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16-2.初めての「好き」(2)
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時間は大丈夫なの、とか。どうしてこんな風に急に、とか。彼に投げかける言葉が脳裏にうっすらと湧き上がって来たけれど、それらを口にする前に、何度も何度もキスを重ねられて、バネッサの思考は溶かされてしまう。
立ったまま、激情に駆り立てられたような深いキスを交わす。唇を離しては、再び求められ、コンラートの両腕でしっかり腰を抱きしめられて逃げることも出来ない。
繰り返されるキスの快楽と、腰を強く抱えてくれる彼の腕に安心をして、ようやく唇を解放されるとバネッサは体を彼に預けて息をついた。自分は娼婦なのに。彼を喜ばせなければいけないのに、自分が先にこんな風になるなんて……ちらっと感じたその思いも、彼の囁きの前に消えてしまう。
「駄目だ。我慢出来ない。あなたを抱く」
彼の長い前髪の奥、ちらちらと見える赤い瞳に劣情が浮かび上がる。その色をバネッサはよく知っていた。男たちが自分を見て、自分を欲してくれる時の色。いつも、それを見れば「やる気なのね」と思い、可愛い男だと心の中でくすりと笑っていた。けれど、今は違う。
彼の劣情に呼応するように、自分も興奮をしている。だって、そうだ。ずっとずっと彼に抱かれていなかった。娼婦になって、これだけ長く誰からも体を欲されなかったことはなかったのに。そして、突然の彼の宣言に、呼び覚まされるのは彼に愛されたあの二晩のことだ。
「あっ……」
グイ、と体を押し付けられ、バネッサは声をあげた。彼の股間にある固いものを感じながら、彼の胸板に自分の乳房が潰されて、少し息苦しい。
やがて、彼は少し腕を緩め、上からバネッサの顔を覗き込んだ。
「バネッサ、もう一度言って……わたしのことが好きだって……」
「好きよ」
「本当に? わたしのことが好きなの?」
「本当よ。あなたのことが好きよ」
「本当に、わたしのことが好き?」
同じ言葉を繰り返すコンラート。それへ、何度もバネッサは言葉を重ねた。
「好きよ。わたし、あなたのこと何もわかってないけど……でも、好きって言っても、許してくれる?」
すると、コンラートは黙り込んだ。バネッサが「許してもらえないのかしら?」とドキドキしながら彼の様子をうかがっていると、彼の赤い瞳の端に涙が浮かぶ様子が見えた。
「なんだこれ?」
彼は、ぐいとそれをぬぐって「ああ、涙か」と呟いた。そうか、彼は、涙すら自分でよくわからないのか……そのことにバネッサは驚いたが、反面それはなんとなく「彼らしい」とすら思えてしまう。
「泣いたことなんて、なかった」
ぽつりと呟くコンラート。
「一体何に泣いているんだろう? 悲しくないのに……」
彼の言葉に、彼の不自由さを感じる。バネッサは、まるで心臓を彼に掴まれてしまったように、心の奥が痛むと感じつつも彼に告げた。
「多分それはね。わたしが言うのもおこがましいというか、恥ずかしいけれど……」
「……?」
「嬉し泣きってやつだと思うわ。あなた、きっと嬉しいのよ」
「!」
驚きの表情。まるで子供のようだとバネッサは思う。見上げれば、彼は頬を紅潮させてぐいぐいと涙を拭いている。それから、まだ涙が残る瞳でバネッサを見下ろす。
「バネッサ、あなたは……」
「なあに……?」
「あなたは、わたしにとって本当に初めての人で……わたしを、好きだなんて言ってくれるのも……あなたが最初の人です……」
そんなことはないだろう、とバネッサは無言でコンラートを見上げた。彼が家族と仲が良くなさそうなことは察していた。でも、自分が初めての人間ではないのでは、と思う。
しかし、考えてみると。一緒にいても「好き」と思いを伝えることは、家族でもなかなかない。そうか、自分が最初の女なのか……バネッサは彼の前髪を軽くかき分けて、まだ涙が浮かび上がっている赤い瞳を見つめた。
「わたし、あなたが許してくれるなら何度だって言うわ。そうよ。何度でも言いたいの」
その言葉を聞いて、コンラートの表情がへにゃりと歪んだ。泣き笑い。泣き笑いにしては、顔が整っている彼にしては、なかなか不細工な笑みだったけれど、バネッサは「許された」と何故か思った。そして、彼は自分が嬉し泣きをしていることを受け入れたのだろう、とも。
「好きよ。コンラート」
