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警備隊発足(1)
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家に引っ越してから2週間が経過をし、すっかりミリアとヘルマはヤーナックの町の住民として人々に認められたようだった。というのも、その2週間で多くの家を彼女たちは回って、警備隊への勧誘をしながら人々への挨拶もしたからだ。おかげで、5日を経過する頃には4,5人が名乗りをあげ、そして10日間で、なんとか10人集めることが出来た。そして、その後は活動を見ていた者たちが声をかけてきたり、隊員が声をかけたりで、あっという間にどんどん増えている。
当然、町の人々がみな良い対応だったわけではない。むしろ「女になんて教えを請わない」などと言う者たちが多くひと悶着もあったが、今はすっかりみな従順だ。ヘルマが案外と口が立って人々をねじ伏せたこと、更には町で持てはやされている流れの剣士を打ち負かしたこと、そして、そのヘルマよりミリアの方が強いと伝えたこと。それらでおおよそ人々は納得した。あとは、日々の鍛錬を通して信頼関係を築いていくだけだ。
時間の経過とともに、人々がミリアやヘルマを見る目は変わっていく。勿論、すべてが良い方向に行くわけではない。中には、彼女たちを嫌って辞めてしまった者もいたが、それはそれで仕方がない。まず、女性に教えを乞うという気分が向かない者は、何がどうあってもいる。だが、そういう人々は、そのうちミリアたちではない者が上に立てばまた戻って来るだろうとも思う。すべてが順調にいくことの方がおかしいのだ、とミリアはヘルマに告げた。
警備隊の候補として集まった者たちは、本業を別に持っている。よって、それぞれが集まれる時に合わせて、一日3回、朝昼晩にわけて鍛錬を行っている。ミリアはその3回に必ず顔を出した。
「まだ剣の鍛錬はまったく足りないけれど、それでも、来月になったら全員で揃ってフォーメーションの訓練も行わないといけないわね」
「そうですねぇ。そう回数は多くなくてよいでしょうが、全員が一斉に集まるってのも必要ですよね」
「ええ、そうね」
昼の鍛錬を終えて、少し遅い昼食を家で食事をしていると、ノックの音が響いた。ヘルマが「どなたですか」と問えば「ヴィルマーだ」との声。
「失礼する。宿屋のおかみに聞いて来た。まだ、この町にいたんだな」
「おかえりなさい」
ミリアがそう言えば、ヴィルマーは少し戸惑った表情を見せて、それから「はは、ただいま」と笑う。ミリアも、自分から「おかえり」と言ったものの、その会話に小さく笑った。
「すまない、食事中だったのか」
「ええ。問題はありません。お茶でもいかがですか」
「いいのか? ありがとう」
ヘルマが茶を淹れようとしたが、ミリアがそれを止めて動き出す。少しだけバツが悪そうに、ヘルマは「わたしより、お上手なんですよ……」と小声でヴィルマーに言った。「へえ」とヴィルマーは眉を軽くあげ、椅子に座って待った。
「どうぞ」
「ありがとう」
そう言ってヴィルマーはすぐに茶に口をつけ、それから驚きの声をあげる。
「……やあ、これはいい茶葉じゃないか。ヤーナックのどこに売ってるんだ?」
「普通に売っている茶葉ですよ。淹れ方が違うのでしょうね」
あっさりとそう言ってミリアは座り、再び食事を続けながら彼に尋ねた。
「で、何でしょうか?」
「いや、君たちが元気なのか様子を見ようと思っただけだ。元気ならばそれで良かった」
「ええ、元気です。あの後、すぐにスヴェンとお会いして……」
ミリアはスヴェンとのこと、怪我の治療の話、それから町長にこの空き家を無料で借りたこと、その代わりに警備隊発足に尽力してほしいと言われたことをヴィルマーに話した。ヴィルマーは「そうか……」と一旦何故か肩を落としたように見えたが
「警備隊が出来れば本当にありがたい。勿論、だからといって俺たちが来なくなるわけでもないが、一か月ここを留守にしている間の心配がいくらか減るのでな」
「今はまだ始まってそうほどない状態なのですが、数人はたった少しでも剣の腕前が上達しました。来月いっぱいはその鍛錬を繰り返して、再来月ぐらいからはみなさんの仕事の邪魔にならず、負担にならない程度に組を作って町の巡回を始めようと思います」
「それは、少し早くないか?」
「ええ、少し早いですね。ですが、そういうことを行っている、ということを町の人々に知らせた方が良いですし、わたしはあと3か月しかここにいませんから、それまでに何を必要とするのか、何をすればよいのかを、おぼろげでも輪郭を作ってあげたいのです」
ヴィルマーは驚いた表情でミリアを見た。
「何か……?」
「いや、びっくりしただけだ。君は、剣の腕だけではなく、人々に道筋を作ってやろうと……ううん、人員がどうのと言っていたこっちが恥ずかしいな……」
