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19-2.新しい家(2)
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「ハーニィと申します。この度は、主様からの身請けを受けていただき、まことにありがとうございます」
「ええっ? あの、ええ、はい……バネッサと言います」
ハーニィはハーニィで「ありがとうと言うのは何かおかしいな?」と思いつつも言い、バネッサはバネッサで「ありがとうと言われるのは何かおかしいな?」と思いつつもそれを受け入れる。コンラートは「そんなことはどうでもいいから」と雑なことを言って、ハーニィに案内を頼む。
「家を購入したのですが、まだ主様も見ていません」
「家を、購入」
驚きでバネッサの声が裏返る。一体家なんていくらで購入したんだろうと思ったからだ。
郊外で持ち主がいなくなった家に、誰かが入り込んで住み込んでしまう……そんな話はよく聞くが、城下町の、しかも中心近くとなると話は違う。ハーニィは話をしながら歩き出したので、どうやら転移をする必要がない距離なのだということは理解をした。
「とはいえ、娼館近くですと、あなたの客だった人たちに会う可能性があるので、少し離れた場所にいたしました」
「ええ~? じゃ転移していこうよ」
「そこまでではないですし、それではバネッサ様としても場所の確認になりませんから」
「あっ、そうか」
なるほど、コンラートはいつも転移をして移動をするから、そう言った概念があまりないのだとも気付いて小さくバネッサは笑う。
「コンラート」
「はい」
「あなた、体力はあるようだけど、それでも、たまに散歩とかに出かけられるといいと思うわ」
コンラートは彼女の意見に目を丸くする。
「どうしてですか」
「いろいろなものを見た方がいいと思うのよ。だって、二人で出かけた時、あなたとても楽しそうだったもの」
「それは、あなたがいたからです」
彼は唇を軽く尖らす。そんな様子は初めて見た、とバネッサは内心驚いたが、きっとこのハーニィという男性の前ではいつもそんな様子なのだろうと気付く。だが、自分にもその「素」を見せてくれているのだと思えば、なんだかくすぐったい気持ちになる。
「そうかしら。そうだったとしても、ね、今度は一人でも出かけてみたら? その、お仕事の都合でなかなか出られないことはわかっているけど」
「あなたとだったら、いいな」
がんとしてそこは譲らない。バネッサは「じゃあ、一緒にまた出掛けましょう」と言えば、コンラートは素直に「出かけます!」と答えた。その様子を聞いているのか聞いていないのか、ハーニィは何も反応を見せない。
娼館から歩いて二十分ほど。ようやくハーニィが「ここです」と指さした家を見て、バネッサは驚きの声をあげた。何故なら、それは彼女の想像よりも遥かに大きく、そして綺麗な家だったからだ。家と言われても、ちょっと家よりは豪華な気がする。だが、彼女は「家」以外の言葉を思い浮かべることが出来なかった。
「ええっ、こんな、きちんとした家に……?」
「きちんとしていない家をお望みでしたか?」
そのハーニィからの問いに、バネッサは慌てて「違います、違います」と否定をした。
「ただ、少し大きいなって思ったんです」
「二人暮らしでは大きいかもしれませんが、お子様を後々育てられる可能性もあると思いましたので、四人暮らし用の家を購入しました」
四人暮らし? いや、どう見ても十人ぐらいは暮らせるのでは……とバネッサは口をあんぐりと開けた。が、その直後「そうだ。この男性も、魔塔の人なんだ」と理解をした。魔塔にいるということは、高位の魔法使い、しかも魔塔の主の部下と呼ばれる存在だ。そうすれば、彼もまたかなりの高給取りで、良い家に住んでいるのだろうと推測が出来る。
「で、でも、そのう、お掃除とか……そういう……」
「えっ、人を雇えばいいですよね?」
