婚約破棄されたので聖獣育てて田舎に帰ったら、なぜか世界の中心になっていました

かしおり

文字の大きさ
40 / 50
第一幕:失墜と再生の序章

4-10:冬支度、分かち合う心

しおりを挟む
 ヴァルディア領の短い秋は、あっという間に過ぎ去ろうとしていた。
 白嶺山脈の頂きは既に雪で白く染まり、朝晩の空気は肌を刺すように冷たい。
 本格的な冬の到来を前に、シルヴァ村では領民総出での冬支度が佳境を迎えていた。
 アメリア・ヴァルディアは、この初めての辺境での冬を、領民たちと共に無事に乗り越えるために、寝る間も惜しんで様々な準備に奔走していた。

 最大の課題は、やはり食糧の確保と保存だった。
 夏の間に試験的に作付けした良質な土壌の畑からは、予想を上回る量の野菜や穀物が収穫できたものの、それはまだ領全体の需要を満たすには程遠い。
 アメリアは、老執事のセバスチャンや村の古老たちと知恵を絞り、限られた食材を長持ちさせるための保存方法――塩漬け、乾燥、燻製などの技術を領民たちに指導した。
 また、ディラン・マークレインが率いる自警団は、冬眠前の獣を狙って狩猟に出かけ、貴重なタンパク源を確保してきた。

 薪の確保も重要な課題だった。
 アメリアは、無計画な伐採が森を荒廃させることを憂い、ディランと共に森の適切な管理計画を立て、必要な分だけを計画的に伐採し、同時に若木の植樹も行うよう指示した。
 集められた薪は、村の共同倉庫に集められ、各家庭に公平に分配されることになった。

 家々の防寒対策も急務だった。
 アメリアは、月影城の使われていない部屋から古い毛布や絨毯を見つけ出し、特に幼い子供や老人のいる家庭に優先的に配った。
 また、村の女性たちは、アメリアの指導のもと、羊毛や麻を使って防寒着を編んだり、家の隙間を塞ぐための断熱材を作ったりと、互いに協力し合って冬の寒さに備えた。

 最初は、アメリアの指示に戸惑いを見せていた領民たちも、彼女の真摯な姿勢と、具体的な成果が目に見えるようになるにつれて、積極的に協力するようになっていった。
 そこには、以前のような諦めや不信感はなく、むしろ、皆で力を合わせて困難を乗り越えようという、強い連帯感が生まれつつあった。
 誰かが困っていれば、自然と助けの手が差し伸べられる。
 乏しい食糧も、薪も、皆で分かち合う。
 そんな温かい心の繋がりが、この厳しい辺境の地で、確かに育まれていたのだ。

 聖獣ヴィルもまた、冬支度に一役買っていた。
 彼は、その鋭い嗅覚で、森の中で食用になる木の実やキノコを見つけ出し、アメリアに知らせた。
 また、薪集めの際には、危険な場所を避けたり、効率の良い道を示したりと、まるで熟練の案内人のように人々を導いた。
 そして何よりも、その愛らしい姿と温かな存在は、厳しい作業に追われる領民たちの心を癒し、笑顔をもたらした。
 ヴィルは、もはやヴァルディア領にとって、なくてはならない存在となっていた。

 ある晩、アメリアは、冬支度の作業を終えた領民たちと共に、村の広場でささやかな焚き火を囲んでいた。
 持ち寄った乏しい食材で作った温かいスープを分け合い、皆で歌を歌い、踊る。
 それは、王都の華やかな夜会とは比べ物にならないほど質素な集まりだったが、そこには、王都では決して感じることのできない、心からの温もりと、人と人との確かな絆があった。

「アメリア様のおかげで、今年の冬は、なんだか乗り越えられそうな気がしますだ」

 一人の老婆が、皺くちゃの顔でアメリアに微笑みかけた。
 その言葉に、他の領民たちも次々と頷く。

「そうだとも。アメリア様と、ディラン様と、そしてヴィル様がいらっしゃるんだ。何も怖いものなんてねえよ」

 若い男が、力強くそう言った。
 彼らの言葉は、アメリアの胸を熱くした。

(私が求めていたものは、これだったのかもしれない…)

 王都での地位や名誉ではない。
 高価な宝石やドレスでもない。
 ただ、こうして人々と心を通わせ、互いに助け合い、共に未来を築いていくこと。
 それこそが、アメリアが心の奥底で本当に求めていた「豊かさ」なのかもしれないと、彼女は初めて気づいた。
 物質的な豊かさだけでは、決して満たされることのない、心の繋がり。
 それこそが、このヴァルディア領を真の「聖域」とするための、最も大切な礎なのだと。

 アメリアは、領民たちの温かい笑顔に包まれながら、ヴィルをそっと抱きしめた。
 その小さな体から伝わる確かな温もりを感じながら、彼女は、この地で生きる決意を、そしてこの人々を守り抜くという誓いを、改めて胸に刻むのだった。
 厳しい冬はもう間近に迫っている。
 しかし、アメリアとヴァルディア領の人々の心には、どんな寒さにも負けない、温かく、そして力強い希望の灯火が、確かに灯っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

追放された悪役令嬢、規格外魔力でもふもふ聖獣を手懐け隣国の王子に溺愛される

黒崎隼人
ファンタジー
「ようやく、この息苦しい生活から解放される!」 無実の罪で婚約破棄され、国外追放を言い渡された公爵令嬢エレオノーラ。しかし彼女は、悲しむどころか心の中で歓喜の声をあげていた。完璧な淑女の仮面の下に隠していたのは、国一番と謳われた祖母譲りの規格外な魔力。追放先の「魔の森」で力を解放した彼女の周りには、伝説の聖獣グリフォンをはじめ、可愛いもふもふ達が次々と集まってきて……!? 自由気ままなスローライフを満喫する元悪役令嬢と、彼女のありのままの姿に惹かれた「氷の王子」。二人の出会いが、やがて二つの国の運命を大きく動かすことになる。 窮屈な世界から解き放たれた少女が、本当の自分と最高の幸せを見つける、溺愛と逆転の異世界ファンタジー、ここに開幕!