「?」
ヴィルマーの最後の言葉は小さくもごもごと口ごもっていて、ミリアにもヘルマにもよく聞こえなかった。が、彼は茶を飲み干して
「よかったら、その警備隊の鍛錬とやらを見せてくれないか。少し興味がある」
と、真剣な表情で告げた。
当然、町の人々がみな良い対応だったわけではない。むしろ「女になんて教えを請わない」などと言う者たちが多くひと悶着もあったが、今はすっかりみな従順だ。ヘルマが案外と口が立って人々をねじ伏せたこと、更には町で持てはやされている流れの剣士を打ち負かしたこと、そして、そのヘルマよりミリアの方が強いと伝えたこと。それらでおおよそ人々は納得した。あとは、日々の鍛錬を通して信頼関係を築いていくだけだ。
時間の経過とともに、人々がミリアやヘルマを見る目は変わっていく。勿論、すべてが良い方向に行くわけではない。中には、彼女たちを嫌って辞めてしまった者もいたが、それはそれで仕方がない。まず、女性に教えを乞うという気分が向かない者は、何がどうあってもいる。だが、そういう人々は、そのうちミリアたちではない者が上に立てばまた戻って来るだろうとも思う。すべてが順調にいくことの方がおかしいのだ、とミリアはヘルマに告げた。
警備隊の候補として集まった者たちは、本業を別に持っている。よって、それぞれが集まれる時に合わせて、一日3回、朝昼晩にわけて鍛錬を行っている。ミリアはその3回に必ず顔を出した。
「まだ剣の鍛錬はまったく足りないけれど、それでも、来月になったら全員で揃ってフォーメーションの訓練も行わないといけないわね」
「そうですねぇ。そう回数は多くなくてよいでしょうが、全員が一斉に集まるってのも必要ですよね」
「ええ、そうね」
昼の鍛錬を終えて、少し遅い昼食を家で食事をしていると、ノックの音が響いた。ヘルマが「どなたですか」と問えば「ヴィルマーだ」との声。
「失礼する。宿屋のおかみに聞いて来た。まだ、この町にいたんだな」
「おかえりなさい」
ミリアがそう言えば、ヴィルマーは少し戸惑った表情を見せて、それから「はは、ただいま」と笑う。ミリアも、自分から「おかえり」と言ったものの、その会話に小さく笑った。
「すまない、食事中だったのか」
「ええ。問題はありません。お茶でもいかがですか」
「いいのか? ありがとう」
ヘルマが茶を淹れようとしたが、ミリアがそれを止めて動き出す。少しだけバツが悪そうに、ヘルマは「わたしより、お上手なんですよ……」と小声でヴィルマーに言った。「へえ」とヴィルマーは眉を軽くあげ、椅子に座って待った。
「どうぞ」
「ありがとう」
そう言ってヴィルマーはすぐに茶に口をつけ、それから驚きの声をあげる。
「……やあ、これはいい茶葉じゃないか。ヤーナックのどこに売ってるんだ?」
「普通に売っている茶葉ですよ。淹れ方が違うのでしょうね」
あっさりとそう言ってミリアは座り、再び食事を続けながら彼に尋ねた。
「で、何でしょうか?」
「いや、君たちが元気なのか様子を見ようと思っただけだ。元気ならばそれで良かった」
「ええ、元気です。あの後、すぐにスヴェンとお会いして……」
ミリアはスヴェンとのこと、怪我の治療の話、それから町長にこの空き家を無料で借りたこと、その代わりに警備隊発足に尽力してほしいと言われたことをヴィルマーに話した。ヴィルマーは「そうか……」と一旦何故か肩を落としたように見えたが
「警備隊が出来れば本当にありがたい。勿論、だからといって俺たちが来なくなるわけでもないが、一か月ここを留守にしている間の心配がいくらか減るのでな」
「今はまだ始まってそうほどない状態なのですが、数人はたった少しでも剣の腕前が上達しました。来月いっぱいはその鍛錬を繰り返して、再来月ぐらいからはみなさんの仕事の邪魔にならず、負担にならない程度に組を作って町の巡回を始めようと思います」
「それは、少し早くないか?」
「ええ、少し早いですね。ですが、そういうことを行っている、ということを町の人々に知らせた方が良いですし、わたしはあと3か月しかここにいませんから、それまでに何を必要とするのか、何をすればよいのかを、おぼろげでも輪郭を作ってあげたいのです」
ヴィルマーは驚いた表情でミリアを見た。
「何か……?」
「いや、びっくりしただけだ。君は、剣の腕だけではなく、人々に道筋を作ってやろうと……ううん、人員がどうのと言っていたこっちが恥ずかしいな……」
「?」
ヴィルマーの最後の言葉は小さくもごもごと口ごもっていて、ミリアにもヘルマにもよく聞こえなかった。が、彼は茶を飲み干して
「よかったら、その警備隊の鍛錬とやらを見せてくれないか。少し興味がある」
と、真剣な表情で告げた。
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