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偶然の鉢合わせ(1)
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「……ヴィルマーさん、ですよね……?」
「やあ……まさかこんなところで」
リリアナの結婚式。そこで、ミリアはヴィルマーで出くわした。驚きで双方目を見開いて言葉が出なかった時間が数秒。ようやく挨拶を交わして、困惑の時間が流れる。
「いや、お相手の子が、レトレイド伯爵家の傍系の子だと昨日聞いて……まさかとは思っていたんだけどな」
「ヴィルマーさんは、サーレック辺境伯家の代表か何かで?」
「違う。新郎の知人だ」
「まあ。そうだったんですね」
会場はグライリヒ子爵家のすぐ近くにある教会だった。参列者は野外の控室に集まって、みな楽しそうに会話をしている。ミリアは傍系の人々と軽く挨拶を終えた後、一人で座っているヴィルマーを発見して、驚いて声をかけたのだった。慌てて立ち上がったヴィルマーは、軽く目線で少し離れた場所へミリアを誘導する。
「その……えっと……」
「?」
「綺麗だな。君は。本当に、よくそのドレスが似合っている」
いくらか照れたようにヴィルマーはそう言って、ミリアから目を逸らした。
ミリアは、ピーコックグリーンのドレスを身にまとっていた。胸元より上は何もなく、上質な生地が体のラインに沿って美しい曲線を膝付近まで描き、そこから大きなラッフルが足元まで流れている。足元は黒いヒールでぐるりと小さな宝石が縁に並べられている。
髪は後頭部の高い位置でまとめられて、大きな白い花があしらわれており、他に何の装飾品はない。だが、それがむしろ彼女の美しさを際立たせていた。
「ありがとうございます。あなたも……やはり、そういう恰好をなさっているのが、お似合いのように思えます」
彼の装いも、いかにもな貴族のものだった。が、多くの装飾品は身につけてはいない。最近王城近辺で流行っているレース襟や長いカフスもせず、ジャガード織の濃い茶色のジャケットを仕立ての良い白いシャツの上に羽織っている。胸元にも勿論レースは施さず、それなりの金額がするのであろう宝石がはめられたループタイに、黒いパンツ。そのどれもが、なんとなくどこかは力が抜けていて、けれど、貴族らしさは損なわれておらず、彼に似合っているとミリアは思う。
「正直、苦手なんだ。こういう服は。胸元はもう少し開けたい。一番上までボタンを閉めるなんて言語道断だ」
「式の間は我慢なさってくださいね」
「努力はするよ……」
その、少し心もとない声にミリアは「ふふ」と笑い声をあげた。
「ヤーナックは……警備隊は、ヘルマに任せているのか。それとも、彼女もここに?」
「いえ、彼女には留守を任せました。さすがに、ああいうちょっとした揉め事があった後に、2人が同時に留守にするのはよろしくないかと思って」
「ああ、そうだな……今日は? 式の後、ヤーナックに帰るのか?」
「今晩はグライリヒ子爵がリリアナのために用意してくださった別荘に泊まって、明日ヤーナックに戻る予定です」
「そうか。じゃあ、この式の後のお披露目会も出席を?」
「いいえ。そちらには出ません。あまりこういう場は得意ではないので」
「じゃあ、終わったら……」
と、ヴィルマーの言葉を遮るように、突然教会付近に花吹雪が舞った。勿論、そんな花吹雪が舞うような花を咲かせた木々はない。雇われの魔導士が風魔法を使って、大量の花びらを周囲に撒いたのだろう。
ピンク色やオレンジ色の美しい花びらが風に乗って、ふわりと辺りに散っていく。参列予定の者たちは「わあ」と声をあげてそれを眺めた。次には、水魔法と光魔法を使っているのか、あちらこちらに虹が現れる。最近王城付近でよくある演出だが、なかなかグライリヒ子爵は流行りものに敏感なようだ……とミリアはそれを見ている。
「すごいなぁ。演出というものは大切なんだな……」
ヴィルマーは感心してそんなことを言う。そんな感想が出てくるとは思わなかったミリアは、小さく笑った。
「ご参列の皆様、どうぞ中にお入りくださいませ」
教会の扉が開く。ミリアは「前の方の座席なので、お先に」と言って、ヴィルマーの前からさっさと去って、教会の中に進んでいく。彼女は本家の代表なので、参列の座席順が前の方だ。そして、一方のヴィルマーは新郎の知人のため、少し後ろの座席になっている。
ヴィルマーは彼女を見送って
