を市場に持っていけなくて大変困っているのですが、ヒーローたる貴方様なら何か手立てを知っているのでは?と思った次第です」
「追加料金10,000Gだな」
俺はまたヒーローのカードと重ねた。
「俺のこの袋は詰め放題なんだ」
なんと?!某有名アニメのポケットみたいな感じか?いいなぁ。
【あれが欲しいの?今度あげるよ】
「だからこの袋に好きなだけ野菜を詰め込むといいよ」
なんて便利グッズ。ノークレームも今度くれるって言うし、異世界万歳!
そんな訳で、俺はヒーロー付きで(また護衛料金請求された)市場に到着。
いつもの場所で、袋から鼻歌交じりで野菜をどんどん出していった。
「護衛ありがとうございました」
と、がめついヒーローに別れを告げて、俺は今日も野菜を売りまくった。
昨日の婦人も買いに来てくれて、常連さん確定かな?などと思っていた。
今日は2・3時間かけて完売。
売り上げは昨日の2倍だろう。
さて、今日も食材・種と苗を買って帰ろう。
そしてノークレームの夕飯を食べて寝た。明日も早い。
翌朝、畝を見た。
何てことだ。畝が荒らされている。どう見ても人為的な感じだ。
【仕方ないなぁ。傭兵雇ったら?畝の護衛に】
俺も思った。
仕方ないので今日は市場に食材と種と苗を買いに行って、帰った。
そして、畝を10本制作。
また、やりなおし。とはいえすぐに実るんだけど。
あと、冒険者ギルドという組織に畝の護衛を依頼した。破格の1晩100,000G。
かなりの猛者が飛びついてくれた。夕食・朝食付きだからね。
ギルドに行ったついでに俺は自分のカードを久しぶりに見た。
残金1378,738G うん、いつもすごいことになってるよね。
それよりも、ものすごいものを見た。
スキル 農業 気候調節
はぁ?“気候調節”―?
【ほら、農業やってると晴れればいいなとかあるじゃん。そういうのが自由自在。使いこなせるようになれば、ゴロツキに雷落とせるようになるよ】
軽い言葉で恐ろしい事を言うもんだ。と俺は思う。
確かに今晩は曇りだなぁ。晴れれば実りもいいのかなぁ?
などと思ってみた。本当に晴れた。偶然だろうか?
晴れると放射冷却で朝と昼の寒暖差が激しくなり、野菜の糖度があがる。
今日はノークレームが例のなんでもいくらでも入る袋をくれたので、それに野菜を入れるつもりだ。
袋の中に生き物が入っていないことを確認!ネズミとか入っていたら、最悪…。
確認すると何も入ってないことがわかり、安心してどんどん野菜を入れていった。袋の中で互いにぶつかることもないし、品質が下がることはない。この袋は本当に便利だと思う。
今度、果実もやってみようか?
互いにぶつかったりして痛むんだよなぁ。
今日は途中で盗賊に会った。
「その袋を置いていけ」
ヤダよ。中身もだし、袋も大事だ。
俺は試しに盗賊の男にピンポイントで雷を落とせるだろうか試した。
ピシャーンと盗賊の目の前に落ちた。
「あ、ちょっとずれた。まだコントロールが上手くいかないなぁ。どれもう一度…」
「悪い急用を思い出した!」
と、盗賊はいなくなった。まぁ、雷に当たりたくはないよなぁ。
あいつがスピーカーになって俺を狙う盗賊がいなくなることを願おう。
今日は結構時間かかったと思う。5時間くらいかなぁ?完売まで。
そうだ!果実に手を出そうかな?と思ってたんだ。
手始めにイチゴから始めようかな?