追放された悪役令嬢、農業チートと“もふもふ”で国を救い、いつの間にか騎士団長と宰相に溺愛されていました

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢のエリナは、婚約者である第一王子から「とんでもない悪役令嬢だ!」と罵られ、婚約破棄されてしまう。しかも、見知らぬ辺境の地に追放されることに。 絶望の淵に立たされたエリナだったが、彼女には誰にも知られていない秘密のスキルがあった。それは、植物を育て、その成長を何倍にも加速させる規格外の「農業チート」! 畑を耕し、作物を育て始めたエリナの周りには、なぜか不思議な生き物たちが集まってきて……。もふもふな魔物たちに囲まれ、マイペースに農業に勤しむエリナ。 はじめは彼女を蔑んでいた辺境の人々も、彼女が作る美味しくて不思議な作物に魅了されていく。そして、彼女を追放したはずの元婚約者や、彼女の力を狙う者たちも現れて……。 これは、追放された悪役令嬢が、農業の力と少しのもふもふに助けられ、世界の常識をひっくり返していく、痛快でハートフルな成り上がりストーリー!

【完結】聖獣もふもふ建国記 ~国外追放されましたが、我が領地は国を興して繁栄しておりますので御礼申し上げますね~

綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
ファンタジー
 婚約破棄、爵位剥奪、国外追放? 最高の褒美ですね。幸せになります!  ――いま、何ておっしゃったの? よく聞こえませんでしたわ。 「ずいぶんと巫山戯たお言葉ですこと! ご自分の立場を弁えて発言なさった方がよろしくてよ」  すみません、本音と建て前を間違えましたわ。国王夫妻と我が家族が不在の夜会で、婚約者の第一王子は高らかに私を糾弾しました。両手に花ならぬ虫を這わせてご機嫌のようですが、下の緩い殿方は嫌われますわよ。  婚約破棄、爵位剥奪、国外追放。すべて揃いました。実家の公爵家の領地に戻った私を出迎えたのは、溺愛する家族が興す新しい国でした。領地改め国土を繁栄させながら、スローライフを楽しみますね。  最高のご褒美でしたわ、ありがとうございます。私、もふもふした聖獣達と幸せになります! ……余計な心配ですけれど、そちらの国は傾いていますね。しっかりなさいませ。 【同時掲載】小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ ※2022/05/10  「HJ小説大賞2021後期『ノベルアップ+部門』」一次選考通過 ※2022/02/14  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2022/02/13  小説家になろう ハイファンタジー日間59位 ※2022/02/12  完結 ※2021/10/18  エブリスタ、ファンタジー 1位 ※2021/10/19  アルファポリス、HOT 4位 ※2021/10/21  小説家になろう ハイファンタジー日間 17位

婚約破棄されたので、前世の知識で無双しますね?

ほーみ
恋愛
「……よって、君との婚約は破棄させてもらう!」  華やかな舞踏会の最中、婚約者である王太子アルベルト様が高らかに宣言した。  目の前には、涙ぐみながら私を見つめる金髪碧眼の美しい令嬢。確か侯爵家の三女、リリア・フォン・クラウゼルだったかしら。  ──あら、デジャヴ? 「……なるほど」

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

追放された悪役令嬢は、辺境の谷で魔法農業始めました~気づけば作物が育ちすぎ、国までできてしまったので、今更後悔されても知りません~

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢リーゼリット・フォン・アウグストは、婚約者であるエドワード王子と、彼に媚びるヒロイン・リリアーナの策略により、無実の罪で断罪される。「君を辺境の地『緑の谷』へ追放する!」――全てを失い、絶望の淵に立たされたリーゼリット。しかし、荒れ果てたその土地は、彼女に眠る真の力を目覚めさせる場所だった。 幼い頃から得意だった土と水の魔法を農業に応用し、無口で優しい猟師カイルや、谷の仲間たちと共に、荒れ地を豊かな楽園へと変えていく。やがて、その成功は私欲にまみれた王国を揺るがすほどの大きなうねりとなり……。 これは、絶望から立ち上がり、農業で成り上がり、やがては一国を築き上げるに至る、一人の令嬢の壮大な逆転物語。爽快なざまぁと、心温まるスローライフ、そして運命の恋の行方は――?

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

「お前との婚約はなかったことに」と言われたので、全財産持って逃げました

ほーみ
恋愛
 その日、私は生まれて初めて「人間ってここまで自己中心的になれるんだ」と知った。 「レイナ・エルンスト。お前との婚約は、なかったことにしたい」  そう言ったのは、私の婚約者であり王太子であるエドワルド殿下だった。 「……は?」  まぬけな声が出た。無理もない。私は何の前触れもなく、突然、婚約を破棄されたのだから。

処理中です...