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フィオナ③
しおりを挟むけれどそうやって、人のためにばかり動いていたのがいけなかったのかもしれない。
騎士団の運営に尽力してばかりで、年頃の令嬢にとって重要な社交を疎かにしていたフィオナ。
以前はうんざりするほどきていた縁談の申し込みも、断ってばかりいたせいか、最近ではめっきり数が減った
気づけばフィオナも十八歳。
娘思いの父親が、そのことを気にしないわけがない。
今思えば父も必死だったのだろう。
自分になにかあれば、ひとりきりになってしまうフィオナのことが。
だから信頼できる男に託したかったのだ。
そしてリアムに白羽の矢が立ってしまった。
『お前の婿が決まった』と父から告げられた時、頭の中が真っ白になった。
(なぜリアムは断らなかったの)
冷静になって考えると、その答えはすぐに出た。
早くに家を出たリアムは、実父との縁は薄かった。
だからこそ時に優しく、時に厳しく、自分をここまで導いてくれた父のことを、まるで本当の父のように慕っていた。
ふたりの関係は師弟だとか、上司や部下といった言葉では表しきれない。
そういった事情から、父がリアムを選んだ理由は理解できるし、同じくリアムが断れなかった理由も理解できる。
きっと父は、フィオナがリアムと結婚すれば、ずっとこの場所にいられると考えてくれたのだろう。
ここでの生活は、フィオナにとってすべてだと言っても過言ではない。
だからフィオナの気持ちも聞かず、リアムとの結婚をまとめてしまったのだ。
言えば意地っ張りで素直じゃないフィオナは断るから。
そしてリアムも、育ての親である父の願いを跳ね除けることはできなかった。
キャロル王女とリアム──愛し合う恋人同士にとって、こんな悲劇があるだろうか。
勿論フィオナはすぐさま反論し、リアムの意思を尊重してくれるよう伝えた。
しかし父は『リアムは喜んでいる』の一点張り。
そんなことあるわけがないと何度言っても聞いてくれなかった。
怒りが沸点に達したフィオナはこの時、人生で初めて親に手を上げかけた。
筋肉では勝てないが、武器次第ではなんとかなるかもしれない。
話して駄目なら決闘で白黒つけるのが騎士の世界だ。
フィオナとて騎士団長の娘。少しなら腕に覚えがある。
フィオナは武器庫に並ぶ数々の武器、そして拷問用具を前に真剣に悩んだ。
しかし父は思い込んだら最後、決して考えを曲げない鋼鉄の脳筋だ。
この件についてはどこまでいっても平行線だろう。
(これじゃ埒が明かない)
そう思ったフィオナは、直接リアムと話すことにした。
夕食が済んだあと、突然部屋を訪ねてきたフィオナにリアムは戸惑いを見せた。
夜更けに男の部屋を訪問するなんて、年頃の令嬢がすることではないのは十分承知しているが今は非常事態だ。
「リアム、突然ごめんなさい。お父さまのことでちょっと話があるの。その、私とのこと」
一転、リアムは顔を綻ばせた。
「あ……結婚のこと……団長から聞いたんですね」
照れ臭そうな表情に、フィオナは面食らった。
てっきり沈んでいるとばかり思っていたのに。
「あのね、リアム。お父さまへの恩義を感じてこの話を受けたのなら、それは間違いだからやめて欲しいの」
「団長への恩義……確かに団長には感謝しています。私をここまで育ててくれた恩人と言ってもいい」
「だから──」
「けれど、そのこととお話を受けたことは関係ありません」
「え……?」
「これは私が自分で決めたことです。私に関してフィオナが気にすることはなにもありません。むしろ──」
「駄目よそんなの!」
思わず声が出た。
「フィ、フィオナ?」
「あなたの気持ちを気にしないわけないじゃない!だってなによりも大切な人(家族)なのに!」
フィオナの告白を聞いたリアムは瞳を潤ませた。
やっぱり無理をしていたのだ。
「安心して。お父さまは必ず私が説得するか──!?」
言い終わる前に、リアムは広い胸の中にフィオナを抱き込んだ。
鼻腔を満たすリアムの香り。
予想もしなかった事態にフィオナの心臓が早鐘を打つ。
「リ、リアム!?」
「……嬉しいです。俺のことをそんなに大切に想っていてくれたなんて……!」
リアムの声は震えていた。
きっと、これまで我慢していた感情が発露したのだろう。
フィオナは両手を彼の後ろに回し、幼子をあやすようにリアムの背を擦った。
「……そんなの当たり前じゃない」
リアムや団員たちは家族も同然。
家族とは慈しみ合い、助け合うもの。
「リアム。あとのことは全部私に任せて!」
フィオナはリアムの前で胸を叩いた。
「全部?でもフィオナ──」
「大丈夫だからね!」
返事も聞かずフィオナはスカートの裾をたくし上げ、宿舎の廊下を全力で走った。
急いでキャロル王女と会わなくては。
リアムの苦しみを見る限り、キャロル王女もまた同じように──いや、それ以上に心を痛めているはず。
これはあくまで父が暴走したためで、フィオナにはまったくその気はないのだと伝えよう。
そしてできるなら、共に父の説得にあたってくれるよう頼むのだ。
王女のたっての願いとあらば、父も無碍にはできないはず。
自室に戻ったフィオナはすぐさま筆を取り、キャロルへ手紙を書いた。
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