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20-1.家族との折り合い(1)
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魔塔の研究室での解析で、バネッサが異教徒たちから渡されたものが劇薬であることがわかった。そのことで心底コンラートは腹を立てて、王城側に「異教徒全部殺していいですか? いや、自分が殺すのはちょっとあれなんで、そっちに殺して欲しい」と、とんでもない尻ぬぐいを逆依頼した。
王城は「こっちでは手に負えないからそちらに依頼をしたのに」と難色を示し、結果的に魔塔の魔法使い数名と王城の騎士団で「異教徒狩り」を行うことにした。これまで異教徒を認めてきたものの、暴の力に頼ることが目に余る、というのが彼らにとっての大義名分だった。勿論、それはまったく間違っていない。異教徒狩りは、王城側が「異教徒を迫害する」と思われることが嫌で避けていたことだ。しかし、コンラートが完全に腹を立てて「もう辺境にも力を送らない!」と断固として譲らなかったため、王が折れた。
コンラートが魔塔から「引っこ抜かれた」日、あそこに集まっていた魔法使いたちは、コンラートの魔力を吸収しようとして、その魔力の膨大さに「あてられ」て、そのうちの過半数以上が魔力を使えなくなってしまっていた。そんなことになっているとはコンラートも予想をしていなかったので、その話を知った彼は「ざまあみろ」と子供のように口走った。
そして、異教徒の一番手はといえば、魔法を使えるわけでもなく、二年前に死んだ大司教の後を継いだだけの「大したことがない男」だった。大したことがないとはいえ、大司教の死を使って、異教徒たちにあれこれ指図をしていたのだから、それはそれで凄いことなのだが。
「というわけで、ほどなく異教徒狩りも終わると思います」
ハーニィからの報告を受けて、コンラートは書類から目を離した。
「そっか。よかったなぁ~、これで、まあわたしも恨まれないだろうし……」
「そうですか?」
「ええ……これでも恨まれる?」
「むしろ、どうして恨まれないと思っているんですか……?」
ちぇっ、とコンラートは口を尖らせる。
「なんでもかんでも魔塔のせいにするのはどうかと思うなぁ~!」
そう言って、手持っていた書類を机上に置くと、コンラートは立ち上がった。
「出掛けてくるからね。二時間ぐらい」
「ええっ!?」
心底困ったようにハーニィは言うが、コンラートは既に外套に腕を通している。もうそこまでしているということは、止められないということだ。
「大丈夫だよ。研究室に話を通して、今日の実験は夕方にしてもらったから」
「そんなことをあなたが出来るようになったとは驚きです」
今まで、魔塔の他の部署にはハーニィを通してしか話をつけなかったコンラートだったが、ここ最近「仕方なく」自分で話をつけにいくようになった。当然、突然の彼の訪問に他の部署の者たちは怯えていたが、どことなく呑気な彼に毒気を抜かれたし、コンラートもまた「なんだ、面倒でもなかったな」と「当たり前」のことに気付くことになった。
それらは、異教徒関連でハーニィの業務があれこれ詰まったことが原因で、仕方なくコンラートが動いただけだったのだが、良い方向に向いたようだ。
コンラートはバネッサと共に、彼女の実家を訪れた。
バネッサはコンラートの身請けを受け入れ、数日前に娼館を出た。その日彼女の最後の給料は精算をされ、同じく実家への支払いもされたはずだった。その時に「娼館から金を受け取る」娼婦の家族である証を回収されたに違いない。その後、娘を返せと娼館に義父が怒鳴り込んで来た、という話を聞いたため、コンラートは彼女と共に実家に足を運んだというわけだ。
実家には当然前もって声はかけていない。家の前に着くと、バネッサはいくらか緊張をしているようだった。
「全員、中にいるようですね」
探知をしてそう告げるコンラート。そうか。弟も妹もいるのか……バネッサはなんとなく心が沈んでコンラートを見る。が、彼は呑気に笑って彼女の肩を抱き、頬にキスをした。
「大丈夫ですよ。行きましょう」
そう言ってコンラートが肩を抱く腕に力を入れれば、バネッサも少し気を取り直すことが出来きて、こくりとうなずく。彼女は、心を決めて家のドアを開けた。
「ただいま」
家の中には義父がいて、働いていないのだろうか。夕方近くではあってもまだ暗くなっていないというのに、いつもと変わらず酒を飲んでいるようだった。彼はバネッサの顔見るやいなや、大声をあげる。
「おいおいおい、おい、バネッサじゃねぇか! お前、探してたんだぞ。一体どういうことだ! 娼館を辞めたとか、なんだとか言って……!」
その彼の姿を見て、バネッサは驚いた。ほんの少し会わなかっただけなのに、痩せたように見えたからだ。と彼の大声を聞いたらしく、厨房から慌てて母親が出てくる。
「バネッサ」
「ただいま、母さん。今日は、その……」
どう説明しようかと悩みながら家に入ったが、やはりそこは難しい。それを察したかのように、ぬっとバネッサの後ろからコンラートは姿を現した。
「失礼します」
義父は「なんだなんだ、その男は」と言って顔をしかめる。
「このたび、バネッサさんを身請けしまして、娼館から出てもらって一緒に住んでおります」
「はあ!?」
ダン、と義父が酒が入ったグラスを机上に叩きつける。
「勝手なことをしやがって! 身請けだと? 身請けなんかしたって、娼館に金が入るだけで、こっちにゃ何の儲けにもならねぇだろうがよ! なんだ、バネッサ、なんで相談もしないでそんなことを勝手に決めた?」
「相談なんて、何一つ十四歳の頃からしてなかったのに、身請けの時だけ相談しろって? 馬鹿なこと言わないで」
