没落寸前子爵令嬢ですが、絶倫公爵に抱き潰されました。

今泉香耶

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1.「俺は、明るいところでやるのが好きだからな」

「はあ~! どうしましょう。どうしましょう……」

 子爵令嬢のカロルは、外套に身を包んでおろおろと廊下を行き来する。ここは、カジノ場の奥、特別な客だけが寝泊まりする「特別室」と呼ばれる場所だ。足元には赤いカーペットが敷かれており、天井は神々しいシャンデリアが吊り下げられている。

 前もって与えられていたカードを入口で見せれば「速やかに部屋に入れ」と言われた。きっと、ここを使う者たちは、互いに顔を見せ合ってはいけないのだろう。だから、自分もすぐに部屋に入らなければいけないのだが……。

「うう、うう、いくらなんでも、うう……」

 もう、唸り声しか出ない。

「覚悟を決めなければいけないのに……うう……でも……わたしなんかが……」

 だが、やるしかない。これから、カロルは闇商人のゴーダの部屋に行って、どうにかこうにかゴーダを満足させなければいけないのだ。

(無理ですわ、無理……ひぃ……!)

 だが、やるしかない(二回目)。話はつけてあると言われて来たが、足が竦む。

 カジノで巨額の借金を作ってしまった父親がすべて悪い。正直、半分程度は騙されての借金だ。そもそも、もとから財政難ではあった。それでも、父親が悪いことには変わりがない。気は良い人物だが、才はない。先代から継いだ時点で傾いていた財政難を隠してなんとかやってきたが、ここ数年は没落貴族一歩手前という生活をしていた。

 そこに、自分の純潔1つで、まず巨額の借金返済がなくなるのだと言う。それをずっと父親は断っていたらしいが、そうしているうちに利子は膨れ上がる。なので、泣く泣くカロルはその条件を飲むことになった。

(わ、わ、わたしが、純潔を失っても……もう、それではどんな貴族にも嫁げないでしょうけれど、そもそもわたしを娶る先なんてないわ……うう、お兄様も弟もいるし、子爵家はどうにか……どうにかなるでしょう……! とにかく、借金を返して、それで、それで、どうにか……ああ……天国のお母様……わたしをお守りくださいませ……)

 足が震える。闇商人のゴーダは、どうやら「美しい初物」が好きらしい。一度だけ抱かれればいい。何故ならば「初物」は一度きりだからだ。その辺の「初物」を食い散らかしていた男だが、ついに、貴族令嬢に手を伸ばしたというわけだ。

 カロルは美しい波打つ金髪に、少しばかりおっとりとした顔立ち、そして、普段から困っているのだが、大きな胸をぎゅうぎゅうにドレスに詰め込んでいる。正直なところ、また胸が育ったようで、いくらか苦しい。だが、今日はそんなことを言ってもいられないのだ。

「ああ……畑仕事用の服を着て来るわけにもいかなかったけど、やっぱり苦しい……」

 ドレスを着るのが、まず久しぶりだった。日々、せめて焼けないようにと大きなつばの帽子をかぶって、体を覆う作業服を着て朝から晩まで働いて、帰宅をしたら湯浴みをして眠る。それらは、貴族の令嬢の日常からかけ離れている。だが、せめて何かをしていなければ、と昨年から領民と共に畑仕事に出ていた。そして、今年は例年に比べて豊作だったので、みなで喜んだ。喜んだ直後に借金の話をされて、どれほどカロルが悲しい気持ちになったことか。

 なんにせよ、久々に着たドレスはどれも胸が窮屈で、胸から腰までにボタンが並んでいるものしか入らなった。ボタンとボタンがひっぱられて、隙間が空いて肌が見えている。まったくもって恥ずかしい姿だが、どうしようもない。

(ううう……うう……角を曲がって、左から3室め。左から3室め……)

 震えながら、カロルは「右から」3室めの部屋をノックした。何度も脳内で「左」と繰り返していたのに、左右がわからなくなるほど委縮をしている。ノックすらきちんとできず「ガカッ」と妙な音をたててしまった。

「あ、あ」

 もう一度、トントン、とノックをやり直す。

「あら……?」

 返事がない。

「し、失礼いたします……」

 キィ、とドアを開ければ、鍵はかかっていないようだった。部屋は淡い光がぽつぽつと置いてあり、ぼんやりと調度品が浮かび上がって見える。

「あの、いらっしゃらない……のでしょうか?」

 そうっと外套を脱いで、室内に入る。誰もいないのか。おかしい。ゴーダは一時間前に、普段から使っているお気に入りの部屋に入って、カロル以外の女性と「遊んで」いるはずだったのに。