首を傾げるコンラート。バネッサは「ええ? じゃあ、わたしは何をすればいいのかしら?」と情けない声をあげる。
「あなたは朝食と夕食を作ってくだされば、わたしがそれを平らげますから」
そこへハーニィが口を挟む。
「主様、朝食はほとんどお食べになりませんよね? 気が向いてからパンをお食べになるぐらいで……」
「二日に一度は食べてるよ。一日目のパンをとっておいて、翌日二倍食べてる」
「ええ? そんなことをしていたんですか!? どうしてですか!?」
驚くハーニィに、コンラートは再び首を傾げた。
「え? 二倍食べられたら、得な気分がするからだけど……」
「あなたは衣食住に何の興味もないと思っていましたが、そんなおかしいことをしているとまでは思っていませんでした……」
その二人のやりとりを聞いて、バネッサは「これは大変な人の面倒を見ることになったな」と心の中で思う。それから、このハーニィという男性が、良くコンラートの面倒を見てくれているのだと言うことも理解をした。
「勿論、お食事は作るわ。といっても、わたし、十四歳までしか家事をしたことがなかったし、貧乏な家でのお食事しか作ったことがないから、あなたの口に合うものを作れるかちょっと心配だけど」
「それでしたら、わたしの妻から料理を習ったらよいかもしれませんね」
「まあ。そんなこと、お願いしても良いんですか?」
目を輝かせるバネッサに、ハーニィは生真面目な表情で頷く。
「はい。妻も日中は案外と暇な時間が多いらしいので。バネッサ様さえよければ」
「さ、様、なんて、つけないでください……」
そう言って慌てるバネッサ。と、コンラートが突然バネッサを抱きしめる。
「えっ、コンラート? どうしたの?」
「うう、ハーニィとあなたが話しているのを見るだけで、イライラしますね……!」
「……あなたって、独占欲が強すぎるのかしら?」
「主、あなたのそれは子供のわがままみたいなものですよ」
「なんとでも言ってください! あー! 嫌だ嫌だ! でも、我慢します。我慢しますよ!」
そう言いながら、コンラートはバネッサを抱きしめる腕を緩めない。ハーニィは困惑をして「我慢しているように見えませんが」と口をへの字にして告げた。
「ええっ? あの、ええ、はい……バネッサと言います」
ハーニィはハーニィで「ありがとうと言うのは何かおかしいな?」と思いつつも言い、バネッサはバネッサで「ありがとうと言われるのは何かおかしいな?」と思いつつもそれを受け入れる。コンラートは「そんなことはどうでもいいから」と雑なことを言って、ハーニィに案内を頼む。
「家を購入したのですが、まだ主様も見ていません」
「家を、購入」
驚きでバネッサの声が裏返る。一体家なんていくらで購入したんだろうと思ったからだ。
郊外で持ち主がいなくなった家に、誰かが入り込んで住み込んでしまう……そんな話はよく聞くが、城下町の、しかも中心近くとなると話は違う。ハーニィは話をしながら歩き出したので、どうやら転移をする必要がない距離なのだということは理解をした。
「とはいえ、娼館近くですと、あなたの客だった人たちに会う可能性があるので、少し離れた場所にいたしました」
「ええ~? じゃ転移していこうよ」
「そこまでではないですし、それではバネッサ様としても場所の確認になりませんから」
「あっ、そうか」
なるほど、コンラートはいつも転移をして移動をするから、そう言った概念があまりないのだとも気付いて小さくバネッサは笑う。
「コンラート」
「はい」
「あなた、体力はあるようだけど、それでも、たまに散歩とかに出かけられるといいと思うわ」
コンラートは彼女の意見に目を丸くする。
「どうしてですか」
「いろいろなものを見た方がいいと思うのよ。だって、二人で出かけた時、あなたとても楽しそうだったもの」
「それは、あなたがいたからです」
彼は唇を軽く尖らす。そんな様子は初めて見た、とバネッサは内心驚いたが、きっとこのハーニィという男性の前ではいつもそんな様子なのだろうと気付く。だが、自分にもその「素」を見せてくれているのだと思えば、なんだかくすぐったい気持ちになる。
