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イグニスの影

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自分には身体がないという事に気がついたのはいつだっただろう…

イグニスと名付けられた男の子と、常に一緒だったのに、誰もオレを見てくれない。誰も名前を呼んでくれない。

そもそも名前すらない。




オレがどんなに願っても得られない家族からの愛情を注がれているコイツがずっと妬ましかった。
だったらこの体を奪ってしまえばいい。
そう思うのは自然な事だった。

なのに…
コイツの兄達に、父親に邪魔された。
何故コイツばかり愛されるんだ‼︎

兄達はコイツの為にオレの力の欠片を持ってそれぞれどこかに行ってしまった。

『もう少しでオレがイグニスになれたのに!何故オレじゃダメなんだ‼︎』

父親はコイツを抱き上げ最北の森にオレと一緒に捨てた。

それから最北の森で必死に生きるコイツが苦労していく姿を見ていくのが楽しかった。力を再び蓄えながら時をまった。絶望し、生きる事を諦めたら、嘲笑いながら体を奪えばいい。今までオレが感じた苦しみを味わえばいい。

なのに何故コイツは諦めない…

『お前は捨てられたんだよ!』




大人になったコイツの家は幸せな家族が住む様な家だったが、その中は空っぽ。誰も居ない。
哀れで、愉快で、最高だった。

『お前は誰にも必要とされないんだよ!』




こんな呪われた町に引きずり込まれて、空っぽの家でお前は何の為に生きてるんだ。
もうお前なんてなんの価値もない。



そう思っていたのに!また!また‼︎コイツの所に幸せがきた。

あったかくて、もぞもぞして、ゾワゾワして、そしてふわふわする。
うまい菓子を食った時に、コイツから流れてきた感じよりもっともっとすごい。

幸せの味…か?

ウマソウ…
コレハ俺ノモノダ
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