「もう、お眠りになってしまったのかしら?」

 カロルは目を凝らして室内を見る。奥に、天蓋つきの大きなベッドがあった。そこに、ゴーダがいるのだろうか……と恐る恐る覗く。

「もしや、お眠りでしょうか……? それとも、ベッドでお待ちなのでしょうか?」

 ベッドのカーテンが下りている。それをめくった瞬間

「きゃあああ!?」

 ぐい、と手を引っ張られてベッドに倒れ込むカロル。暗い中、男の声が耳元で響く。

「どこの手の者だ。ああ、鍵をかけていなかったか」

「うう、わ、わわわわたし……」

 腕をひねり上げられ、カロルは悲鳴をあげた。外套は床に落ちる。どうやらベッドにいたらしい男は、大きな手でカロルの服をまさぐった。

「なんだ? 俺を殺しに来たんじゃないのか。何も持っていないのか?」

「ち、違うのです……」

「違う?」

「わ、わたし、あの、だ、抱かれに……抱かれに、来たのですが……」

 動揺をして雑な言い回しになってしまった、と、更にそのことで動揺をする。

「は?」

「と、とにかく、もう覚悟は出来ておりますので……!」

 嘘だ。出来ていない。出来ていないが、出来ていると言ってしまえば、本当になる気がしてカロルは声をあげた。

「……きゃああ!?」

 次の瞬間、カロルのドレスの胸元が無理矢理引っ張られた。苦しい、と思ったのもほんの一瞬で、パン!とボタンがいくつかはじけ飛ぶ。

(な、な、な、なんてこと、なんてこと、なんてこと……!!!)

 恥ずかしいと言うにも、程度というものがある。いや、そもそも、胸元がボタンでなければもう入らないぐらいだったのだ、仕方がない。乱暴にドレスの胸元を下げられると、ぶるんと白い乳房が露わになった。それは、コルセットも下着もつけずに来いと言われたためだ。

「や……!」

「本当か? まあ、そうか。暗殺でも企んでいれば、いちいち声をかけて入ってこないか。そうだな。なるほど、お前は貢物か何かか?」

「あ、あ、あ……」

「鍵をかけて来た方がいいな……? ちょっと待っていろ」

 呆気に取られて、ベッドに上に座って胸を隠すカロル。男はあっさりとベッドから離れ、扉に鍵をかけにいった。

(ああ……わたし、本当に抱かれてしまうのですね……!)

 すると、室内の灯りが明るくなる。え、と顔をあげれば、男がベッドに戻って来た。

(え……!)

 ようやくはっきりと見えたその姿は、何も身に纏っていない。完全に真っ裸だ。

「きゃあ!」

「なんだ?」

 驚いたカロルは両手で覆った顔を背ける。

「服を、服を着て、いただけませんかっ……」

「はあ? これから抱かれるのに、わざわざ服を着ろと……?」

「た、確かにそうですが……」

「顔を隠すな。胸も。きちんと、体を俺に見せろ。ほら、手をどけろ」

 男はベッドの前で腕を組んでカロルを見下ろす。しばらくカロルは震えていたが「早く」と急かされ、ゆっくりと手を下ろし、ぺたりと座っている膝の上に置いた。乳房をまるで差し出しているような気がして、彼女は広がるドレスの裾の上で体を硬くするしかなかった。

(嫌……嫌、嫌、わたし、わたしの胸、見られている……)

 恥ずかしさでどうにかなりそうだ。男はじっとカロルの豊満な乳房を見つめてから、顔を見ようとする。

「おい、顔をこちらに向けろ」

「は、はい……」

 仕方なくおずおずと彼を見れば、鍛えられた体がそこにある。闇商人と聞いていたが、どうしてそんな風に鍛えているんだろうか、と驚くほどだ。

(ま、まあ……か、か、か、かっこい……かっこいいですわね……)

 見れば、彼の年の頃は20代半ばほどだろうか。けだるそうに首を傾げれば、ぱさりと銀髪が動く。紫色の瞳が冷たくカロルを物色するように、上から下までじっと見ている。

 それにしても、闇商人というからには私腹を肥やして、さぞさもしい顔立ちをしているのではと思って来たが、まったく予想が外れたとカロルは思う。

(紫の瞳だなんて、珍しい……バートリー公爵家の血筋しか、この国にはいないと思っていましたけれど……)

 バートリー公爵。稀代の女好きと言われる男。仕事は出来るのに、性欲が絶倫すぎるため婚約者もいないという噂だ。そのバートリーの血統は、紫の瞳を持つ。もしかしたら、闇商人とはいっても、バートリーの血筋なのだろうか。

「あの……どうして、灯りをお点けになったんですの……?」

「なんでって、そりゃ、俺は、明るいところでやるのが好きだからな」

「!」
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