弱みを見せない騎士令嬢は傭兵団長?に甘やかされる

今泉香耶

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2人の想い(1)

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「助けてくださって、ありがとうございます」

「それは、こちらのセリフだ。ヤーナックを守ってくれたんだろう。北側から来たので、事情はおおよそ聞いている」

 とはいえ、彼らがヤーナックに来るのは、予定よりも早いとミリアは知っている。だからこそ、まったく彼らのことを思い出さずにギスタークに対処したのだし。

「いつもより、早くヤーナックにいらしたのですね」

「ああ。サーレック辺境伯……父上から、ヤーナックに送る人員の確保が出来たと伝えられたので、急ぎでまず5人連れて来たんだ。よかった。本当に……もしそれがなければもうしばらく悠長にしていただろうし、来ていなければ……」

 きっと、ミリアは助けられなかった。だが、冗談でもそれを言葉にしたくないのか、それ以上彼は口にしない。

「君は、本当に無茶をして……」

ヴィルマーは、前に座る彼女の腰をぎゅっと後ろから強く抱きかかえ、彼女の肩に頭をがくんとつけた。ミリアは、背と腰に彼がぴったりとくっついていることに少し緊張をしつつ、鼓動が高鳴るのを必死に抑えようと「鎮まれ……」と念じる。

 しばらく、2人は互いに無言だった。こんな風に彼に抱かれていることが、なんだか嬉しいなんて。そう思いながら、体を彼にゆだねるミリア。やがて、ヴィルマーは顔をあげずに、呻くように言葉を発した。

「無事で本当によかった……君が1人でギスタークの死骸を持って出たと聞いた時、心臓が鷲掴みにされたようだった……」

 ミリアは首筋に当たるヴィルマーの髪をくすぐったいと思ったが、それへ、軽く自分の頭も傾げてそっとくっつけた。すると、彼はわずかにぴくりと反応をしたが、そのままの状態になり、互いの頭をつけて数秒。

(ああ、なんだか、この時間がとても)

 愛しいとミリアが思った時だった。ヴィルマーが、彼女に呟く。

「俺は、今回ヤーナックに言ったら、君に言おうと思っていたことがあるんだ」

「何でしょうか」

 ようやく、ミリアの肩からヴィルマーは頭をあげた。そっとそちらを伺い見れば、彼は静かに彼女を見ている。

 彼の体にもたれながら、体の向きを少しだけ変えて、彼を見上げるミリア。彼女からの視線を受けて、ヴィルマーは一度目を伏せた。それから「ああ」と小さく呟いてから、再び彼女の瞳を見ながら言う。

「俺は、君が好きだ」

 周囲は、わあわあとギスターク狩りで声をあげている。そして、近くにはすでにミリアに倒されたギスタークが何匹も倒れていた。そんな状態での告白。ミリアが答えずにヴィルマーを見上げていると、彼は眉根を潜めながら言葉を続ける。

「君は……俺が、勘違いをしているかもしれないが……俺を好きなんじゃ……ないか?」

  ミリアは一瞬目を大きく見開いた。それから、数秒の後「ふふ」と笑って、自分の腰を強く抱く彼の手の甲に触れる。一瞬だけ、彼の手がぴくりと動いたが、そのまま動きを止めた。

「わたしは、好きではない男性にこんなことは許しませんよ」

 好きだと口にすることが怖い。逃げているのはわかっている。だが、これこそ彼への甘えではないか。ミリアは首をわずかに傾げて彼を見上げた。

「そうか……そうか」

 そう言って、ヴィルマーは彼女の腰に回した腕に力を更に入れる。わあわあと人々の声が遠くで聞こえる最中。ミリアはそれを「嬉しい」と思いながら、胸の奥にじんわりと広がる何かを感じ取っていた。

 だが、それを邪魔するように、ずきん、と左足が強く痛み出す。

「ヴィルマーさん。左足が痛むので、このままヤーナックに一緒に乗せてもらっても良いですか?」

「ああ、勿論だ」

「わたしは、本当は甘えるのが得意ではないんですけど」

 でも。それでも、あなたに甘えてしまうのだ。その言葉は出さずに、ミリアは苦笑いを見せる。すると、ヴィルマーは「はは」と小さく笑った。

「そんな女に甘えられたら、男ってのは馬鹿だから舞い上がっちまう」

「舞い上がってください。是非」

 ヴィルマーは顔をあげ、彼女の腰を抱いていた腕を優しくほどくと、自分の腕に触れていた彼女の手を握りしめた。ミリアが驚いて、更に体をひねって後ろを振り向くと、彼はその彼女の手を自分の口元に導いた。

「好きだ」

 大きな手にいざなわれたミリアの手の甲に、彼は口づけを落とした。それから、そっとその手を離す。ああ、本当に彼は自分を好きだと言ってくれているのだ……すると、彼女は体を後ろにぐいと伸ばして彼を見上げた。

「お、おい、あぶな……」

 ほんの一瞬。軽く、ヴィルマーの下唇を掠めるようなキス。彼女の顔が離れると、ヴィルマーはいささか目を大きく見開き、驚きの表情になっていた。

「……なるほど、君は情熱的な人だったんだな。知らなかった」

「わたしも知りませんでした」
 
 そう言って、ミリアは頬を染めて俯く。ヴィルマーはそんな彼女の顔を横から覗こうとしたが、嫌がられる。「はは」と声を出して笑ってから、再び彼女の腰を強く抱いた。ミリアの背に当たる彼の胸板のたくましさと熱。それを、彼女は俯きながらじんわりと味わい、また、彼に口づけられた自分の片手を、もう片方の手で握る。

「なあ、もう一度……」

 そうヴィルマーが耳元で囁いた時、遠くで声が聞こえた。

「ヴィルマー! こっちはあらかた片付いたぞ!」

「おい、ヴィルマー!」

 傭兵たちの声だ。ヴィルマーは「うう」と呻いて顔をあげる。

「うるせぇな! クラウスはどうした! クラウスに聞け!」

 彼の腕の中にいるミリアは尋ねた。

「そういえば、傭兵団の方々は、全員がサーレック辺境伯の私兵か何かなのですか?」

「いや、違う。俺とクラウス以外は、みな普通に傭兵だ。おかげで、俺の言葉遣いもよろしくなくなったってわけだ」

 そう言ってヴィルマーはミリアを片手で抱き締めながら馬を動かした。見れば、ヤーナックの町の方から、ギスタークの死骸を片付けるために警備隊が向かっている。それへヴィルマーは手をあげ、ミリアも共に手をあげて出迎えた。こうして、ギスタークに関する騒動は終えることとなった。
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