君を信じてもいい世界なら

清塚かい

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第2章

20、行き場を探して

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「···で、全焼して灰になったと。お前さん、相当な不運の持ち主だな」
「返す言葉もないです···」

 大量の書類があちこちに散らばっている執務室に、はは、とカルフ団長とフォクスはから笑いがこだました。フォクスの笑顔とは裏腹に、不安で揺れている尻尾をヴォルクは後ろから眺めていた。

 炭と化したフォクスの自宅は、当然の如く住める状態でなく、ヴォルクとフォクスは駐屯場へとトンボ帰りを余儀なくされた。これには見送りをしてくれていたチルも、たまたまその場にいた団長も驚くしかない。

 新しい家を探すのも、フォクスの獣性では難しいことがある。かと言って野宿はヴォルクが大反対していた。
 そんな訳でまた隊舎に泊めれるか、カルフ団長に許可を貰いに来たのだった。

「泊めるか、家探す手伝いしてやりてぇとこなんだけどさ···ついさっき、東の遠方に行く仕事がまた入ってな。ヴォルクも連れかなきゃいけねぇんだよ」
「···今回は人員は足りているだろ。俺はこの地域の担当をすればいい。それならこいつを泊めるのも問題ないはずだ」

 過保護禁止令によって、ヴォルクはフォクスに絡んできた同僚の誰にも手をかけていない。
 フォクスとしては部屋さえ借りれればそれでいいのだが、部外者である者を隊舎に泊めるのも、狐を嫌悪する者もいる中に置いていくのも、問題の火種になりそうなことはカルフ率いる騎士団側としては避けたいのだった。

「今回は俺とお前で指名されてんだよ。2人で来いってな」
「2人?随分小規模な人数なんですね」

 前回の北の任務が総勢10人以上は行ったと聞いていたフォクスは、そんなこともあるんですかと声に出した。

 そもそも、他団の応援に駆り出されるのはあまりないらしい。庶民が住む東、西、南、北、地域と、貴族や王族が住む中央の地域と、それぞれに配置されている騎士団がその地域を担当するのが通例だ。この前の北の任務も異例らしかった。
 余談だが、南に位置するカルフ率いる騎士団は、真逆に位置する北の騎士団の環境は寒くて苦労したと話していた。

「依頼主側が随分用心深い方らくしてな、騎士でもあまり他人を受け入れたくないんだと」
「東の騎士団はどうしたんだ」
「東の連中は頼りにならねぇから、戦闘力が高い奴を連れて来いだと。そっから周りに回って、色々超えて~···俺とお前に決まったって感じだ。指名依頼で断れねぇやつ」

 北の時にお前がバッサバッサ倒すから、噂が流れたのが決め手になったらしいがなと、カルフはヴォルクに恨めしい目を送る。めんどくせぇ仕事増やしやがってと物語ってる顔だ。

「ま、そんなこったでいつ終わるのかもわかんねぇ任務だ。本来なら保護期間が終わった人間を見る義務は、こちらとしては全くない。が、それをしねぇとそいつがめんどくさくなるのもお前さん···フォクスもわかんだろ?」
「えぇ···まぁ···」

 義務は~辺りから自分のお腹に回ってきた腕を見下ろした。急にどうしたのだろう。あ、そういえば触っていいと許可を出してました。
 という呑気な顔をしている狐をよそに、威嚇を向けてくる狼に、カルフはよくそれで帰そうと思ったなと呆れた。いや帰せてねぇや。家燃えたのもこいつの執念のせいじゃねぇのか。