その言葉を聞いて、もう一度彼からの深いキスがバネッサの唇に降りて来た。バネッサは瞳を閉じてそれを受け入れ、心の底から「こんな幸せなキスなんてない」とそれに没頭をした。
立ったまま、激情に駆り立てられたような深いキスを交わす。唇を離しては、再び求められ、コンラートの両腕でしっかり腰を抱きしめられて逃げることも出来ない。
繰り返されるキスの快楽と、腰を強く抱えてくれる彼の腕に安心をして、ようやく唇を解放されるとバネッサは体を彼に預けて息をついた。自分は娼婦なのに。彼を喜ばせなければいけないのに、自分が先にこんな風になるなんて……ちらっと感じたその思いも、彼の囁きの前に消えてしまう。
「駄目だ。我慢出来ない。あなたを抱く」
彼の長い前髪の奥、ちらちらと見える赤い瞳に劣情が浮かび上がる。その色をバネッサはよく知っていた。男たちが自分を見て、自分を欲してくれる時の色。いつも、それを見れば「やる気なのね」と思い、可愛い男だと心の中でくすりと笑っていた。けれど、今は違う。
彼の劣情に呼応するように、自分も興奮をしている。だって、そうだ。ずっとずっと彼に抱かれていなかった。娼婦になって、これだけ長く誰からも体を欲されなかったことはなかったのに。そして、突然の彼の宣言に、呼び覚まされるのは彼に愛されたあの二晩のことだ。
「あっ……」
グイ、と体を押し付けられ、バネッサは声をあげた。彼の股間にある固いものを感じながら、彼の胸板に自分の乳房が潰されて、少し息苦しい。
やがて、彼は少し腕を緩め、上からバネッサの顔を覗き込んだ。
「バネッサ、もう一度言って……わたしのことが好きだって……」
「好きよ」
「本当に? わたしのことが好きなの?」
「本当よ。あなたのことが好きよ」
「本当に、わたしのことが好き?」
同じ言葉を繰り返すコンラート。それへ、何度もバネッサは言葉を重ねた。
「好きよ。わたし、あなたのこと何もわかってないけど……でも、好きって言っても、許してくれる?」
すると、コンラートは黙り込んだ。バネッサが「許してもらえないのかしら?」とドキドキしながら彼の様子をうかがっていると、彼の赤い瞳の端に涙が浮かぶ様子が見えた。
「なんだこれ?」
彼は、ぐいとそれをぬぐって「ああ、涙か」と呟いた。そうか、彼は、涙すら自分でよくわからないのか……そのことにバネッサは驚いたが、反面それはなんとなく「彼らしい」とすら思えてしまう。
「泣いたことなんて、なかった」
ぽつりと呟くコンラート。
「一体何に泣いているんだろう? 悲しくないのに……」
彼の言葉に、彼の不自由さを感じる。バネッサは、まるで心臓を彼に掴まれてしまったように、心の奥が痛むと感じつつも彼に告げた。
「多分それはね。わたしが言うのもおこがましいというか、恥ずかしいけれど……」
「……?」
「嬉し泣きってやつだと思うわ。あなた、きっと嬉しいのよ」
「!」
驚きの表情。まるで子供のようだとバネッサは思う。見上げれば、彼は頬を紅潮させてぐいぐいと涙を拭いている。それから、まだ涙が残る瞳でバネッサを見下ろす。
「バネッサ、あなたは……」
「なあに……?」
「あなたは、わたしにとって本当に初めての人で……わたしを、好きだなんて言ってくれるのも……あなたが最初の人です……」
そんなことはないだろう、とバネッサは無言でコンラートを見上げた。彼が家族と仲が良くなさそうなことは察していた。でも、自分が初めての人間ではないのでは、と思う。
しかし、考えてみると。一緒にいても「好き」と思いを伝えることは、家族でもなかなかない。そうか、自分が最初の女なのか……バネッサは彼の前髪を軽くかき分けて、まだ涙が浮かび上がっている赤い瞳を見つめた。
「わたし、あなたが許してくれるなら何度だって言うわ。そうよ。何度でも言いたいの」
その言葉を聞いて、コンラートの表情がへにゃりと歪んだ。泣き笑い。泣き笑いにしては、顔が整っている彼にしては、なかなか不細工な笑みだったけれど、バネッサは「許された」と何故か思った。そして、彼は自分が嬉し泣きをしていることを受け入れたのだろう、とも。
「好きよ。コンラート」
その言葉を聞いて、もう一度彼からの深いキスがバネッサの唇に降りて来た。バネッサは瞳を閉じてそれを受け入れ、心の底から「こんな幸せなキスなんてない」とそれに没頭をした。
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