褐色の歌姫は竜頭の戦士に恋をする

今泉香耶

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9.やっとあなたに触れられて

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 さて、それからのアルロ邸はてんやわんやの騒ぎだった。

 魔界召集を「花嫁が来る」としか思っていなかった人々は、みな「延期になっていた初夜が今宵になった」という認識でそわそわしだす。以前アルロの寝室に数日寝泊りしていたこととそう変わらないと思っていたイーヴィーは、一体何が起きているのかと仰天をした。

「さ、イーヴィー様、こちらへどうぞ」

 湯あみの後に、いつもは行わない香油を使ったマッサージを施されたり、いつもなら特に希望を聞かれることもなく用意される寝間着やガウン類を、あれやこれやどれにするかと尋ねられたりと、やたらと入念だ。一体アルロは使用人達に何を言ったのだろうか。後で追及しなければいけないと思いつつ、ありがたく皆の気持ちを受け取ろうと言いなりになるイーヴィー。

 マッサージをしてもらっている間に髪も綺麗に乾かしてもらったし、マッサージのせいか体はずっとほんのり温かい。無理矢理リラックスさせられているような気がするところに、更にリラックスしますよ、と甘い蜜を溶かした茶を出され、よくわからないながら、とにかく至れり尽くせりだということだけ理解をした。

 確かに、人間界ならば結婚式が執り行われ、いかにもな形で初夜を迎えるのが当たり前。それを思えばこれぐらいのことは大げさでもなんでもない。初日に「ついたらすぐに跨ってマーキングしてもらわなければ」なんて思っていたことが嘘のようだ。

 こんな風に人々に祝福されて体を重ねることになるなんて思っても見なかった。もっと雑に、生きるために仕方なく、自分だけが必死にあがいて純潔を散らすのだとまで覚悟をしていたのに。なんて幸せな形で今夜を迎えられることになったんだろう。

「さあ、どうぞ、アルロ様がお待ちです」

 豪奢なレースに縁取られているナイトガウンに身を包み、騎士と女中数名に囲まれてアルロの寝室に向うイーヴィー。もっとカジュアルに、じゃ、行って来ますぐらいで終わると思っていたのに仰々しいとは思う。だが、結婚式がないのだから、これぐらいの儀礼らしさがあっても記念になっていいのかもしれない、と開き直った。

「アルロ様。イーヴィー様をお連れしました」

「入れ」

 女中2人が扉を開ける。ここからはイーヴィーだけが許された聖域だ。
 柔らかな灯りに照らされた室内にイーヴィーが入ると、背後の扉がゆっくりと閉まる音がした。

「疲れてないか」

「大丈夫ですけど、まさかこんな、みなさん総動員になるとは思いませんでした」

 迎え入れたアルロの方は、あまりいつもと変わらず生成り色のシャツに紺のパンツ、何色ものくすんだ色に染められた腰布は、質が良いものだと一目でわかる。あまりそういうものにこだわらない人だと思っていたが、かといって使用人に勧められたものをなんでも着るわけでもない。きっと、彼が自分で選んだのだろう。その姿はイーヴィーの気に入った。

「すまないな。わたしもこんなことになるとは思っていなくてな。ただ、護衛騎士に話を通すので、今晩はあなたと共に眠ると伝えただけだったのだが、モートンに根掘り葉掘り聞かれてこれだ」

 そう言いつつアルロは笑う。彼からすれば、使用人達がイーヴィーの床入りを喜んでこんなにも動いてくれるということが嬉しいのだろう。

「いい匂いがするな」

「香油の香りだと思います。緊張をほぐすためにマッサージしてくださったようなんですけど、その前にはいつもより長く湯あみをしたので、緊張も何もなくぼんやりしていました」

「ははは」

 ベッドの縁に座り、暫くアルロは彼女を抱きしめながら、その髪を何度も撫でていた。彼の顔も体も鱗に覆われている場所が多すぎる上に竜頭なので、彼から口付けることも、顔を近づけて愛撫することもままならない。いつもと同じような服でいるのも、出来る限り鱗の部分を外に出さないようにと気を使った結果なのだとイーヴィーも気付いていた。

「あなたの体を出来る限り傷つけたくないし、最大限の配慮をしたいのだが、必ず、とは約束出来ない。だが、あなたも、どこか痛みがあったら我慢はしないで欲しい」

「はい……あの、アルロ様」

「うん」

「わたし、考えたのですが」

「うん」

「……結局、わたし、跨ることになるんじゃないでしょうか」

 その指摘に、ばつが悪そうに、だがはっきりとアルロは答えた。

「そうだな」

「やっぱり……」

「それが、一番あなたが傷つかなくて済むような気がするんだ」

「悔しい話ですが、ダリル様は正しかったということですね」

「正しくはない。面白おかしくしただけだ。あのクソ野郎は自分が楽しいと思うことしか言いやしない。あいつが正しいことなんか、ほとんどありやしないんだ」

 余程ダリルのことが嫌いなのか、あまりにも適当なことを言い出すアルロ。それがおかしすぎて、イーヴィーは声を出して笑った。

「じゃあ、後ほど、跨らせていただくことにして……」

 するりとナイトガウンを床に落とすと、薄いクリーム色の、透ける素材のベビードールに身を包まれた美しい肢体が現れる。恥ずかしさがないわけではないけれど、今まで幾度も「彼とそういうこと」をする覚悟をしてきた彼女にとっては、彼が求めてくれるその体を隠す必要なぞないのだ。