「そうかしら。そうだったとしても、ね、今度は一人でも出かけてみたら? その、お仕事の都合でなかなか出られないことはわかっているけど」
「あなたとだったら、いいな」
がんとしてそこは譲らない。バネッサは「じゃあ、一緒にまた出掛けましょう」と言えば、コンラートは素直に「出かけます!」と答えた。その様子を聞いているのか聞いていないのか、ハーニィは何も反応を見せない。
娼館から歩いて二十分ほど。ようやくハーニィが「ここです」と指さした家を見て、バネッサは驚きの声をあげた。何故なら、それは彼女の想像よりも遥かに大きく、そして綺麗な家だったからだ。家と言われても、ちょっと家よりは豪華な気がする。だが、彼女は「家」以外の言葉を思い浮かべることが出来なかった。
「ええっ、こんな、きちんとした家に……?」
「きちんとしていない家をお望みでしたか?」
そのハーニィからの問いに、バネッサは慌てて「違います、違います」と否定をした。
「ただ、少し大きいなって思ったんです」
「二人暮らしでは大きいかもしれませんが、お子様を後々育てられる可能性もあると思いましたので、四人暮らし用の家を購入しました」
四人暮らし? いや、どう見ても十人ぐらいは暮らせるのでは……とバネッサは口をあんぐりと開けた。が、その直後「そうだ。この男性も、魔塔の人なんだ」と理解をした。魔塔にいるということは、高位の魔法使い、しかも魔塔の主の部下と呼ばれる存在だ。そうすれば、彼もまたかなりの高給取りで、良い家に住んでいるのだろうと推測が出来る。
「で、でも、そのう、お掃除とか……そういう……」
「えっ、人を雇えばいいですよね?」
首を傾げるコンラート。バネッサは「ええ? じゃあ、わたしは何をすればいいのかしら?」と情けない声をあげる。
「あなたは朝食と夕食を作ってくだされば、わたしがそれを平らげますから」
そこへハーニィが口を挟む。
「主様、朝食はほとんどお食べになりませんよね? 気が向いてからパンをお食べになるぐらいで……」
「二日に一度は食べてるよ。一日目のパンをとっておいて、翌日二倍食べてる」
「ええ? そんなことをしていたんですか!? どうしてですか!?」
驚くハーニィに、コンラートは再び首を傾げた。
「え? 二倍食べられたら、得な気分がするからだけど……」
「あなたは衣食住に何の興味もないと思っていましたが、そんなおかしいことをしているとまでは思っていませんでした……」
その二人のやりとりを聞いて、バネッサは「これは大変な人の面倒を見ることになったな」と心の中で思う。それから、このハーニィという男性が、良くコンラートの面倒を見てくれているのだと言うことも理解をした。
「勿論、お食事は作るわ。といっても、わたし、十四歳までしか家事をしたことがなかったし、貧乏な家でのお食事しか作ったことがないから、あなたの口に合うものを作れるかちょっと心配だけど」
「それでしたら、わたしの妻から料理を習ったらよいかもしれませんね」
「まあ。そんなこと、お願いしても良いんですか?」
目を輝かせるバネッサに、ハーニィは生真面目な表情で頷く。
「はい。妻も日中は案外と暇な時間が多いらしいので。バネッサ様さえよければ」
「さ、様、なんて、つけないでください……」
そう言って慌てるバネッサ。と、コンラートが突然バネッサを抱きしめる。
「えっ、コンラート? どうしたの?」
「うう、ハーニィとあなたが話しているのを見るだけで、イライラしますね……!」
「……あなたって、独占欲が強すぎるのかしら?」
「主、あなたのそれは子供のわがままみたいなものですよ」
「なんとでも言ってください! あー! 嫌だ嫌だ! でも、我慢します。我慢しますよ!」
そう言いながら、コンラートはバネッサを抱きしめる腕を緩めない。ハーニィは困惑をして「我慢しているように見えませんが」と口をへの字にして告げた。
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