弱みを見せない騎士令嬢は傭兵団長?に甘やかされる

今泉香耶

文字の大きさ
47 / 52

サーレック辺境伯(2)

しおりを挟む
「おお、これは、これは、レトレイド伯爵令嬢。よく、ここまで来てくださった。わたしが、サーレック辺境伯だ!」

 まるで今までのやりとりを誰も聞いていなかったかのように、2階から慌てて降りて来た人物は、そう言ってミリアに手を差し伸べた。目を何度か瞬いてから、握手を交わすミリア。

「サーレック辺境伯、お招きありがとうございます。ミリア・レトレイドと申します。お伺いするのが少々遅くなってしまって、大変申し訳ございませんでした」

「いやいや、左足の件は、うちの息子から聞いていた。それから、騎士団を退職した話についても、レトレイド公から話を聞いていてな。スヴェンをお勧めしたらどうかと思っていたら、君の方からヤーナックに来たと伺った」

 そう言いながらサーレック辺境伯はにこにこと笑みを見せた。年のころは50歳頃。骨格はヴィルマー、ハルトムートとよく似ており、身長もほとんど同じ。だが、少しだけ痩せているようだ。それが年齢に応じてなのか、もともとそうだったのかはわからない。だが、見るからに「ここにいる2人の父親だ」と思える。

「さあ、では客間にご案内しよう。侍女長、茶を用意してくれるかな」

「はい」

 そう言って、サーレック辺境伯は一階の別室へと向かう。花道を作るように並んでいた使用人たちは軽く頭をさげ、ミリアたちが辺境伯の後をついていくまでそこに並び続けるのだった。



 話を聞けば、ミリアの父親であるレトレイド伯爵とサーレック辺境伯の仲は結構よかったようで、どうやら、通信を行う魔道具を使って双方で連絡をとりあっているのだと言う。それは、ただの友情ではなく、仕事に絡んでのことがほとんどらしい。

 サーレック辺境伯は改めて、ヤーナックの町にミリアたちが警備隊を作ったことを絶賛し、同時に感謝の言葉を述べた。そして、ギスタークの討伐についても。それらすべては、既に封書で礼を言われていたし、ミリアは「どれも、そう大した話ではありませんので」と言って軽く流そうとする。

 が、ハルトムートが「とはいえ、それらは我々の手が届かない場所で、かつ、届かなければいけない場所での出来事ですから」と添えれば、ヴィルマーも「同感だ。改めて、ありがとう」と頭を軽く下げた。

「さて、君にここに来てもらったのは他でもない。君に、お願いをしたいことがあってね」

「なんでしょうか?」

 客間で、サーレック辺境伯、そして長男のハルトムートが並び、その向かいにミリアとヴィルマーが並ぶ。

「君も既にご存じだと思うのだが、このサーレック辺境伯領は広すぎる」

「そのようです」

「そこで、この領地に関しては、辺境伯は一人。だが、統治をする者を、2手に分けようと思っているのだ」

 そう言って、辺境伯は地図をその場で広げた。それは、サーレック辺境伯領の地図。ミリアはそれを見て「予想よりも広い」と思う。わかっていたつもりではあったが、そこにあった地図は彼女の脳内にあった領内地図よりも詳細が記されており、細かな集落も書き入れられている。それらを見れば見るほど広いことを実感せざるを得ない。

「今、わたしの方から兵士を配置してない集落はここ、それからここ。ヤーナックのように、形ばかり配置をした場所はこことここ」

 指をさしながら確認をするサーレック辺境伯。

「また、この森、それからこちらの森に住んでいた者たちは数を増やしているので、今後その者たちと接触もしないといけない」

「えっ、増えたのか」

「移民が住み着いたんだ。それから、今のところヴィルマーに回ってもらっている地域はこちら」

 大きく指で線をたどる。そうやって見ると案外と少ないものの、国境沿いが多い。

「ここの町はまた後程町長と話し合いが必要なんだが……」

 と、サーレック辺境伯は話を進める。ミリアは一体なぜ自分がこの話に加わっているのだろうか、と疑問に思ったが、まずは余さずに聞こうと努めた。

「そこで、この地域とこの地域に、統治者を一人ずつ置いて、この中央への報告義務を課そうと思っている。それぞれの中心になる町は、こことここ」

「なるほど」

「こちらの地域はクラウスに任せようと思っている」

 ようやく、少しだけ話が見えて来た。ならば、ここにクラウスがいないことはおかしいのでは、と思うが、彼への打診の前にヴィルマーに話をつけたかったということだろうか。ちらりとミリアはヴィルマーを見たが、彼は眉根を寄せている。

