世間知らずの魔塔主は優しい娼婦を溺愛する

今泉香耶

文字の大きさ
22 / 74

8-1.困惑のハーニィ(1)

しおりを挟む
 翌日、いつも通りコンラートは魔塔の最上階にある執務室に座って、仕方なく仕事をしていた。王城が来年から運営を開始するという魔法アカデミー。その講師に魔塔から何人か、という依頼が来ていた。それへ、彼は「誰でもいいから適当に」と言って、即座にハーニィに怒られた。とはいえ、コンラートは魔塔に所属している魔法使いを全員把握しているわけではない。それを正直に言えば、更に怒られてしまったのだが。

 それから、魔力を注入して売り出す魔道具が三百個やってきたので、それに一つずつ魔力を注入した。以前三百個一気に注入をしたら、物によってばらつきが発生してしまったため、仕方なく一つずつ行っている。どうやら、自分の魔力を切り売りする際に、等分にはうまく分割出来ないらしい。それは、魔力が多い彼としても盲点だった。

「はぁ~! こんなことしている暇があったら、バネッサに会いに行きたいんだけどなぁ~。ねぇ、駄目かな?」

 まるで世間話をするように呑気に言うコンラート。


「駄目ですよ……そのバネッサという人が、あなたお気に入りの娼婦なのですね?」
「うん。なんだっけ、あそこの娼館……ここから出て、十二画め、四角めの端から二番めにある……」

 その「画」や「角」は、コンラートの脳内にある地図での呼び名だ。ハーニィは冷静に「カロライール通り八番街のキトゥン娼館ですね」と告げる。

「そう。そこのね。なんか知らないけど、二番手だって受付の人がいっていた~」

 呑気にそう言って、コンラートは茶をもう一口飲む。

「そうだ、ハーニィ」

「はい」

「バネッサをここに連れてこようかなーって思ってるんだけど」

 コンラートの言葉の意味がわからず、ハーニィは眉をひそめた。

「連れてこようかな、というのは……?」

「え? 言葉の通りなんだけど……」

「身請けをするという意味ですか?」

「身請け?」

 コンラートはきょとんとした表情でハーニィを見る。ああ、そういう意味で言ったわけではなかったのか……と小さくため息をつくハーニィ。じゃあ、一体どうしてここに連れてこようと思ったのか。はなはだ疑問だったが、彼はそれを自分の心に留めて置くことにした。

「身請けって何?」

「娼館に金を支払って、娼婦を自分のものにするため、娼館からの足抜けをさせることが出来るんです」

「……」

 ハーニィの言葉の意味をコンラートは静かに考えているようだ。ううん、と唸ってから、やがて目を細めてハーニィに恐る恐る尋ねる。

「それは……自分のものに出来るってこと?」

「それはまあ……交渉次第じゃないですかね。中には、足抜けだけさせて、生活をサポートするだけの人もいるかもしれませんが……」

「わあ。そんなことが合法的に出来るんだね? いや、合法的じゃないな? 金を払って自分のものにするってのは、奴隷制か何かなのか?」

 百年ほど遡れば、奴隷制の名残はまだこの王国には残っていたが、その言葉を彼が知っていたとは、と思うハーニィ。正直なところ、ハーニィはコンラートが持つ知識をあまり信用をしていない。というか、コンラートは魔法に関してはとんでもないエキスパートで、魔法についての書物はなんでもかんでも読み漁るが、それ以外のことはからきしだったからだ。

 だが、考えれば彼も魔塔の主。立場上この国の歴史やら、王城や神殿との関係やらは避けては通れない。そう思えば、多少は理解をしているのか、と思う。

「いえ。しかし、そもそも娼婦は金で買われるものですから。それを一生分払えば、それは……そういうことじゃないですかね?」

「そうかぁ~なるほど。なるほど。じゃあ、買っちゃおう!」

 コンラートは目を輝かせながら、腰を浮かせた。が、ハーニィが「駄目ですよ!」とそれを止める。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

ただ、隣にいたいだけ~隣人はどうやら微妙にネジが外れているようです~

Ayari(橋本彩里)
恋愛
隣人である小野寺翔は完璧な美貌、甘いマスク、高身長、高所得者、社交的で周囲にほぼ敵なしのハイスペック。 そんな男性の隣に住むことになりやたらと絡まれ、何かを含む甘い眼差しを向けられることに。 極めつけは微妙なネジの外れ具合。 それはどうやら私、藤宮千幸に対してのみ発揮されているみたいで。 なんて、はた迷惑なっ! 過去作を改稿。変甘です! イラストは友人kouma.作です♪

英雄騎士様の褒賞になりました

マチバリ
恋愛
ドラゴンを倒した騎士リュートが願ったのは、王女セレンとの一夜だった。 騎士×王女の短いお話です。

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~

世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。 ──え……この方、誰? 相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。 けれど私は、自分の名前すら思い出せない。 訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。 「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」 ……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!? しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。 もしかして、そのせいで私は命を狙われている? 公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。 全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね! ※本作品はR18表現があります、ご注意ください。

完結【強引な略奪婚】冷徹な次期帝は、婚姻間近の姫を夜ごと甘く溶かす

小木楓
恋愛
完結しました✨ タグ&あらすじ変更しました。 略奪された大納言家の香子を待っていたのは、冷徹な次期帝による「狂愛」という名の支配でした。 「泣け、香子。お前をこれほど乱せるのは、世界で私だけだ」 「お前はまだ誰のものでもないな? ならば、私のものだ」 大納言家の姫・香子には、心通わせる穏やかな婚約者がいた。 しかし、そのささやかな幸福は、冷徹と噂される次期帝・彰仁(あきひと)に見初められたことで一変する。 強引な勅命により略奪され、後宮という名の檻に閉じ込められた香子。 夜ごとの契りで身体を繋がれ、元婚約者への想いすら「不義」として塗り潰されていく。 恐怖に震える香子だったが、閉ざされた寝所で待っていたのは、想像を絶するほど重く、激しい寵愛で……? 「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」 逃げ場のない愛に心が絡め取られていく中、彰仁は香子を守るため、「ある残酷な嘘」を用いて彼女を試す。 それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。 「一生、私の腕の中で溺れていろ」 守るために壊し、愛するために縛る。 冷酷な仮面の下に隠された、 一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。 ★最後は極上のハッピーエンドです。 ※AI画像を使用しています。

処理中です...