弱みを見せない騎士令嬢は傭兵団長?に甘やかされる

今泉香耶

文字の大きさ
46 / 52

サーレック辺境伯(1)

しおりを挟む
 サーレック辺境伯邸の門を通ると、門兵が「ハルトムート様がお待ちになっております」とヴィルマーに告げる。

「ハルトムートってのは、俺の兄、次期サーレック辺境伯のことだ」

「ああ、そういえば、5人兄弟でしたよね?」

「そうだ。一番年が近い俺の妹は、もう結婚してとっくに家から出ている。兄貴ももうすぐ婚約者と結婚してこの家に住む。それから、弟妹が一人ずついるんだが、その2人は先日から王城方面のアカデミーに通うため、この家から出た」

 そんな会話をしながら、ヴィルマーとミリアは馬から降りる。すると、2人の兵士が近づいてきて「馬はこちらに」と手を差し出したので、ヴィルマーは手綱を渡した。

「ああ。ミリア、馬は家のそっちに繋いでおいてもらうから」

「わかりました。よろしくお願いいたします」

「はっ!」

 ミリアがうっすらと微笑んで手綱を渡せば、若い兵士はわずかに頬を紅潮させる。それを見たいヴィルマーは

「ミリアは俺のだぞ」

と雑な釘を刺し、兵士は「は、はいっ!」と声を裏返した。

「ううん、君はそういう恰好をしても綺麗だからな……」

「ええ? それは勘違いかと思いますよ」

「勘違いじゃないよ。その、あれだ……顔か、と言われてしまうと困るが、俺は、その、ほぼ一目惚れみたいなもんだったからな」

「え」

「こんなに美しい女性が、あんな綺麗な剣を振るうのかと。惚れ惚れとした」

 そう言うと、ヴィルマーは照れくさそうに「行こう」と雑に言葉を切って歩き出す。ミリアもまた、珍しくどう言葉を返していいかわからず「はい」と言って彼の後をついていった。

 玄関を開ければ、驚いたことにそこはまるで花道のように使用人が並んでいた。ヴィルマーがそれを見て「はあ?」と声をあげたので、ミリアは「ああ、普段はこうではないんだな」と理解をする。

「なんだ、一体どうしたんだ? 兄貴、これは何だ?」

 花道の先から歩いてくる男性の姿が。ヴィルマーによく似ているが、少しだけ年が上に見える。そして、少しだけヴィルマーよりも品があって落ち着いた印象をミリアは受けた。

「わたしもよくわからないんだが、父上が何やらこうやって迎えろと言って……」

 そう言いながら苦虫をつぶしたような表情を見せる。

「で、父上は?」

「この大事な瞬間に、魔道具で何やら連絡が入ったらしく、部屋から出てきてくれない」

「阿呆か!」

「本当は、この中央に立って『よくぞ帰ってきてくれた、息子よ!』とか言いたかったんじゃないかなぁ……」

 そのやりとりにミリアが目を瞬いていると、どこかの一室から荒っぽい声が聞こえる。どうやら二階からなのに、その声は案外と大きくエントランスにも響き渡った。

「うるさいうるさいうるさい! お前が何と言おうが、お前の娘さんは、俺の息子の嫁にするからな! レトレイド家に戻りたくなくなるぐらい、めちゃくちゃ大事にしてやるぞ! ざまあみろ!」

 ええ? とヴィルマーはミリアを見る。ミリアも驚いて口を半開きにして、だが、その直後にきゅっと引き結ぶ。

「待て待て、親父は誰と話をしてるんだ!?」

 大慌てでヴィルマーは使用人たちが作った花道を走って、エントランスから二階に続く階段をかけあがった。

 しばらく一同は呆気にとられてその様子を見ていたが、仕方がないな、とミリアは長男に向かって礼をする。

「丁重なお出迎え、感謝に堪えません。ミリア・レトレイドと申します。この度、サーレック辺境伯よりご招待をいただき、馳せ参じました。このような姿で申し訳ございませんが、お許しいただけますと忝く」

「ああ、これはご丁寧にありがとうございます。ハルトムート・サーレックと申します。このサーレック家の長男です。ようこそ、ミリア嬢。父のわがままにお付き合いいただいたようで、大変申し訳ございません」