「おいおい、こいつは俺たちが育てたんだ。俺たちの許可なしで身請けをするなんて、話がおかしいんじゃないのか?」
義父はそう言ってコンラートを睨む。だが、コンラートは首を軽く傾げて、呑気に返した。
王城は「こっちでは手に負えないからそちらに依頼をしたのに」と難色を示し、結果的に魔塔の魔法使い数名と王城の騎士団で「異教徒狩り」を行うことにした。これまで異教徒を認めてきたものの、暴の力に頼ることが目に余る、というのが彼らにとっての大義名分だった。勿論、それはまったく間違っていない。異教徒狩りは、王城側が「異教徒を迫害する」と思われることが嫌で避けていたことだ。しかし、コンラートが完全に腹を立てて「もう辺境にも力を送らない!」と断固として譲らなかったため、王が折れた。
コンラートが魔塔から「引っこ抜かれた」日、あそこに集まっていた魔法使いたちは、コンラートの魔力を吸収しようとして、その魔力の膨大さに「あてられ」て、そのうちの過半数以上が魔力を使えなくなってしまっていた。そんなことになっているとはコンラートも予想をしていなかったので、その話を知った彼は「ざまあみろ」と子供のように口走った。
そして、異教徒の一番手はといえば、魔法を使えるわけでもなく、二年前に死んだ大司教の後を継いだだけの「大したことがない男」だった。大したことがないとはいえ、大司教の死を使って、異教徒たちにあれこれ指図をしていたのだから、それはそれで凄いことなのだが。
「というわけで、ほどなく異教徒狩りも終わると思います」
ハーニィからの報告を受けて、コンラートは書類から目を離した。
「そっか。よかったなぁ~、これで、まあわたしも恨まれないだろうし……」
「そうですか?」
「ええ……これでも恨まれる?」
「むしろ、どうして恨まれないと思っているんですか……?」
ちぇっ、とコンラートは口を尖らせる。
「なんでもかんでも魔塔のせいにするのはどうかと思うなぁ~!」
そう言って、手持っていた書類を机上に置くと、コンラートは立ち上がった。
「出掛けてくるからね。二時間ぐらい」
「ええっ!?」
心底困ったようにハーニィは言うが、コンラートは既に外套に腕を通している。もうそこまでしているということは、止められないということだ。
「大丈夫だよ。研究室に話を通して、今日の実験は夕方にしてもらったから」
「そんなことをあなたが出来るようになったとは驚きです」
今まで、魔塔の他の部署にはハーニィを通してしか話をつけなかったコンラートだったが、ここ最近「仕方なく」自分で話をつけにいくようになった。当然、突然の彼の訪問に他の部署の者たちは怯えていたが、どことなく呑気な彼に毒気を抜かれたし、コンラートもまた「なんだ、面倒でもなかったな」と「当たり前」のことに気付くことになった。
それらは、異教徒関連でハーニィの業務があれこれ詰まったことが原因で、仕方なくコンラートが動いただけだったのだが、良い方向に向いたようだ。
コンラートはバネッサと共に、彼女の実家を訪れた。
バネッサはコンラートの身請けを受け入れ、数日前に娼館を出た。その日彼女の最後の給料は精算をされ、同じく実家への支払いもされたはずだった。その時に「娼館から金を受け取る」娼婦の家族である証を回収されたに違いない。その後、娘を返せと娼館に義父が怒鳴り込んで来た、という話を聞いたため、コンラートは彼女と共に実家に足を運んだというわけだ。
実家には当然前もって声はかけていない。家の前に着くと、バネッサはいくらか緊張をしているようだった。
「全員、中にいるようですね」
探知をしてそう告げるコンラート。そうか。弟も妹もいるのか……バネッサはなんとなく心が沈んでコンラートを見る。が、彼は呑気に笑って彼女の肩を抱き、頬にキスをした。
「大丈夫ですよ。行きましょう」
そう言ってコンラートが肩を抱く腕に力を入れれば、バネッサも少し気を取り直すことが出来きて、こくりとうなずく。彼女は、心を決めて家のドアを開けた。
「ただいま」
家の中には義父がいて、働いていないのだろうか。夕方近くではあってもまだ暗くなっていないというのに、いつもと変わらず酒を飲んでいるようだった。彼はバネッサの顔見るやいなや、大声をあげる。
「おいおいおい、おい、バネッサじゃねぇか! お前、探してたんだぞ。一体どういうことだ! 娼館を辞めたとか、なんだとか言って……!」
その彼の姿を見て、バネッサは驚いた。ほんの少し会わなかっただけなのに、痩せたように見えたからだ。と彼の大声を聞いたらしく、厨房から慌てて母親が出てくる。
「バネッサ」
「ただいま、母さん。今日は、その……」
どう説明しようかと悩みながら家に入ったが、やはりそこは難しい。それを察したかのように、ぬっとバネッサの後ろからコンラートは姿を現した。
「失礼します」
義父は「なんだなんだ、その男は」と言って顔をしかめる。
「このたび、バネッサさんを身請けしまして、娼館から出てもらって一緒に住んでおります」
「はあ!?」
ダン、と義父が酒が入ったグラスを机上に叩きつける。
「勝手なことをしやがって! 身請けだと? 身請けなんかしたって、娼館に金が入るだけで、こっちにゃ何の儲けにもならねぇだろうがよ! なんだ、バネッサ、なんで相談もしないでそんなことを勝手に決めた?」
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「おいおい、こいつは俺たちが育てたんだ。俺たちの許可なしで身請けをするなんて、話がおかしいんじゃないのか?」
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