「ああ、あなたは本当に美しいな。しなやかで、伸びやかで、女性らしくて、なんとも魅力的だ。あなたの心と体は、とても似ている」

 アルロは彼女の体を優しくベッドに横たえた。手の平、指先には鱗がないため、ゆるりと彼女の体に触れていく。

 淡い色で照らされた彼女の肌は艶やかだ。滑らかさに驚きながらも、アルロは何度も何度も彼女の二の腕を愛しそうに撫でる。その動きには、女性に触れる戸惑い等は感じられず、純粋に大切に触れてくれているのだと思え、イーヴィーは幸せな気持ちになる。

 ベビードールは胸元を黄色いリボンで結い上げられており、彼女もまた自分の体にその色が似合うと思っていたのだろうとアルロは気付いた。ベビードールの下には何も着ていないため、彼女の大切な場所を守る薄い栗毛も、他の男が触れることを許してしまった深い色の妖艶な乳首も、透けた布越しにいっそうその存在を艶かしく見せている。

「あっ……あ」

 頬に触れ、耳に触れ、首筋から鎖骨へと指を這わせると、鼻にかかった可愛らしい声が漏れる。彼女は決して自分の声を彼に聞かせることを恥ずかしいと思わなかった。彼が自分を鳴かせるのなら、全てを彼に聞いて欲しい。いつもは自分の意思で歌を歌うけれど、今この時は、彼の指で音を出す楽器のようだと思いながら、触れられる場所に灯される熱を感じていた。

 アルロは断りもなく胸元の黄色いリボンを解いたが、それを彼女は悪く思わない。どんどん彼が思うまま触れてくれることが嬉しい。触れたいと思われている実感は、彼女の気持ちを高揚させる。

 レースの肩紐はそのままで、はらりと胸元を覆う部分が左右に開くと美しい乳房が曝け出された。彼女の胸はとろけるように柔らかく、横たわると左右へそれぞれ流れてしまう。それがやたらとエロティックで、見るだけでアルロは煽られてしまう。

「どちらの胸を、あのクソ野郎に触られた?」

「右、です」

「そうか」

 横に流れていく乳房を掴むと、弾力がありつつ驚くほど柔らかく、彼の手の中で形が変わってしまう。両手で掴んで前に突き出すような形に軽く潰して、アルロは舌を這わせた。顔の鱗が触れぬよう、出来るだけ他の肌に顔を近づけなくていいように、ぎゅっと乳房だけを寄せて引っ張られている。自分の乳房がそんな形に引っ張られる様子を見たことがないイーヴィーは、それを見て興奮をした。

「なんという柔らかさだ」

 竜の口が開き、ちらりと犬歯のような牙が見える。だが、それが触れぬように中央の歯で乳輪を甘噛みをされる。噛まれた感触でも感じるが、視覚でも興奮して感じる。そんな風に、乳房の形を変えられて。少し大きめの乳輪をまるごと竜の前歯で噛まれるなんて。ぞくぞくする。

「あ、あ、あ」

 口に含まれた乳首に彼の舌が絡められたが、イーヴィーはその動きと関係なく声を漏らして自分が感じていることに、かっと体を熱くした。甘噛みされたまままるで肉を食いちぎるように軽く彼女の乳房を引っ張る姿を見て、大事にしながらも強く求めている、そんなアルロの感情に触れた気がして更に高まる。アルロは彼女の乳輪を噛みながらじゅるじゅると吸って、乳首を舌で攻め立てた。

「んっ、んんっ……おっぱい……吸われながら舐められるの……気持ちいいです……」

 乳房から口を離してアルロは笑う。

「素直な人だ。あなたの口から、おっぱい、なんて聞くだけで高ぶってしまうな」

「だって……」

「こちらも吸ってあげよう」

 乳房の下側に指を差し込んで、たぷたぷと揺らす。強い刺激を与えられなくても、それだけでイーヴィーは鼻にかかった甘い声を漏らした。アルロは同じように片手で乳房を掴むと、甘噛みをしつつ口に含む。舌で乳首を捉えて舐めながら、もう片方の乳首に指を這わせればイーヴィーの体が跳ねた。

「んっ、んっあ、指、もっ……あっ……」

 指先二本でくりくりと軽く擦られれば、イーヴィーの乳首は形を変えて硬くなっていく。与えられる快感に素直になればなるほど、自分の体がどうなっているのかを鋭敏に感じ、イーヴィーはもぞりと太ももをこすりあわせた。

「あっ、あ……んんっ……」

「胸しか触っていなのに、下も感じるか」

「言わないでください……ま、まだちょっとです……」

「はは、そうか」

 竜頭は目がついている位置のせいで視野が広い。見えていないと思っていてもアルロには見えていることがあるのだが、これは余計だ、とイーヴィーは軽く口を尖らせた。まだちょっと、とはどういう言い訳だとアルロは思うが、そんな言い草も愛しく思える。
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