「まいったな……本当に綺麗だ」
と、ぽつりと呟いたが、当然その言葉はミリアには届かなかった。
「やあ……まさかこんなところで」
リリアナの結婚式。そこで、ミリアはヴィルマーで出くわした。驚きで双方目を見開いて言葉が出なかった時間が数秒。ようやく挨拶を交わして、困惑の時間が流れる。
「いや、お相手の子が、レトレイド伯爵家の傍系の子だと昨日聞いて……まさかとは思っていたんだけどな」
「ヴィルマーさんは、サーレック辺境伯家の代表か何かで?」
「違う。新郎の知人だ」
「まあ。そうだったんですね」
会場はグライリヒ子爵家のすぐ近くにある教会だった。参列者は野外の控室に集まって、みな楽しそうに会話をしている。ミリアは傍系の人々と軽く挨拶を終えた後、一人で座っているヴィルマーを発見して、驚いて声をかけたのだった。慌てて立ち上がったヴィルマーは、軽く目線で少し離れた場所へミリアを誘導する。
「その……えっと……」
「?」
「綺麗だな。君は。本当に、よくそのドレスが似合っている」
いくらか照れたようにヴィルマーはそう言って、ミリアから目を逸らした。
ミリアは、ピーコックグリーンのドレスを身にまとっていた。胸元より上は何もなく、上質な生地が体のラインに沿って美しい曲線を膝付近まで描き、そこから大きなラッフルが足元まで流れている。足元は黒いヒールでぐるりと小さな宝石が縁に並べられている。
髪は後頭部の高い位置でまとめられて、大きな白い花があしらわれており、他に何の装飾品はない。だが、それがむしろ彼女の美しさを際立たせていた。
「ありがとうございます。あなたも……やはり、そういう恰好をなさっているのが、お似合いのように思えます」
彼の装いも、いかにもな貴族のものだった。が、多くの装飾品は身につけてはいない。最近王城近辺で流行っているレース襟や長いカフスもせず、ジャガード織の濃い茶色のジャケットを仕立ての良い白いシャツの上に羽織っている。胸元にも勿論レースは施さず、それなりの金額がするのであろう宝石がはめられたループタイに、黒いパンツ。そのどれもが、なんとなくどこかは力が抜けていて、けれど、貴族らしさは損なわれておらず、彼に似合っているとミリアは思う。
「正直、苦手なんだ。こういう服は。胸元はもう少し開けたい。一番上までボタンを閉めるなんて言語道断だ」
「式の間は我慢なさってくださいね」
「努力はするよ……」
その、少し心もとない声にミリアは「ふふ」と笑い声をあげた。
「ヤーナックは……警備隊は、ヘルマに任せているのか。それとも、彼女もここに?」
「いえ、彼女には留守を任せました。さすがに、ああいうちょっとした揉め事があった後に、2人が同時に留守にするのはよろしくないかと思って」
「ああ、そうだな……今日は? 式の後、ヤーナックに帰るのか?」
「今晩はグライリヒ子爵がリリアナのために用意してくださった別荘に泊まって、明日ヤーナックに戻る予定です」
「そうか。じゃあ、この式の後のお披露目会も出席を?」
「いいえ。そちらには出ません。あまりこういう場は得意ではないので」
「じゃあ、終わったら……」
と、ヴィルマーの言葉を遮るように、突然教会付近に花吹雪が舞った。勿論、そんな花吹雪が舞うような花を咲かせた木々はない。雇われの魔導士が風魔法を使って、大量の花びらを周囲に撒いたのだろう。
ピンク色やオレンジ色の美しい花びらが風に乗って、ふわりと辺りに散っていく。参列予定の者たちは「わあ」と声をあげてそれを眺めた。次には、水魔法と光魔法を使っているのか、あちらこちらに虹が現れる。最近王城付近でよくある演出だが、なかなかグライリヒ子爵は流行りものに敏感なようだ……とミリアはそれを見ている。
「すごいなぁ。演出というものは大切なんだな……」
ヴィルマーは感心してそんなことを言う。そんな感想が出てくるとは思わなかったミリアは、小さく笑った。
「ご参列の皆様、どうぞ中にお入りくださいませ」
教会の扉が開く。ミリアは「前の方の座席なので、お先に」と言って、ヴィルマーの前からさっさと去って、教会の中に進んでいく。彼女は本家の代表なので、参列の座席順が前の方だ。そして、一方のヴィルマーは新郎の知人のため、少し後ろの座席になっている。
ヴィルマーは彼女を見送って
「まいったな……本当に綺麗だ」
と、ぽつりと呟いたが、当然その言葉はミリアには届かなかった。
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