イチゴの苗も買って帰った。
イチゴ用に畝も作った。イチゴってどういう環境がいいんだ?昼と夜の寒暖差が大きい方がいいのか?ま、やってみるか。
翌日、
俺が作ったからか、超美味しいイチゴがこの季節にできた。これは価値がある!そう思いながら収穫しつつ袋に入れた。
市場での反応を見る。
「この季節にイチゴ?」
「はい。今朝俺が収穫しました。めっちゃ美味しいです。試食用のイチゴを食べます?」
「…!!」
驚くだろう。冬に出会うイチゴよりも美味しいんだよなぁ。俺も最初はビビった。
「私は1カゴ…いいえ、2カゴ貰うわ!!」
「いつもありがとうございます!何かサービスしたいんですけど、イチゴはまだレアなんですよ。キュウリで良ければ持っていってください」
キュウリ…生り過ぎだって。採っても採っても生るんだもん。
「アウトレットみたいなものはないの?B級品よ」
「お客様の期待には添えられません。傷つかずに持ってこれているので、そのようなものは無いんですよ~」
「う~ん、私は3カゴいただくわ。1カゴ食べて残りはジャムにするの」
「あ~、それでB級品を求めていたんですね。でしたら、探しますね。加工用で置きますよ」
「助かるわ、ありがとう!」
「いいえ、お客様の希望通りに動くのが商人です」
イチゴの反応はかなり良かった。ちょっとお高い値段設定だったのにも関わらず、かなり売れた。やっぱり、その場で試食できるのがよかったかな?あれは衝撃だよなぁ。
ジャムにできるシリーズでリンゴとかブルーベリー。お菓子にも使えるよでレモンとか柑橘系の木を植えようか。
長い目で見ないと実がなるまでは。イチゴみたいにはいかないよなぁ。
【そうだなぁ、1週間くらいかなぁ?】
早いよ。そのくらいで収穫できちゃうんだ。
俺は種・苗・苗木と食材を買って帰った。
種と苗は植えて、苗木については場所などを考慮しながら植えていった。
夕食を傭兵さんと食べ、俺は朝早いし、眠りについた。
1週間後、本当に実が生っている。
味を見てみた。マジで美味い。収穫を楽しくしながら俺はふと思う。
あれ?俺は働き続けてない?と。
とりあえず、生っている分は収穫し、今日も市場で売りまくった。
果実って売れるんだな…。あ、キズモノ。なかったんだよなぁ。
カードを見る。残金は余計な事をしなければ十分暮らしていける。
俺はスローライフで何をしたかったのだろう?
ゴロゴロ生活したかったのか?今みたいな生活だろうか?野菜を作って市場で売る。
腰を痛めてるオッサンにはきついと思う。
うん、今みたいな生活だな。きっと。出来ないだろうと思う。屈んで収穫とか腰を痛めてるオッサンにはきつい作業だ。なおかつスキルはない。
俺はこのまま生活していこうと思う。
退職金もしっかり頂き、これからは年金ライフとなる。
妻もそのことはわかっているが、今日は俺のために “退職祝いパーティー”を開いてくれるそうだ。
いやぁ、俺はマジで働いた。あぁ、働いた。
『24時間働けますか?』とCMで言った時は俺はまだ若かったからなぁ。2徹くらいならイケたかもなぁ。
政府が退職年齢を引き上げた時は「マジかよ?!」と思ったけど、この度めでたく退職の65才。年金はもう貰っているのか?えーと、会社員として払っていた年金が返ってくるから、厚生年金か?その辺がよくわからないが、年金だ!年々額が減ってるらしいな。
ふっ、俺は見越して貯蓄もバッチリだ。
憧れの老年スローライフを満喫するんだー!
と、思ってたのにさぁ。何でだよ?俺が何かしましたか?神様仏様?どっちも信仰してないけど、困った時に頼りにするのは悪い癖だよな。
しかしだ!これは酷くね?俺はこれからスローライフを満喫するはずだったのに…。
ここはドコデスカ?非常に緑が生い茂っていて空気が澄んでいますね。ふと見ると近くにログハウスが。住人に話を伺おう。
どういうことだ?不用心も甚だしい!無人で無施錠!
近くに畑があったけど?畑の持ち主の持ち家じゃないのか?
俺はドキドキと鼓動が跳ねるのを感じた。
「いやぁ、悪いねぇ。本当は君の息子さんをこっちに送る予定だったんだけど、ずれちゃった」
誰?
「私は、うーん君の言う所の神様仏様ってやつ?」
軽い!
