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65.深い夜(1)
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アルフォンスに自分の心を打ち明けてから、初めての「そういう」夜だ。気恥ずかしくなるだろうかと思っていたが、何故かエレインの心は落ち着いていた。
考えれば当たり前なのだ。これまでは、自分は「彼からそういう関係であることを求められ、彼から一方的に愛されて」いたようなもの。どこか、居心地の悪さを感じていた。彼に応えなければいけないのにまだ応えられないという思いで、なんだか心が少しそわそわして腰が据わらないような空気の中での性交だった。もちろん、アルフォンスがどう思っていたのかはわからないが。
だが、今日は違う。彼に自分から告白をした。そして、彼は喜んでくれた。それだけで、エレインはどこか満たされた。だからなのだろう。
(それに……アルフォンスに触れてもらえることが、こんなに嬉しいなんて)
それが、一番の違いだ、と思う。アルフォンスにキスをしてもらうこと、その指で触れてもらうこと、撫でてもらうこと、甘く噛まれること、それらすべて、彼からの刺激を与えられることが嬉しい。自分の心ひとつでこんなに違うのかと思うほどだ。そのせいだろうか。今日の彼女は、いつもより深く甘い吐息を漏らしてしまう。
(でも、わたしだけではない……わたしだけではないんだ。きっと)
アルフォンスの愛撫が、なんだかこれまでと違うようにエレインには感じられる。それは、勘違いなのだろうか。いや、もしかしたら彼はこれまでと同じで、やはり自分が少し変わったのかもしれない。エレインは、自分の首筋から鎖骨までにキスをするアルフォンスの髪に触れた。彼は顔をあげて、へにゃりと笑う。
「あなたから触れてくれるとは」
「そう、ですね……ご迷惑でしょうか?」
「いや。もっと。もっと、触れて欲しい」
もっと。もっととはどうすれば良いのだろうか。エレインは彼の髪を撫で、彼の形の良い耳の縁をそっと撫でた。すると、彼は「ん」と軽く鼻にかかった声をあげる。その声音にはどこか淫猥さを感じる。思えば、今までの二晩、彼の口からそんな声は出ていただろうか。それすらよく覚えていない。それぐらい、エレインは自分のことだけで精一杯だったのだ。
(なんだか、可愛らしい)
そう思って、エレインは両手で彼の頭を抱きかかえるように、彼の頭を撫で、彼の耳に触れ、シャツの襟もとから指先を入れて太い首をそっとなぞった。そうやって触れれば、なんだか「これがアルフォンスなのだ」と彼の形を確認しているような気持ちになる。
その間、アルフォンスもエレインの首筋にキスを落とし、鎖骨を軽く食む。寝間着の上からゆっくり乳房を揉まれれば、エレインは甘い息を漏らす。エレインは、自分の口から放たれた声を聞いて「アルフォンスと同じだ」と感じた。
「アルフォンス……わたしに触れられるのは……気持ちが良いですか?」
「ああ。気持ちがいい。それに、今まであなたからそうやって触れてくださることはなかったので……とても、嬉しいものだな」
「あなたに、もっと触れたいです」
そう言って、エレインは彼のシャツのボタンを外す。アルフォンスは驚いて手を止めてそれをじっと見ている。
「いい、ですか?」
「もちろん」
そう言って彼はそっとエレインの額にキスをする。エレインは彼のシャツの前をはだけさせると、手の平を彼の胸元に押し付けた。なめらかで、だけど、硬い胸板。エレインはそれからシャツの下に手をそっと入れて、両腕で彼の上半身を抱きしめて、下から少し頭をあげて彼の胸の中央にキスをした。すべて、なんとなくだ。なんとなくそうしたくてやった。ただそれだけのことだ。
しかし、彼が言ったように、エレインから彼にそんな風に触れることはこれまでなかった。不思議だ。どうして、これまでそうしなかったのだろうか。だって、こんなにも近くにいて、こんなにも簡単に抱くことが出来るのに。こんなにも簡単に口づけられるのに。
そうエレインが思っていると、アルフォンスは彼女の首と肩の境目に顔をうずめてキスをした。
「困ったな」
「え?」
「本当に、あなたは、わたしを好きでいてくれるんだな?」
「えっ? そ、そうですけど……何か、困るのでしょうか……?」
顔をあげた彼は、なんだか照れくさそうな表情だ。見たことがない顔だな、とエレインは瞬く。彼は自嘲気味の笑みを浮かべ、戸惑いの吐息をかすかに漏らしてから彼女に打ち明けた。
「嬉しいのと、あなたが可愛らしいとで、どうにかなってしまいそうだ……」
その言葉が終わるやいなや、アルフォンスはエレインにキスをした。熱い舌が差し込まれ、エレインの舌はそれを迎え入れる。深いキス。何度も何度もそれを繰り返すうちに、互いの湿り気とその熱さで頭がどうにかなりどうだ、とエレインは思う。やがて、まるで逃げ場をふさぐかのように彼の手はエレインの後頭部を押さえ、エレインの腰を押さえてキスを続ける。エレインは、それを何故か「嬉しい」と感じる。
これまでに、何度もそれはしてきたことだ。当たり前のように。だが、こんなにもそれだけで心の奥が熱くなっていく。エレインは、そっと瞳を閉じて