「そして、こちらはヴィルマー、お前に任せたい」

「おいおい」

 それは彼にとっても寝耳に水だったようで、困惑の声を漏らした。

「俺が? クラウスはともかく、俺はそういう力は」

「そして、ぶしつけな申し入れではあるのだが、君にヴィルマーの補佐をお願いしたいのだ。ミリア嬢」

 そう言って、サーレック辺境伯はミリアを見た。静かなまなざしだ、と思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虜囚の王女は言葉が通じぬ元敵国の騎士団長に嫁ぐ

あねもね
恋愛
グランテーレ国の第一王女、クリスタルは公に姿を見せないことで様々な噂が飛び交っていた。 その王女が和平のため、元敵国の騎士団長レイヴァンの元へ嫁ぐことになる。 敗戦国の宿命か、葬列かと見紛うくらいの重々しさの中、民に見守られながら到着した先は、言葉が通じない国だった。 言葉と文化、思いの違いで互いに戸惑いながらも交流を深めていく。

元婚約者に冷たく捨てられた令嬢、辺境で出会った無愛想な騎士に溺愛される ~今さら戻ってこないでください~

usako
恋愛
婚約者に「平民の娘と結婚する」と一方的に婚約破棄された名門令嬢レティシア。 心が傷ついた彼女はすべてを捨て、辺境の小領地へと旅立つ。 そこで出会ったのは、無口で不器用だが誰よりも誠実な騎士・エドガー。 彼の優しさに癒され、次第に芽生える信頼と恋心。 けれど元婚約者が後悔とともに彼女を探しに来て――「もう遅い」と彼女は微笑む。 ざまぁと溺愛の王道を詰め込んだ、胸キュン辺境ラブストーリー。

私のお金が欲しい伯爵様は離婚してくれません

みみぢあん
恋愛
祖父の葬儀から帰ったアデルは、それまで優しかった夫のピエールに、愛人と暮らすから伯爵夫人の部屋を出ろと命令される。 急に変わった夫の裏切りに激怒したアデルは『離婚してあげる』と夫に言うが… 夫は裕福な祖父の遺産相続人となったアデルとは離婚しないと言いはなつ。 実家へ連れ帰ろうと護衛騎士のクロヴィスがアデルをむかえに来るが… 帰る途中で襲撃され、2人は命の危険にさらされる。

【本編完結】厄災烙印の令嬢は貧乏辺境伯領に嫁がされるようです

あおまる三行
恋愛
王都の洗礼式で「厄災をもたらす」という烙印を持っていることを公表された令嬢・ルーチェ。 社交界では腫れ物扱い、家族からも厄介者として距離を置かれ、心がすり減るような日々を送ってきた彼女は、家の事情で辺境伯ダリウスのもとへ嫁ぐことになる。 辺境伯領は「貧乏」で知られている、魔獣のせいで荒廃しきった領地。 冷たい仕打ちには慣れてしまっていたルーチェは抵抗することなくそこへ向かい、辺境の生活にも身を縮める覚悟をしていた。 けれど、実際に待っていたのは──想像とはまるで違う、温かくて優しい人々と、穏やかで心が満たされていくような暮らし。 そして、誰より誠実なダリウスの隣で、ルーチェは少しずつ自分の居場所を取り戻していく。 静かな辺境から始まる、甘く優しい逆転マリッジラブ物語。 【追記】本編完結しました

【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@コミカライズ決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

妹のために愛の無い結婚をすることになりました

バンブー竹田
恋愛
「エミリー、君との婚約は破棄することに決まった」 愛するラルフからの唐突な通告に私は言葉を失ってしまった。 婚約が破棄されたことはもちろんショックだけど、それだけじゃない。 私とラルフの結婚は妹のシエルの命がかかったものでもあったから・・・。 落ちこむ私のもとに『アレン』という大金持ちの平民からの縁談が舞い込んできた。 思い悩んだ末、私は会ったこともない殿方と結婚することに決めた。

処理中です...