「あー······2人が3人になったところで問題はないだろ」
「私、騎士でもないのにいいのでしょうか」

 東の騎士ですら無理な仕事ではと、フォクスの当然の疑問に、カルフは悩ましい表情で頭をかく。

「事情を話せば理解は···まぁ、頑固な爺さんだが聞いてもらうしかねぇな。最悪、近くの宿を探すってのでどうだ?」 

 どこでもいいから泊まるところが欲しかったフォクスは、問題ないですと賛成する。

「わかった。じゃ、そういう手配でやるからよろしく頼む···お前はちょっとこっちに来い」

 ヴォルクの首根っこを引っ張りフォクスから離したカルフは、ヴォルクにだけ聞こえるようにコソコソと話す。

「······お前は、そういう分かりやすい行動は、きちんと関係性をしてからにしないと嫌われるぞ」
「あいつに触れる許可は貰った」
「···それたぶんお前の言う意味と違ぇからな。見てみろよフォクスくんののほほんとした顔。さっきお前に捕まってるときも同じ顔してたんだぞ」

 誰が見てもフォクスに気持ちがないのは確かだろ、とは流石に言うのは可哀想だなとギリギリで留まる。

「俺は必要以上に介入はしないが、騎士としてお前が犯罪を犯さなのを信じているからな」
「···余計な世話だ」
「おいそれで俺と話を辞めようとは思ってねぇだような。俺はお前を想って──」

 そんな2人のやり取りを知らず暇を持て余しているフォクスは、床に散らばっている書類を拾って片付けていた。

 なんだかんだいつも忙しそうなカルフの執務室は、彼そのもののように荒れている。床の書類もよく見れば“重要!提出は来週まで”と書かれているのに、未記入で落ちているものばかりだった。
 これこそ部外者のフォクスの手に持たれてはいけないのでは?とは思ったが、悪用する気は微塵もないので片付けるのだけは許してもらいたい。

 一通り床の書類を纏めたフォクスは、よっこらせと執務机に置いた。机も机でそれなりの書類が山積みになっているので、話し合いがヒートアップしている2人を見たフォクスは、それも分けることにした。

「盗賊主導誘拐事件···」

 重要書類はそんなに見ない方がいいだろうと、元々細い目をさらに細めて分けていたフォクスは、不意に気になる文書が目に入った。それだけがやたらと書類が分厚いのと、何回も読み返されて寄れていたのもある。

 少し捲るとこの地域の領主の名前が書かれていることから、フォクスが誘拐されていた時の事件だと検討がついた。

「当事者ですし···ちょっとはいいですよね」

 ここに来る原因となった事件について、フォクスは詳しい内容を聞いていない。守秘義務があるのか聞いても話してもらえる雰囲気ではなかったからだ。

 興味本位で開いたページには、領主の妻と息子のその後のケアや、一緒に捕まっていた他の被害者の情報。フォクスの名前もそこに書いてあった。ペラペラと捲ると、北の地域での誘拐事件とまた別の地位と、似たような事件が纏められていた。

 フォクスが聞いていた以上に盗賊による誘拐事件が多発していた様子だ。これではカルフ団長も疲れるはずだと軽くペラペラと捲ってると、最後のページで手が止まる。

「拉致被害者の特徴···?」
「何を見ているんだ」

 後ろから耳打ちされて、ピャっと狐の耳と尾がマントから飛び出てしまった。いつの間にか話し終わったヴォルクが背後に回っていたのだ。
 カルフは綺麗になった執務室を見て、感心して喜んでいた。

「お、片付けてくれたんだな。助かっ──うぉ、触らねぇからんな顔すんなって」

 労りでフォクスの肩に置こうとしていた手を、即座に上に掲げたカルフは、「もう終わったから出ていいぞ」と2人を促す。

「じゃ、早速明日出発だから頼むな」
「はい。よろしくお願いします」

 軽く手を振るカルフに礼をしたフォクスは、ヴォルクに背中を押され外に連れていかれる。なぜか心臓の音が嫌に大きく聞こえた。

 ドアから出るほんの一瞬だけ、フォクスは執務机に視線を向けた。そこには即座に閉じた先程の書類が置いてある。

──茶髪ですし、違いますよね···。

 フォクスの白い首に沿って、橙色の結んだ髪が肩から流れる。
 
 ドクドクと流れる嫌な汗も、飲み込む唾も、きっと全てが気の所為だとそう願った。


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