「お詫びに君に“神からのプレゼント”をあげよう」
この際、もらえるものは何でもいい。
「“能力・農業”」
俺の体が光った。
「えーとね。この力を使えば簡単に耕せたりするし、実りも早いはずだよ」
‘はず’って何?
「レベルが上がれば、もっと凄いことできるんじゃないかなぁ?」
神様仏様なら確実なこと言って欲しいものだと真に思う。
「そんじゃあねー」
あ、軽いノリであっさりとどっかに行った…。
あのログハウス使ってもいいのかな?実りがどうとか言ったけど、まずは種まくとか、苗植えるとかしなきゃダメじゃん。使えねー。
ん?俺、ちょっと若返ってるか?鏡がないからわからないが、長年苦しんでる腰痛がない!
これは…20代くらいの体になっているのでは?
************
その頃の今野家…
「親父、帰ってくるの遅くねー?」
「私は通帳に退職金が振り込まれるからいいのよ」
「かー、母さん。ゲンキンだなぁ」
「付き合い長いとねぇ」
翌朝も浩紀は帰ってこず。
「どこで何やってるのよ?」
「はぁ?親父だって男だもん。キャバクラ梯子してるかもしんないじゃん」
「どこにそんなお金…あ、退職金!」
「そういうこと~」
という親子の会話をされていた。
その翌日も帰ってこず。
「いい加減、おかしくない?どうしましょ?警察に連絡しましょうか?」
「警察沙汰かぁ。別にいいけど?」
そして俺は公開捜査となった。
「この場合、父さんの年金ってどこに振り込まれるのかしら?」
「親父の通帳じゃない?死亡じゃないし。行方不明だからなぁ」
などと言われていると俺は思いもしなかった。
****************
ログハウスにある鍬とか使っていいのかな?
【あはは、君の鍬だよ】
なんだ?神様の声が頭で聞こえるのか?
【正解!】
神様って似合わないし、別の名前を付けよう。
ベス 【却下、犬みたい】
セバスチャン 【却下、どこの執事ですか?】
ゴット 【却下、神を英語にしただけじゃん?】
…・・・【名付け下手だね…】
ハデス 【却下、負の神様じゃない?】
ポチ
タマ
……【却下、動物の名前シリーズ?】
ノークレーム 【よし、それにしよう。今日から俺はノークレーム!】
クレーム祭りだったけどな。
俺は農地になりそうな土地に鍬を振りかぶって…使ったんです。
一振りで、10メートルくらい耕せました。
なので五振りくらいで10メートルの畝が5つ出来ました!
これで種とか苗があればなぁ……。
【市場に行けば売ってるぞ】
で、その市場はどこに?俺は現金持ってた?
【市場の場所は俺が頭から案内する。現金?何を言ってるんだ?今は何でもカードで支払うもんだ】
カードにはどうやってお金を入金するんだ?結局現金持ち歩かないとダメじゃん。
【カードとカードでお金をやり取りするんだ。まだ何か?】
そのカードには無限にお金が入ってるわけじゃないだろ?って話だ。
【あぁ、仕事の価値をカードが勝手に計って算出して、カードに入れる。つまり、よい野菜を作れば作るほどお前の収入は増える】
わかりやすい。
そのようなやり取りをしながら、俺は市場に辿り着いた。
ぐうぅうぅぅうぅうぅうぅぅぅ――――
俺の腹が盛大に鳴った。そう言えば…食事という食事をしていない。
自慢じゃないが、俺は料理が下手だ!
【料理の仕方もサポートするけど?】
なんて素敵なノークレーム!ちゃんとした料理が俺に出来るようになるだろうか?
料理本がそばにあっても、肝心の料理の腕が悪ければ、美味しいものはできないが大丈夫なのだろうか?
【その体を俺に明け渡してくれれば、俺が料理するけど?】
ノークレーム万歳!!美味しい飯が食える!!
そのためにはまず市場で当面の食材を手に入れるのと、種と苗を買わないとなぁ♪
「この若い体に必要なのは…やっぱり肉だろう。タンパク質になって欲しいから、鶏肉は胸肉だな。バランスを考え、野菜も買わないとなぁ♪
肝心の苗と種!難しいなぁ。春に撒くものとかあるのか…」
【浩紀に渡した能力なら季節に関係なく実るはずだ】
あ、関係なく買おう。お金足りるかな?
