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偶然の鉢合わせ(2)
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リリアナの結婚式はつつがなく行われ、教会から新郎新婦が出るのに、人々は一旦先に外に出て、花道のように左右に分かれた。新郎新婦は、花を入れたかごを持つ少年と少女を隣に従えて、そこから一輪ずつ参列者に手渡していく。
「ミリアお姉さま!」
リリアナは嬉しそうにミリアに近づくと、またもミリアの両頬にキスをした。ミリアは少しだけ照れくさそうに、リリアナの片頬だけにキスを返す。
「お幸せに」
「ありがとうございます。お姉さまも。次は、お姉さまの結婚式に招待されたいわ」
そう言って、リリアナは自分が手にもっていたブーケをミリアに手渡した。仕方がない、という微妙な表情で受け取って、ミリアは
「そうね。そのうちね」
と、少しだけ素気ない返事をする。が、リリアナはそれをどうとも思っていないようで、にこにこ笑いながら次の参列者に花をすぐに手渡して、さっさと行ってしまった。
やがて、人々は花嫁花婿が馬車に乗って、お披露目会の控室に向かうのを見送る。お披露目会こそ、大掛かりな式となり、それこそグライリヒ子爵の仕事の関係者――結婚した令息とは関係がなくとも――が大量に押しかけてくるだろうし、双方の友人も多くかけつけてくるに違いない。
馬車が多数用意されて、そこに、お披露目会会場に移動をする人々が乗り込んでいく。ミリアは「わたしはこれで。先に別荘に戻っています」とリリアナの家族に挨拶をすると、後ろから声をかけられた。
「ミリア。少し俺に付き合ってくれないか」
ヴィルマーだ。一体何をしようというのだろう。それを尋ねてもよかったが、ミリアはただ「はい」とだけ返事をした。
ヴィルマーはミリアを自分の馬車に乗せる。さすがの彼も、今日は馬に乗ってきたわけではないとわかり、ミリアは小さく笑った。
「なんだ?」
「いえ、なんでもありません」
「君は、実は何気に俺のことをよく笑っているな?」
「そうでしょうか?」
「そうだぞ。今みたいにな」
ヴィルマーはそれ以上、どうしてミリアが笑ったのかを聞かない。不思議だな、とミリアは思う。彼は、必要な時は聞く。だが、必要ではない時、こちらが内緒にしたい時は聞かない。一体どう鼻が利くのかはわからないが、そう思う。
(というか、そう思わされているだけかしら。わたしが。だとしたら、それはそれで大したものだ……)
馬車のボックスの窓から、流れる風景をそっと見る。すると、ヴィルマーが
「ブーケをもらったのか」
と、話しかける。
「はい」
「結婚をする予定があるのかい?」
「いいえ、ありません」
なんとなく、ヴィルマーの顔を見るのが怖くて、ミリアは窓の外を見ながら答える。きっと、多分、彼はほっとした表情をしているのだろうと思う。いや、だが、それは勝手な思い込みだ。もしかしたら、ただの世間話のようで、どうとも思っていない表情をしているのかもしれない。それを確認することが、なんだか怖いと思う。
「わたしは、婚約破棄をされてしまったので」
「は? 婚約破棄?」
ヴィルマーは声を荒げた。
「君が? 君から、ではなく?」
「ふふ、わたしが、する側だとあなたは思っていらっしゃるんですか?」
「だって、そうだろう」
ヴィルマーの言葉はそこで止まる。彼がどうしてそう言ったのかはミリアにはわからない。なんとなく、その言葉の意味を追求したい気持ちもあったけれど、それもなんだか恐ろしいと思え、彼女は一旦口をつぐんだ。
「そんな大層な話ではありません。ただ、わたしが騎士団長でいることが、お相手には想定外だったということ。ただ、それだけです」
表面的なことを言うミリア。だが、ヴィルマーは一瞬眉根をひそめ、それから
「すまない。君に、嫌なことを思い出させてしまって」
と、謝罪をした。まさかそんな風に言われるとは思わなかったミリアは、また「ふふ」と笑って「いいえ、まったく問題はありません。あなたは優しい人ですね」と告げた。
「そうかな……人には、たまに言われるが、俺はそう優しい人でもないと思うよ」
「そうですか?」
「ヤーナックをはじめとした、色々な町で人々を騙しているわけだしな。優しくはない」
ああ、それは、サーレック辺境伯の令息だということを隠しているという話か。ミリアはすぐにそう思い当たって「それはまた別の話ですよ」と言った。
「そうでもない。遠くない未来に、彼らに俺の肩書きを打ち明けなくちゃいけなくなる。その時のことを考えると、正直憂鬱ではある」
「そう、ですね。それは確かに」
「何とも思わないってわけにはいかないだろうさ。勿論、許してくれる人たちがほとんどだろうが、全員じゃあないだろうしな」
「打ち明けるということは……傭兵稼業は止めて、家に入るということですか」
「そうだな。どちらにしたって、すべての町に兵士が配属されてつつがなく外敵から守れるようになれば、俺たちの仕事は終わりだ。俺一人の話でもなくな」
