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フィオナ⑤
しおりを挟む「……ねぇ、あなた」
フィオナが声をかけると、衛兵はなんとも言えぬ表情をこちらへ向けた。
お互いに、見てはいけないものを見てしまったような、妙な仲間意識を感じる。
「私は急に具合が悪くなって帰ってしまったと、キャロル王女殿下に伝えてくれるかしら」
「はい……あの、心中お察しいたします……」
お察ししてくれてありがたい。
後で彼にはなにか心付けを贈っておこう。
フィオナは衛兵に深く頭を下げ、来た道を引き返した。
帰りの馬車に揺られるフィオナの心は重かった。
さっき見たあの光景から察するに、キャロルは以前より自分の気持ちを父に伝えていたのだろう。
父はいわばリアムの育ての親のようなもの。
リアムと結ばれるために、親の理解を得ようとするのは当然のことだ。
けれど父はキャロル王女ではなく、陛下についたのだ。
臣下が君主につくのはこれまた当然の流れ。
そして政治の道具として他国へ王女が嫁ぐのもまた然り。
陛下とキャロル王女の板挟みで、父も苦しかったに違いない。
これまでフィオナは、父が自分とリアムを結婚させようとしたのは、単純に娘の将来を心配してのことだと思っていた。
けれどそこには、キャロル王女の気持ちを諦めさせるためという、別の思惑もあったのかもしれない。
──どうしたらいいのだろう
リアムには『全部私に任せて』なんて大口を叩いたものの……父の行動の裏に、国王陛下の意向が絡んでいるとなれば話は別だ。
リアムとキャロル王女を応援してやりたい。
けれど勝手なことをして、万が一陛下の不興を買うような事態にでもなれば、フィオナが叱責されるだけでは済まない。
父は団長位を剥奪されるかもしれないし、そうなれば第一騎士団の団員たちから、職と居場所を奪うようなことになってしまうかもしれない。
「着きました」
御者の声にはっとする。
小窓の外は見慣れた我が家。
考え事に夢中になるあまり、停車したことにも気づかなかった。
「ありがとう」
御者に礼を言って馬車を降りると、そこには思いもかけない人物が立っていた。
「リアム……」
「フィオナ、お帰りなさい」
いつからそこにいたのだろう。
今日の予定は邸宅に勤める執事にしか伝えていない。
なにか急用があって、彼に聞いたのだろうか。
しかしキャロルとの約束を急遽取りやめたため、帰宅時間は伝えていたよりも大幅にずれている。
「訓練はどうしたの?」
「その……団長とフィオナが王城へ向かったと聞いて……なにかあったのかと心配になって」
出仕日でもないのに王城へ向かった父と、後を追うようにして出て行ったフィオナ。
なるほど、これが親子揃っての急な呼び出しだとすれば、緊急事態に他ならない。
「心配させてごめんね。でもお父さまとは偶然機会が重なっただけだから」
「……フィオナはどんな用事で王城に?」
なにもできずに帰ってきてしまった手前、『あなたとキャロル王女をくっつける算段をつけに行ってきた』なんて言えるわけもなく。
「うん……ちょっとね」
歯切れの悪い返事しかできないのが情けない。
フィオナは、窺うような表情を向けるリアムから、逃れるように顔を背けた。
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