こうして俺の初・市場は終わった。一部の男たちに目を付けられているとわからずに。ちなみにノークレームは気づいてたらしい。
俺は、早速畝に苗を植えたかったのだが、腹が減っては戦はできぬ!
ノークレーム!頼む!料理してくれ!
ノークレームは買ってきた食材を用いて、見るも美味しそうな、料理本から抜け出したような完成形を数種類作り出した。
流石です。流石ノークレーム!
俺はその美しい料理を完食し、洗い物をし(使いやすいキッチンだと思う)、早速畝に向かった。
【あー、収穫の季節に合わせて畝を変えるとわかりやすいんじゃないか?】
そうだよな。夏野菜畝とかか?
当初、ノークレームが言っていた通りに実りが早かった。
今は春だが、俺の畝では春夏秋冬の野菜が実りまくっている。
俺は、俺が食べる分を残して市場へと売りに行った。
ここに俺の店を出すのか、許可証とか必要じゃないのか?
【ゴメーン、浩紀が寝てる間に体を拝借して許可証はもらって来た】
なるほど、それで今朝はよく寝たはずなのになんか疲れてたのか…。もうそういうことしないでほしい。もしくは事前に言ってほしい。
俺は俺が作った野菜たちが傷つかないように、野菜を陳列した。
春野菜の列、夏野菜の列、秋野菜の列、冬野菜の列とわかりやすく並べた。
「ぜってーおかしい。なんでこの店は今は春だっていうのに秋野菜を置いてるんだよ?」
俺が作ったから。
「夏野菜なんてまだだろう?去年のか?もう腐ってんじゃないか?」
「酷い言いがかりですね?今朝採れたての新鮮ですよ」
と、俺は言っておいた。
【言いがかりを言ってきた奴らは近くで野菜を売ってる。浩紀が目障りなんでしょ】
なるほどね。そんなの勤続65年の俺には効かない。
「食べてみますか?美味しいですよ?ほら、このキュウリ」
キュウリをぽきっと折った。全く腐ってないことがわかる。キュウリは実りが一斉だから、一気に売ってしまいたい。一本無駄にしても痛くない。
「あら、すごく新鮮ね。他の野菜も新鮮なのかしら?」
「はい。私が今朝自ら収穫したものです」
「私はこの季節手に入らないと思ってたのよ~」
冷蔵庫ないのか?
【ないよ。あと年中出回らないし】
「うちは夏野菜を買いだめするわ。うち、息子が男兄弟なのよ~」
「あぁ、それは大変ですね。それではキュウリを1本サービスさせていただきますよ」
「まぁまぁ、若いのによくわかってるわねぇ。今後贔屓にさせてもらうわ」
「ありがとうございます!」
勤続65年の営業職は強かった。数時間もかからずに完売。
また、種と苗を買って帰ろう。
えーっと、今日人気だったのは夏野菜。
2番目が冬野菜かなぁ。変わり種で山菜とか?
ところで俺はどのくらい稼いだんだろう。ステータス画面を見た。
確か昨日買い物に行く時に確認したら、所持金は3,000Gだった。
今日見た。見てしまった!
674.327G
ふぇ?これは何だ?俺の1カ月の収入より多くないか?
【需要があったのと野菜が新鮮だったからね~】
ノリの軽いノークレームに言われるとそうなのかなぁ?と思ってしまうケド、夢か?
