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互いの思惑(2)
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ミリアはヴィルマーをじっと見た。その視線に気付いて「なんだ」とヴィルマーが言えば、彼女の聡明な瞳が彼を見抜くようにまっすぐ彼に向く。
「サーレック辺境伯には子だくさんで、5人のお子さんがいらっしゃるという話」
「……」
「そのうちの次男は、放浪癖があって家を出たっきりとお伺いしましたが、本当はそうではないんだとわたしは思うんですよ」
肩を竦めて「そうかい」とヴィルマーは呟き、困ったようにため息をつく。
「レトレイド伯爵んとこの長女が騎士団長を辞任したことは、噂には聞いている」
「そうですか」
「それで、手を打ってくれないか。君も、どうやら身分をひけらかすようなことをしたくないのだろう?」
「手を打つとは? 何のことやら」
そう言ってミリアはくくっと笑う。ヴィルマーはすっかり毒気を抜かれて「ええ?」と情けない声をあげた。
「俺は困るんだよなぁ~……どこでバレた? バレないようにしていたはずなんだけど」
「そんなに仕立ての良い服を着ていらっしゃるからですよ。薄汚れていてもわかりますし、みなさんが乗っている馬も良い馬ではないですか」
「ううーん、そうかなぁ? もう3年ぐらい着ているからかなり汚れているんだけど」
そう言ってヴィルマーは自分の服をじろじろと見た。それをミリアはくすりと笑う。
「服の仕立てというものは、汚れなどでは補えないほどの力を持ちますからね。ぱっと見たところはその辺の傭兵部隊のように見えますが、クラウスさんもそれなりの家柄の方なのでしょう」
「あれは、うちの傍系、俺の従兄だよ。まったく、よく、君のような聡明な人がこの町に来てくれたもんだ。申し訳ないとは思うが、君の怪我に感謝だな……」
「そうですね。わたしにとってあの怪我は、退団をするほどのものだったので、まったく歓迎は出来ないものだったのですが……ここに滞在をして、案外と悪くないものだと思いました。良いものです。そこになかったものを作り出そうとする力と言うものは」
「……すまん」
「いいえ。それに、あなたにもお会い出来たので。おかげで、このサーレック辺境伯の領地の問題を知ることが出来ましたし、それに対する王城の対応も知ることが出来た。これまで、他の町というものは旅の拠点や通過点としか見ていませんでしたが……」
ミリアは、起き上がって軽く挨拶をして帰宅していく男たちに、軽く手をあげた。ヘルマは彼らにパンを配ったり、明日の鍛錬のことを説明したりと忙しそうだし、それをクラウスが横で呑気で眺めている。その様子を見て、軽く口の端をあげた。
「なかなか、良いものですね。そこに自分が滞在をして、何かを作って残そうとしているということは。これは、町長にも感謝です」
「そうか。何か『あなた』のためになったならば、それは良かった。この、何もない町に滞在を強いることになったことに不安だったが、そう言ってもらえるとありがたい」
そうヴィルマーが言うと、ミリアは「はい」と微笑んだ。その笑みを彼はしばらくの間じっと見つめる。だが、そんな2人のことをなんとも思わないように、子供たちがそこに現れて
「ヴィルマーだ!」
「ヴィルマー、遊ぼうぜ!」
と、口々に彼に駆け寄って来る。ミリアは「ふふ」と小さく笑ってそこから離れてヘルマの方へ行く。彼女の背後でヴィルマーは「俺は走って来たばかりで疲れてんだよ!」と叫んだ。そう疲れてもいないくせに、とミリアは心の中で呟いた。
「ちょっと! パンは一人1袋だよ! あんたさっきも持って行ったでしょ!」
「バレちまったか」
「ヘルマはちゃーんと見てるからなぁ~!」
そう言って、まだ残っていた人々はげらげらと大声で笑った。ヘルマはたんたんと足で土を踏んで「もお~! そんなに欲しいなら、金を出しな!」と言って、また人々はそれで笑う。
「えっ、金を出せばもっと買わせてくれるんですか」
突然横にいたクラウスがそう言いだしたものだから、ヘルマは驚いてたじろぐ。
「えっ、あっ」
「おいくらですか」
「ひゃ、100ゴート!」
宿屋の料金以上だ、そりゃねぇだろ!と人々がどっと笑うと、クラウスはポケットをごそごそとまさぐって銀貨を出した。
「500ゴートがあるんで、これで5セット……」
「あんた馬鹿なの!?」
男たちは「ヘルマ、そいつにかまうな。そいつは頭がちっとおかしいんだ」と囃し立てる。そこにミリアが割り込んで
「材料を持ってきてくれれば、焼きますけど?」
と、現実的な提案をした。すると、クラウスは「わかりました。では材料を教えていただけますか。あっ、あと、これはミリアさんがおつくりになるんですよね?」と尋ねる。
「ええ、ヘルマも手伝ってくれますけど」
「わかりました。じゃあ、ヴィルマーに転売できるな……」
遠くでヴィルマーが「クラウス! お前、何言ってんだ!」と声をあげた。男たちはげらげら笑って「ミリアを狙ってんだったら、おとといきやがれ!」と叫ぶ。
「まあ。だったら、クラウスさんを通さずわたしがヴィルマーさんに高く売りつけますよ?」