それは確かにそうだ。今はそれが出来ていないから、彼らが各地を巡回するように回ってくれているのだし。
「お、そろそろ着くな」
ヴィルマーは窓の外を見てそう告げた。ミリアは「なんですか?」と言って、それまで見ていたのと反対側の窓から外を覗き、そして絶句した。
「ミリアお姉さま!」
リリアナは嬉しそうにミリアに近づくと、またもミリアの両頬にキスをした。ミリアは少しだけ照れくさそうに、リリアナの片頬だけにキスを返す。
「お幸せに」
「ありがとうございます。お姉さまも。次は、お姉さまの結婚式に招待されたいわ」
そう言って、リリアナは自分が手にもっていたブーケをミリアに手渡した。仕方がない、という微妙な表情で受け取って、ミリアは
「そうね。そのうちね」
と、少しだけ素気ない返事をする。が、リリアナはそれをどうとも思っていないようで、にこにこ笑いながら次の参列者に花をすぐに手渡して、さっさと行ってしまった。
やがて、人々は花嫁花婿が馬車に乗って、お披露目会の控室に向かうのを見送る。お披露目会こそ、大掛かりな式となり、それこそグライリヒ子爵の仕事の関係者――結婚した令息とは関係がなくとも――が大量に押しかけてくるだろうし、双方の友人も多くかけつけてくるに違いない。
馬車が多数用意されて、そこに、お披露目会会場に移動をする人々が乗り込んでいく。ミリアは「わたしはこれで。先に別荘に戻っています」とリリアナの家族に挨拶をすると、後ろから声をかけられた。
「ミリア。少し俺に付き合ってくれないか」
ヴィルマーだ。一体何をしようというのだろう。それを尋ねてもよかったが、ミリアはただ「はい」とだけ返事をした。
ヴィルマーはミリアを自分の馬車に乗せる。さすがの彼も、今日は馬に乗ってきたわけではないとわかり、ミリアは小さく笑った。
「なんだ?」
「いえ、なんでもありません」
「君は、実は何気に俺のことをよく笑っているな?」
「そうでしょうか?」
「そうだぞ。今みたいにな」
ヴィルマーはそれ以上、どうしてミリアが笑ったのかを聞かない。不思議だな、とミリアは思う。彼は、必要な時は聞く。だが、必要ではない時、こちらが内緒にしたい時は聞かない。一体どう鼻が利くのかはわからないが、そう思う。
(というか、そう思わされているだけかしら。わたしが。だとしたら、それはそれで大したものだ……)
馬車のボックスの窓から、流れる風景をそっと見る。すると、ヴィルマーが
「ブーケをもらったのか」
と、話しかける。
「はい」
「結婚をする予定があるのかい?」
「いいえ、ありません」
なんとなく、ヴィルマーの顔を見るのが怖くて、ミリアは窓の外を見ながら答える。きっと、多分、彼はほっとした表情をしているのだろうと思う。いや、だが、それは勝手な思い込みだ。もしかしたら、ただの世間話のようで、どうとも思っていない表情をしているのかもしれない。それを確認することが、なんだか怖いと思う。
「わたしは、婚約破棄をされてしまったので」
「は? 婚約破棄?」
ヴィルマーは声を荒げた。
「君が? 君から、ではなく?」
「ふふ、わたしが、する側だとあなたは思っていらっしゃるんですか?」
「だって、そうだろう」
ヴィルマーの言葉はそこで止まる。彼がどうしてそう言ったのかはミリアにはわからない。なんとなく、その言葉の意味を追求したい気持ちもあったけれど、それもなんだか恐ろしいと思え、彼女は一旦口をつぐんだ。
「そんな大層な話ではありません。ただ、わたしが騎士団長でいることが、お相手には想定外だったということ。ただ、それだけです」
表面的なことを言うミリア。だが、ヴィルマーは一瞬眉根をひそめ、それから
「すまない。君に、嫌なことを思い出させてしまって」
と、謝罪をした。まさかそんな風に言われるとは思わなかったミリアは、また「ふふ」と笑って「いいえ、まったく問題はありません。あなたは優しい人ですね」と告げた。
「そうかな……人には、たまに言われるが、俺はそう優しい人でもないと思うよ」
「そうですか?」
「ヤーナックをはじめとした、色々な町で人々を騙しているわけだしな。優しくはない」
ああ、それは、サーレック辺境伯の令息だということを隠しているという話か。ミリアはすぐにそう思い当たって「それはまた別の話ですよ」と言った。
「そうでもない。遠くない未来に、彼らに俺の肩書きを打ち明けなくちゃいけなくなる。その時のことを考えると、正直憂鬱ではある」
「そう、ですね。それは確かに」
「何とも思わないってわけにはいかないだろうさ。勿論、許してくれる人たちがほとんどだろうが、全員じゃあないだろうしな」
「打ち明けるということは……傭兵稼業は止めて、家に入るということですか」
「そうだな。どちらにしたって、すべての町に兵士が配属されてつつがなく外敵から守れるようになれば、俺たちの仕事は終わりだ。俺一人の話でもなくな」
それは確かにそうだ。今はそれが出来ていないから、彼らが各地を巡回するように回ってくれているのだし。
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