思う存分、苗と種と食材を買おう。
【冷蔵庫ないんだから、考慮してよ~】
そうだった…。恐ろしい世界だ。
帰ってきて俺は畝に向かう。
うーん数時間と経たずに完売してしまったならば、畝を増やした方がいいかもしれないな。俺が管理できる範囲で。
畝を5本から7本にした。2本増やした。
【微妙じゃない?10本にしたら?】
俺が管理できるかと思って。
【消極的だね~】
ノークレームがいうから10本の畝にした。取り高がこれまでの2倍になる。
種と苗を季節ごとに植え、ノークレームのミラクルご飯を食べて今日は休んだ。
翌朝、
俺は収穫に勤しんだ。というか、早く取らないと!という危機感でいっぱいだ。
大量に収穫し、この大量の野菜をどうやって市場まで運ぶのか思案していると、ノークレームより荷車をプレゼントされた。…自動車免許持ってるんだけどな。道がない。
荷車を押して俺が市場へと向かっていると、昨日のやつらが絡んできた。
「その野菜を大人しく寄越せ」
ヤダよ。と、俺は猛スピードで荷車を走らせた。
何なんだ?
【大方昨日野菜の収入少なかったから、浩紀が持ってる野菜で昨日の分まで取り返そうってハラじゃない?】
人の努力の上で胡坐かくのはよくない。っていうか破滅するよ。
猛スピードで荷車を動かしていたから当然のように、荷車の車輪が片方取れた。
そこに颯爽と現れるヒーロー!
「護衛料金は20,000Gだ」
ちょっと引く。まぁ、ヒーローだってボランティアじゃないし?わかるけど?
俺はカードをヒーローのカードと重ねた。
「毎度アリ♡」
「この野菜は正当な理由もなく貴殿に渡すわけにはいかない。よって、向かってくるなら斬るが?」
ヒーローは剣士のようだ。柄に手をかけた。
「いや、もういい。どうせその状態じゃ、市場に行けないだろうからな。ご愁傷様~」
そういって去っていった。
さて、ノークレーム、どうすればいい?
【ヒーローに聞いてみるといい】
「危ないところをありがとうございました。ところで、この野菜を市場に持っていけなくて大変困っているのですが、ヒーローたる貴方様なら何か手立てを知っているのでは?と思った次第です」
「追加料金10,000Gだな」
俺はまたヒーローのカードと重ねた。
「俺のこの袋は詰め放題なんだ」
なんと?!某有名アニメのポケットみたいな感じか?いいなぁ。
【あれが欲しいの?今度あげるよ】
「だからこの袋に好きなだけ野菜を詰め込むといいよ」
なんて便利グッズ。ノークレームも今度くれるって言うし、異世界万歳!
そんな訳で、俺はヒーロー付きで(また護衛料金請求された)市場に到着。
いつもの場所で、袋から鼻歌交じりで野菜をどんどん出していった。
「護衛ありがとうございました」
と、がめついヒーローに別れを告げて、俺は今日も野菜を売りまくった。
昨日の婦人も買いに来てくれて、常連さん確定かな?などと思っていた。
今日は2・3時間かけて完売。
売り上げは昨日の2倍だろう。
さて、今日も食材・種と苗を買って帰ろう。
そしてノークレームの夕飯を食べて寝た。明日も早い。
翌朝、畝を見た。
何てことだ。畝が荒らされている。どう見ても人為的な感じだ。
【仕方ないなぁ。傭兵雇ったら?畝の護衛に】
俺も思った。
仕方ないので今日は市場に食材と種と苗を買いに行って、帰った。
そして、畝を10本制作。
また、やりなおし。とはいえすぐに実るんだけど。
あと、冒険者ギルドという組織に畝の護衛を依頼した。破格の1晩100,000G。
かなりの猛者が飛びついてくれた。夕食・朝食付きだからね。
ギルドに行ったついでに俺は自分のカードを久しぶりに見た。
残金1378,738G うん、いつもすごいことになってるよね。
それよりも、ものすごいものを見た。
スキル 農業 気候調節
はぁ?“気候調節”―?
【ほら、農業やってると晴れればいいなとかあるじゃん。そういうのが自由自在。使いこなせるようになれば、ゴロツキに雷落とせるようになるよ】
軽い言葉で恐ろしい事を言うもんだ。と俺は思う。
確かに今晩は曇りだなぁ。晴れれば実りもいいのかなぁ?
などと思ってみた。本当に晴れた。偶然だろうか?
