世間知らずの魔塔主は優しい娼婦を溺愛する

今泉香耶

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8-2.困惑のハーニィ(2)

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「何で?」

「身請けをした娼婦を、あなたはどうなさるおつもりなんですか? ここに連れてくると?」

「うん」

「しかし、その女性はそこまでは魔力がないでしょう。一定以上魔力がない者を魔塔に受け入れるわけにはいきませんよ」

 それは魔塔でのしきたりだったが、今更ながらその言葉に「えっ」とコンラートは声をあげる。

「待って? ここには、既に結婚をしているやつもいるよな」

「おりますが?」

「その奥方は、みな結構な魔力持ち……?」

 コンラートの質問に対して、ハーニィは心の底から失望のため息をついた。珍しく、それを「やばい、何か呆れられているぞ? いつものことだけど……」と思いながらそわそわと彼の言葉を待つコンラート。

「もしや、お気づきではないのですか?」

「何が……?」

「魔塔に『住んで』いるのは、あなただけですよ」

「……」

 ハーニィの言葉の意味をコンラートが理解をするのに、僅かに三秒。銀髪の前髪の下で、ぱちぱちと瞬きをしてハーニィをまっすぐ見るコンラート。

「ええっ!? ハーニィここに住んでいないのか!?」

「ええ~……わたしが絶えずここにいると思っていたんですか……?」

「いたよ!」

 まさかとは思っていたが、とハーニィは更に深いため息をついた。なんということか。確かに魔塔の主は魔塔の最上階を居室として自由に過ごしているものだが、自分以外の者たちの動向をここまで気にしない人間も珍しい。仕方なく、説明をする。

「みんな、夜になったら当番以外の者は自宅に帰っているんですよ!」

「そうだったんだ!? 夜はやっぱりみんな寝ているから静かだと思っていた」

 そのおめでたいコンラートの言葉に肩を落とすハーニィ。

 ああ、そうか、とハーニィは内心呟く。コンラートは先代の魔塔の主に連れて来られてから、すぐに高熱を出したり、魔力を放出したりで様子を見る必要があった。よって、彼だけ特別に最上階の一つ下の階に「住む」ことを許された。だから、彼にとっては「ここに住む」ことは当たり前なのだろう。

「あなた、魔塔にいらしてから何年経過するんですか……下の階に居住区なんてない……ああ、そうですね、下の階にあなたはほとんどいかないですもんね……」

 何にせよ、話は相当に逸れてしまったが、どうにか軌道に戻さなければいけない。ハーニィは「そういうわけで、魔塔にその娼婦を連れてくるわけにはいかないです。一晩だけとかならば話は別ですが……」と告げた。

「ええ~……やだなぁ~、あれ? じゃあ、先代の魔塔の主の奥さんは?」

「先代は独身でしたから……」

 なるほど、そういうことか。コンラートは「ううむ」と唸った。が、それからすぐに

「よし家を建てよう。家。魔塔の近くに」

と言い出す始末。身請けをした後に魔塔に連れてくることが出来ないのだから、家が必要だ……その素直な発想にハーニィは少しばかり驚く。だが、驚いてばかりではいられない。ハーニィは随分とまっとうな神経の持ち主ゆえに、真面目にコンラートを止めた。

「建てるって、土地を買って、一から作る気ですか? 今からそれを始めたら、完成までかなり時間がかかりますよ」

「そうか。じゃあ、家を買うか。どこかにはあるんじゃないのかな? 既に建っていてすぐに住めるけど、人がいないっていう……出来れば新しいところがいいし、人があまり使ってない方がいいけど、まあ文句は言ってられないかなぁ~でもなぁ~」

 簡単に言うけれど……と思いながら「そうですね。それが現実的です。それはともかく、早く仕事を進めてください」とハーニィは彼を急かした。彼の前には目を通す必要がある文書が山積みになっているだけではなく、まだ魔力を注入していない魔道具が百個程度も並んでいる。

 仕方なさそうに、コンラートは「はーい」と気の抜けた声で返事をするのだった。
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