(どうにかなってしまいそうなのは、こちらなのに……)
と、思いながら、彼のキスを受け入れ続けた。
考えれば当たり前なのだ。これまでは、自分は「彼からそういう関係であることを求められ、彼から一方的に愛されて」いたようなもの。どこか、居心地の悪さを感じていた。彼に応えなければいけないのにまだ応えられないという思いで、なんだか心が少しそわそわして腰が据わらないような空気の中での性交だった。もちろん、アルフォンスがどう思っていたのかはわからないが。
だが、今日は違う。彼に自分から告白をした。そして、彼は喜んでくれた。それだけで、エレインはどこか満たされた。だからなのだろう。
(それに……アルフォンスに触れてもらえることが、こんなに嬉しいなんて)
それが、一番の違いだ、と思う。アルフォンスにキスをしてもらうこと、その指で触れてもらうこと、撫でてもらうこと、甘く噛まれること、それらすべて、彼からの刺激を与えられることが嬉しい。自分の心ひとつでこんなに違うのかと思うほどだ。そのせいだろうか。今日の彼女は、いつもより深く甘い吐息を漏らしてしまう。
(でも、わたしだけではない……わたしだけではないんだ。きっと)
アルフォンスの愛撫が、なんだかこれまでと違うようにエレインには感じられる。それは、勘違いなのだろうか。いや、もしかしたら彼はこれまでと同じで、やはり自分が少し変わったのかもしれない。エレインは、自分の首筋から鎖骨までにキスをするアルフォンスの髪に触れた。彼は顔をあげて、へにゃりと笑う。
「あなたから触れてくれるとは」
「そう、ですね……ご迷惑でしょうか?」
「いや。もっと。もっと、触れて欲しい」
もっと。もっととはどうすれば良いのだろうか。エレインは彼の髪を撫で、彼の形の良い耳の縁をそっと撫でた。すると、彼は「ん」と軽く鼻にかかった声をあげる。その声音にはどこか淫猥さを感じる。思えば、今までの二晩、彼の口からそんな声は出ていただろうか。それすらよく覚えていない。それぐらい、エレインは自分のことだけで精一杯だったのだ。
(なんだか、可愛らしい)
そう思って、エレインは両手で彼の頭を抱きかかえるように、彼の頭を撫で、彼の耳に触れ、シャツの襟もとから指先を入れて太い首をそっとなぞった。そうやって触れれば、なんだか「これがアルフォンスなのだ」と彼の形を確認しているような気持ちになる。
その間、アルフォンスもエレインの首筋にキスを落とし、鎖骨を軽く食む。寝間着の上からゆっくり乳房を揉まれれば、エレインは甘い息を漏らす。エレインは、自分の口から放たれた声を聞いて「アルフォンスと同じだ」と感じた。
「アルフォンス……わたしに触れられるのは……気持ちが良いですか?」
「ああ。気持ちがいい。それに、今まであなたからそうやって触れてくださることはなかったので……とても、嬉しいものだな」
「あなたに、もっと触れたいです」
そう言って、エレインは彼のシャツのボタンを外す。アルフォンスは驚いて手を止めてそれをじっと見ている。
「いい、ですか?」
「もちろん」
そう言って彼はそっとエレインの額にキスをする。エレインは彼のシャツの前をはだけさせると、手の平を彼の胸元に押し付けた。なめらかで、だけど、硬い胸板。エレインはそれからシャツの下に手をそっと入れて、両腕で彼の上半身を抱きしめて、下から少し頭をあげて彼の胸の中央にキスをした。すべて、なんとなくだ。なんとなくそうしたくてやった。ただそれだけのことだ。
しかし、彼が言ったように、エレインから彼にそんな風に触れることはこれまでなかった。不思議だ。どうして、これまでそうしなかったのだろうか。だって、こんなにも近くにいて、こんなにも簡単に抱くことが出来るのに。こんなにも簡単に口づけられるのに。
そうエレインが思っていると、アルフォンスは彼女の首と肩の境目に顔をうずめてキスをした。
「困ったな」
「え?」
「本当に、あなたは、わたしを好きでいてくれるんだな?」
「えっ? そ、そうですけど……何か、困るのでしょうか……?」
顔をあげた彼は、なんだか照れくさそうな表情だ。見たことがない顔だな、とエレインは瞬く。彼は自嘲気味の笑みを浮かべ、戸惑いの吐息をかすかに漏らしてから彼女に打ち明けた。
「嬉しいのと、あなたが可愛らしいとで、どうにかなってしまいそうだ……」
その言葉が終わるやいなや、アルフォンスはエレインにキスをした。熱い舌が差し込まれ、エレインの舌はそれを迎え入れる。深いキス。何度も何度もそれを繰り返すうちに、互いの湿り気とその熱さで頭がどうにかなりどうだ、とエレインは思う。やがて、まるで逃げ場をふさぐかのように彼の手はエレインの後頭部を押さえ、エレインの腰を押さえてキスを続ける。エレインは、それを何故か「嬉しい」と感じる。
これまでに、何度もそれはしてきたことだ。当たり前のように。だが、こんなにもそれだけで心の奥が熱くなっていく。エレインは、そっと瞳を閉じて
(どうにかなってしまいそうなのは、こちらなのに……)
と、思いながら、彼のキスを受け入れ続けた。
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