ミリアがそうとぼけたように言うので、それにはクラウスもヘルマも笑い、ヴェルマーは遠くで子供たちにぶらさがられながら「いくらなんでもそんなにいらんだろうが!」と叫ぶだけだった。
「サーレック辺境伯には子だくさんで、5人のお子さんがいらっしゃるという話」
「……」
「そのうちの次男は、放浪癖があって家を出たっきりとお伺いしましたが、本当はそうではないんだとわたしは思うんですよ」
肩を竦めて「そうかい」とヴィルマーは呟き、困ったようにため息をつく。
「レトレイド伯爵んとこの長女が騎士団長を辞任したことは、噂には聞いている」
「そうですか」
「それで、手を打ってくれないか。君も、どうやら身分をひけらかすようなことをしたくないのだろう?」
「手を打つとは? 何のことやら」
そう言ってミリアはくくっと笑う。ヴィルマーはすっかり毒気を抜かれて「ええ?」と情けない声をあげた。
「俺は困るんだよなぁ~……どこでバレた? バレないようにしていたはずなんだけど」
「そんなに仕立ての良い服を着ていらっしゃるからですよ。薄汚れていてもわかりますし、みなさんが乗っている馬も良い馬ではないですか」
「ううーん、そうかなぁ? もう3年ぐらい着ているからかなり汚れているんだけど」
そう言ってヴィルマーは自分の服をじろじろと見た。それをミリアはくすりと笑う。
「服の仕立てというものは、汚れなどでは補えないほどの力を持ちますからね。ぱっと見たところはその辺の傭兵部隊のように見えますが、クラウスさんもそれなりの家柄の方なのでしょう」
「あれは、うちの傍系、俺の従兄だよ。まったく、よく、君のような聡明な人がこの町に来てくれたもんだ。申し訳ないとは思うが、君の怪我に感謝だな……」
「そうですね。わたしにとってあの怪我は、退団をするほどのものだったので、まったく歓迎は出来ないものだったのですが……ここに滞在をして、案外と悪くないものだと思いました。良いものです。そこになかったものを作り出そうとする力と言うものは」
「……すまん」
「いいえ。それに、あなたにもお会い出来たので。おかげで、このサーレック辺境伯の領地の問題を知ることが出来ましたし、それに対する王城の対応も知ることが出来た。これまで、他の町というものは旅の拠点や通過点としか見ていませんでしたが……」
ミリアは、起き上がって軽く挨拶をして帰宅していく男たちに、軽く手をあげた。ヘルマは彼らにパンを配ったり、明日の鍛錬のことを説明したりと忙しそうだし、それをクラウスが横で呑気で眺めている。その様子を見て、軽く口の端をあげた。
「なかなか、良いものですね。そこに自分が滞在をして、何かを作って残そうとしているということは。これは、町長にも感謝です」
「そうか。何か『あなた』のためになったならば、それは良かった。この、何もない町に滞在を強いることになったことに不安だったが、そう言ってもらえるとありがたい」
そうヴィルマーが言うと、ミリアは「はい」と微笑んだ。その笑みを彼はしばらくの間じっと見つめる。だが、そんな2人のことをなんとも思わないように、子供たちがそこに現れて
「ヴィルマーだ!」
「ヴィルマー、遊ぼうぜ!」
と、口々に彼に駆け寄って来る。ミリアは「ふふ」と小さく笑ってそこから離れてヘルマの方へ行く。彼女の背後でヴィルマーは「俺は走って来たばかりで疲れてんだよ!」と叫んだ。そう疲れてもいないくせに、とミリアは心の中で呟いた。
「ちょっと! パンは一人1袋だよ! あんたさっきも持って行ったでしょ!」
「バレちまったか」
「ヘルマはちゃーんと見てるからなぁ~!」
そう言って、まだ残っていた人々はげらげらと大声で笑った。ヘルマはたんたんと足で土を踏んで「もお~! そんなに欲しいなら、金を出しな!」と言って、また人々はそれで笑う。
「えっ、金を出せばもっと買わせてくれるんですか」
突然横にいたクラウスがそう言いだしたものだから、ヘルマは驚いてたじろぐ。
「えっ、あっ」
「おいくらですか」
「ひゃ、100ゴート!」
宿屋の料金以上だ、そりゃねぇだろ!と人々がどっと笑うと、クラウスはポケットをごそごそとまさぐって銀貨を出した。
「500ゴートがあるんで、これで5セット……」
「あんた馬鹿なの!?」
男たちは「ヘルマ、そいつにかまうな。そいつは頭がちっとおかしいんだ」と囃し立てる。そこにミリアが割り込んで
「材料を持ってきてくれれば、焼きますけど?」
と、現実的な提案をした。すると、クラウスは「わかりました。では材料を教えていただけますか。あっ、あと、これはミリアさんがおつくりになるんですよね?」と尋ねる。
「ええ、ヘルマも手伝ってくれますけど」
「わかりました。じゃあ、ヴィルマーに転売できるな……」
遠くでヴィルマーが「クラウス! お前、何言ってんだ!」と声をあげた。男たちはげらげら笑って「ミリアを狙ってんだったら、おとといきやがれ!」と叫ぶ。
「まあ。だったら、クラウスさんを通さずわたしがヴィルマーさんに高く売りつけますよ?」
ミリアがそうとぼけたように言うので、それにはクラウスもヘルマも笑い、ヴェルマーは遠くで子供たちにぶらさがられながら「いくらなんでもそんなにいらんだろうが!」と叫ぶだけだった。
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