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12-1.ユークリッド公爵家(1)
「やあ、久しぶりだね、エーリエ」
「えっと……あっ、あ、マールト様、です、ね?」
何やら「顔が眩しい」と思うエーリエ。どういうことなのかはよくわからないが、とにかく眩しくて見ていられない。そんな印象を抱く。これはもしかしたら、顔が「整っている」と言うのだろうか。うん、きっとそうだ……エーリエは戸惑いながら彼を見る。
髪の色を見れば、どうやら今日は久しぶりにマールトが来たのだとわかった――久しぶりとも言っていたし――が、彼の顔を初めて見たせいで、エーリエはしばしぽかんとする。
「ああ。そうだよ。しばらくはノエルに代理を頼んでいたんだけど、やっと王城に戻って来られたのでね。また今回からわたしがポーションの受け渡し担当になったので、よろしく」
「あっ、はい、よろしくお願いいたします……」
慌てて頭を下げるエーリエ。マールトはそんな彼女を見ながら
「ノエルじゃなくて、残念だった?」
と尋ねた。一体何を言っているんだろう、という気持ちと、心を覗かれたような気持ちがないまぜになって、エーリエは動揺をした。
「えっ? えっ、いえ、全然、そんなことは、はい……全然そんなことはないです」
「申し訳ない。ポーションの受け渡しは第一、第二騎士団長の役目と決まっていてね……こればかりは、彼に譲ることが出来ないんだ。代理でお願いはしていたんだけど……」
「いえ! いえ! 全然、ぜんぜん……」
そう言いながら、エーリエの声は小さくなっていく。ぜんぜん。全然なんだと言うのだろうか。問題はない。いや、あるような気がする。いや、でも。
「……」
つい、口を引き結んで黙るエーリエ。一体何だろうか、これは。今の自分は何を思っているのか、それがよくわからない。だが、そんな彼女にマールトは気にせず話しかける。
「ノエルから伝言があってね」
「は、はい」
そう言ってマールトは紙をエーリエに渡した。慌ててその紙を開く。
「あっ……」
そこには、少し崩した形の文字ではあったが、十分に読める文字が書いてある。ノエルからのメッセージだった。
『一緒に外出をする約束をしたが、時間がなくそちらに訪問出来なかったし、羅針盤はもうマールトに返さなければいけなかった。もし、出来ることならば、自分が森に訪問をすることが出来る何かを作ってもらえないだろうか。勿論、無理強いはしない』
ぎゅっと心が何かに掴まれたような。そんな気持ちになるエーリエ。よかった。ノエルは、ポーションのやり取りがなくとも、自分に会いに来てくれると言っているのだ。それが、本当に嬉しかったが、一つ問題があった。
「あの、その、羅針盤は……以前の魔女様から受け取ったものなので……それに代わるものを作るのには時間が少しかかりますが……」
「あっ、なんとか出来るんだね?」
「はい」
「じゃあ、念のためにとこれも預かって来たから、受け取って欲しい」
マールトは指輪をエーリエに渡す。見れば、そこには何かの紋章が入っている。だが、エーリエは紋章というものを知らない。よくわからないマークだが、一体なんだろうと訝しそうに見るだけだ。
「これは?」
「ユークリッド公爵家の紋章入りのリングだよ。何か必要があれば使ってくれと言っていた」
ユークリッド公爵家。その言葉にエーリエは目を丸くした。ああ、ノエルは公爵家の子息だったのか、と彼女は初めてそこで理解をしたのだ。マールトはそれをエーリエが知っていたのだと勝手に思い込んでいるのか、話をどんどん続ける。
「羅針盤を作る道具とか材料みたいなもの? そういうのが必要なら、買い物の時にそれを見せると安くしてくれると思う。本人は、城下町に一緒に行くためなのに、一人で買い物に行かせるのは申し訳ないとかなんとかもごもご言っていたけど、よく意味がわからなかったなぁ……」
そうか。マールトには、自分が人の顔を見えないという話をしたことがなかった、とエーリエは思う。だから、どうしてエーリエが一人で城下町に行くことをノエルが嫌がっているのか、心配しているのかを理解できないのだろう。
それにしても、城下町に一緒に行く。その話をノエルがマールトにしたのかと思うと、なんだか恥ずかしく思えて、エーリエは頬をかすかに紅潮させる。
「その羅針盤の代わりのものを作ったら、ユークリッド公爵家に届けに行ったらいいかもしれない」
「わ、わかりました。ええ。マールト様、ありがとうございます」
「うん。これは念のための、ユークリッド公爵家までの地図。貸馬車は知っているかな?」
エーリエは地図を見て何度か瞬いた。地図なんてものを手に入れたことは初めてだったからだ。だが、彼女は聡明で、少し見ただけで「なるほど、建物や通りなどの位置を説明するものなのだ」と理解をした。そして、それはすごいものだ、と少し興奮をした。
「はい。2回ほど乗ったことがあります。城下町の中に何か所かと、この森側の外れにもありますよね?」
「そうだね、じゃあ、何かあっても大丈夫かな。では、今月分のポーションを受け取ろう」
「はい。お待ちください」
エーリエは、リングと地図、そしてノエルからの手紙を両手で抱きかかえ、奥の部屋に入っていった。