晴れると放射冷却で朝と昼の寒暖差が激しくなり、野菜の糖度があがる。
今日はノークレームが例のなんでもいくらでも入る袋をくれたので、それに野菜を入れるつもりだ。
袋の中に生き物が入っていないことを確認!ネズミとか入っていたら、最悪…。
確認すると何も入ってないことがわかり、安心してどんどん野菜を入れていった。袋の中で互いにぶつかることもないし、品質が下がることはない。この袋は本当に便利だと思う。
今度、果実もやってみようか?
互いにぶつかったりして痛むんだよなぁ。
今日は途中で盗賊に会った。
「その袋を置いていけ」
ヤダよ。中身もだし、袋も大事だ。
俺は試しに盗賊の男にピンポイントで雷を落とせるだろうか試した。
ピシャーンと盗賊の目の前に落ちた。
「あ、ちょっとずれた。まだコントロールが上手くいかないなぁ。どれもう一度…」
「悪い急用を思い出した!」
と、盗賊はいなくなった。まぁ、雷に当たりたくはないよなぁ。
あいつがスピーカーになって俺を狙う盗賊がいなくなることを願おう。
今日は結構時間かかったと思う。5時間くらいかなぁ?完売まで。
そうだ!果実に手を出そうかな?と思ってたんだ。
手始めにイチゴから始めようかな?
イチゴの苗も買って帰った。
イチゴ用に畝も作った。イチゴってどういう環境がいいんだ?昼と夜の寒暖差が大きい方がいいのか?ま、やってみるか。
翌日、
俺が作ったからか、超美味しいイチゴがこの季節にできた。これは価値がある!そう思いながら収穫しつつ袋に入れた。
市場での反応を見る。
「この季節にイチゴ?」
「はい。今朝俺が収穫しました。めっちゃ美味しいです。試食用のイチゴを食べます?」
「…!!」
驚くだろう。冬に出会うイチゴよりも美味しいんだよなぁ。俺も最初はビビった。
「私は1カゴ…いいえ、2カゴ貰うわ!!」
「いつもありがとうございます!何かサービスしたいんですけど、イチゴはまだレアなんですよ。キュウリで良ければ持っていってください」
キュウリ…生り過ぎだって。採っても採っても生るんだもん。
「アウトレットみたいなものはないの?B級品よ」
「お客様の期待には添えられません。傷つかずに持ってこれているので、そのようなものは無いんですよ~」
「う~ん、私は3カゴいただくわ。1カゴ食べて残りはジャムにするの」
「あ~、それでB級品を求めていたんですね。でしたら、探しますね。加工用で置きますよ」
「助かるわ、ありがとう!」
「いいえ、お客様の希望通りに動くのが商人です」
イチゴの反応はかなり良かった。ちょっとお高い値段設定だったのにも関わらず、かなり売れた。やっぱり、その場で試食できるのがよかったかな?あれは衝撃だよなぁ。
ジャムにできるシリーズでリンゴとかブルーベリー。お菓子にも使えるよでレモンとか柑橘系の木を植えようか。
長い目で見ないと実がなるまでは。イチゴみたいにはいかないよなぁ。
【そうだなぁ、1週間くらいかなぁ?】
早いよ。そのくらいで収穫できちゃうんだ。
俺は種・苗・苗木と食材を買って帰った。
種と苗は植えて、苗木については場所などを考慮しながら植えていった。
夕食を傭兵さんと食べ、俺は朝早いし、眠りについた。
1週間後、本当に実が生っている。
味を見てみた。マジで美味い。収穫を楽しくしながら俺はふと思う。
あれ?俺は働き続けてない?と。
とりあえず、生っている分は収穫し、今日も市場で売りまくった。
果実って売れるんだな…。あ、キズモノ。なかったんだよなぁ。
カードを見る。残金は余計な事をしなければ十分暮らしていける。
俺はスローライフで何をしたかったのだろう?
ゴロゴロ生活したかったのか?今みたいな生活だろうか?野菜を作って市場で売る。
腰を痛めてるオッサンにはきついと思う。
うん、今みたいな生活だな。きっと。出来ないだろうと思う。屈んで収穫とか腰を痛めてるオッサンにはきつい作業だ。なおかつスキルはない。
俺はこのまま生活していこうと思う。
応援ありがとうございます!
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