「いえ、わがままだなんて」

 などと話をしていると、バタン、と大きな音をたてて一室の扉が開いたようだった。ヴィルマーがずかずかと出てきて「ミリア!」と二階から声をかける。

「なんでしょうか?」

「君のお父上に、俺の父親が何やら喧嘩を売ったようだぞ!」

「……それは、それは」

「なんでそんなに冷静なんだ!?」

「いえ、それだけ言われても……むしろ、わたしの父が喧嘩を買ったところを見てみたいのですが……買ったのでしょうか?」

「気にするのはそこじゃないだろ!?」

「いいえ。レトレイド家は武官の家門。レトレイド家に喧嘩を正しい形で売って、買ったのであれば、解決をするのは武によってのみ。場合によっては、サーレック辺境伯とわたしの父が決闘でもする可能性が」

 そこへ、開け放たれた扉の中から「はあ!? 決闘!? 受けるわけないだろうが、バーカ! もう切るぞ!」と言う声が聞こえた。それを聞いて、ミリアは冷静に

「ああ、父は正しく買おうとしたのですね。なるほど」

と言うものだから、ハルトムートは

「ミリア嬢は変わった方だな……?」

 と、いくらか呆れたように呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虜囚の王女は言葉が通じぬ元敵国の騎士団長に嫁ぐ

あねもね
恋愛
グランテーレ国の第一王女、クリスタルは公に姿を見せないことで様々な噂が飛び交っていた。 その王女が和平のため、元敵国の騎士団長レイヴァンの元へ嫁ぐことになる。 敗戦国の宿命か、葬列かと見紛うくらいの重々しさの中、民に見守られながら到着した先は、言葉が通じない国だった。 言葉と文化、思いの違いで互いに戸惑いながらも交流を深めていく。

元婚約者に冷たく捨てられた令嬢、辺境で出会った無愛想な騎士に溺愛される ~今さら戻ってこないでください~

usako
恋愛
婚約者に「平民の娘と結婚する」と一方的に婚約破棄された名門令嬢レティシア。 心が傷ついた彼女はすべてを捨て、辺境の小領地へと旅立つ。 そこで出会ったのは、無口で不器用だが誰よりも誠実な騎士・エドガー。 彼の優しさに癒され、次第に芽生える信頼と恋心。 けれど元婚約者が後悔とともに彼女を探しに来て――「もう遅い」と彼女は微笑む。 ざまぁと溺愛の王道を詰め込んだ、胸キュン辺境ラブストーリー。

私のお金が欲しい伯爵様は離婚してくれません

みみぢあん
恋愛
祖父の葬儀から帰ったアデルは、それまで優しかった夫のピエールに、愛人と暮らすから伯爵夫人の部屋を出ろと命令される。 急に変わった夫の裏切りに激怒したアデルは『離婚してあげる』と夫に言うが… 夫は裕福な祖父の遺産相続人となったアデルとは離婚しないと言いはなつ。 実家へ連れ帰ろうと護衛騎士のクロヴィスがアデルをむかえに来るが… 帰る途中で襲撃され、2人は命の危険にさらされる。

【本編完結】厄災烙印の令嬢は貧乏辺境伯領に嫁がされるようです

あおまる三行
恋愛
王都の洗礼式で「厄災をもたらす」という烙印を持っていることを公表された令嬢・ルーチェ。 社交界では腫れ物扱い、家族からも厄介者として距離を置かれ、心がすり減るような日々を送ってきた彼女は、家の事情で辺境伯ダリウスのもとへ嫁ぐことになる。 辺境伯領は「貧乏」で知られている、魔獣のせいで荒廃しきった領地。 冷たい仕打ちには慣れてしまっていたルーチェは抵抗することなくそこへ向かい、辺境の生活にも身を縮める覚悟をしていた。 けれど、実際に待っていたのは──想像とはまるで違う、温かくて優しい人々と、穏やかで心が満たされていくような暮らし。 そして、誰より誠実なダリウスの隣で、ルーチェは少しずつ自分の居場所を取り戻していく。 静かな辺境から始まる、甘く優しい逆転マリッジラブ物語。 【追記】本編完結しました

【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@コミカライズ決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

妹のために愛の無い結婚をすることになりました

バンブー竹田
恋愛
「エミリー、君との婚約は破棄することに決まった」 愛するラルフからの唐突な通告に私は言葉を失ってしまった。 婚約が破棄されたことはもちろんショックだけど、それだけじゃない。 私とラルフの結婚は妹のシエルの命がかかったものでもあったから・・・。 落ちこむ私のもとに『アレン』という大金持ちの平民からの縁談が舞い込んできた。 思い悩んだ末、私は会ったこともない殿方と結婚することに決めた。

処理中です...