「えっと……あっ、あ、マールト様、です、ね?」
何やら「顔が眩しい」と思うエーリエ。どういうことなのかはよくわからないが、とにかく眩しくて見ていられない。そんな印象を抱く。これはもしかしたら、顔が「整っている」と言うのだろうか。うん、きっとそうだ……エーリエは戸惑いながら彼を見る。
髪の色を見れば、どうやら今日は久しぶりにマールトが来たのだとわかった――久しぶりとも言っていたし――が、彼の顔を初めて見たせいで、エーリエはしばしぽかんとする。
「ああ。そうだよ。しばらくはノエルに代理を頼んでいたんだけど、やっと王城に戻って来られたのでね。また今回からわたしがポーションの受け渡し担当になったので、よろしく」
「あっ、はい、よろしくお願いいたします……」
慌てて頭を下げるエーリエ。マールトはそんな彼女を見ながら
「ノエルじゃなくて、残念だった?」
と尋ねた。一体何を言っているんだろう、という気持ちと、心を覗かれたような気持ちがないまぜになって、エーリエは動揺をした。
「えっ? えっ、いえ、全然、そんなことは、はい……全然そんなことはないです」
「申し訳ない。ポーションの受け渡しは第一、第二騎士団長の役目と決まっていてね……こればかりは、彼に譲ることが出来ないんだ。代理でお願いはしていたんだけど……」
「いえ! いえ! 全然、ぜんぜん……」
そう言いながら、エーリエの声は小さくなっていく。ぜんぜん。全然なんだと言うのだろうか。問題はない。いや、あるような気がする。いや、でも。
「……」
つい、口を引き結んで黙るエーリエ。一体何だろうか、これは。今の自分は何を思っているのか、それがよくわからない。だが、そんな彼女にマールトは気にせず話しかける。
「ノエルから伝言があってね」
「は、はい」
そう言ってマールトは紙をエーリエに渡した。慌ててその紙を開く。
「あっ……」
そこには、少し崩した形の文字ではあったが、十分に読める文字が書いてある。ノエルからのメッセージだった。
『一緒に外出をする約束をしたが、時間がなくそちらに訪問出来なかったし、羅針盤はもうマールトに返さなければいけなかった。もし、出来ることならば、自分が森に訪問をすることが出来る何かを作ってもらえないだろうか。勿論、無理強いはしない』
ぎゅっと心が何かに掴まれたような。そんな気持ちになるエーリエ。よかった。ノエルは、ポーションのやり取りがなくとも、自分に会いに来てくれると言っているのだ。それが、本当に嬉しかったが、一つ問題があった。
「あの、その、羅針盤は……以前の魔女様から受け取ったものなので……それに代わるものを作るのには時間が少しかかりますが……」
「あっ、なんとか出来るんだね?」
「はい」
「じゃあ、念のためにとこれも預かって来たから、受け取って欲しい」
マールトは指輪をエーリエに渡す。見れば、そこには何かの紋章が入っている。だが、エーリエは紋章というものを知らない。よくわからないマークだが、一体なんだろうと訝しそうに見るだけだ。
「これは?」
「ユークリッド公爵家の紋章入りのリングだよ。何か必要があれば使ってくれと言っていた」
ユークリッド公爵家。その言葉にエーリエは目を丸くした。ああ、ノエルは公爵家の子息だったのか、と彼女は初めてそこで理解をしたのだ。マールトはそれをエーリエが知っていたのだと勝手に思い込んでいるのか、話をどんどん続ける。
「羅針盤を作る道具とか材料みたいなもの? そういうのが必要なら、買い物の時にそれを見せると安くしてくれると思う。本人は、城下町に一緒に行くためなのに、一人で買い物に行かせるのは申し訳ないとかなんとかもごもご言っていたけど、よく意味がわからなかったなぁ……」
そうか。マールトには、自分が人の顔を見えないという話をしたことがなかった、とエーリエは思う。だから、どうしてエーリエが一人で城下町に行くことをノエルが嫌がっているのか、心配しているのかを理解できないのだろう。
それにしても、城下町に一緒に行く。その話をノエルがマールトにしたのかと思うと、なんだか恥ずかしく思えて、エーリエは頬をかすかに紅潮させる。
「その羅針盤の代わりのものを作ったら、ユークリッド公爵家に届けに行ったらいいかもしれない」
「わ、わかりました。ええ。マールト様、ありがとうございます」
「うん。これは念のための、ユークリッド公爵家までの地図。貸馬車は知っているかな?」
エーリエは地図を見て何度か瞬いた。地図なんてものを手に入れたことは初めてだったからだ。だが、彼女は聡明で、少し見ただけで「なるほど、建物や通りなどの位置を説明するものなのだ」と理解をした。そして、それはすごいものだ、と少し興奮をした。
「はい。2回ほど乗ったことがあります。城下町の中に何か所かと、この森側の外れにもありますよね?」
「そうだね、じゃあ、何かあっても大丈夫かな。では、今月分のポーションを受け取ろう」
「はい。お待ちください」
エーリエは、リングと地図、そしてノエルからの手紙を両手で抱きかかえ、奥の部屋に入っていった。
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