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34.伯爵夫人としての顔4
しおりを挟む「それに……貴方もですよ、エルウィン・シュティーフェル。貴方はソフィア・メーベルトの婚約者なのですよ? 婚約者を放って置いて、その姉と仲睦まじくされるのはあまりにも……非常識ではありませんか?」
メーベルト伯夫人は、上位貴族然とした――目下を悪意をもって見下す目でエルウィンを見やる。腕を組みながら、真っ直ぐに向き合うことすらせずに。
「おかしなことを言わないで下さい、お母様! 私の婚約者はエルウィンだけです!」
エルウィンの背に庇われていたルイーゼは、そこから出て母親に怒りをぶつけるが、対する母親は平然とした表情のままだ。一向に意に介した様子を見せない。壁に向かって怒鳴っているようで、ルイーゼはそれが腹立たしくてたまらない。
「母上、これはどういうことですか? モークリー公、あなた方は人の妹に何をしようとしていたのですか?!」
ジェヒューが非難の意味を込めて、母親と彼女の背後にいたモークリー公を睨みつける。
「娘のためです。今は分からなくとも、いずれ分かるようになるでしょう」
メーベルト伯夫人は冷静な口調でそう答える。モークリー公に至ってはジェヒューと夫人のやりとりを、まるで他人事のように見ているのみだ。
モークリー公のその様子に、ルイーゼは自分の母親が彼に何を言ったのか恐ろしくなってきた。
「私のため?! これが母親のすることなの?! 今のあなたを『お母様』と呼ぶことはできないわ! お母様がなさったことは犯罪です! 人として下劣な行為です!」
ルイーゼは怒りに震える拳を握りしめながら、母親を怒鳴りつける。ルイーゼの拳に視線を送り、ジェヒューは慌ててルイーゼと母の間に割って入りながら、母親への非難を口にする。
「母上、妹の顔を見れば何が終わったのか何が真実なのかは早々にわかりますよ。お二人とも教会に被害届を出されたいのですか?」
「なら出すといいわ。わたくしは、教会の教えに従っているまでなのですから」
息子と娘の双方から、これほど激しい批判を受けているというのに、母は考えを改める気はないらしい。打っても響かない母親を前にジェヒューは諦めたようにため息をつき、モークリー公に視線を動かした。モークリー公はメーベルト伯夫人と異なり、緊張した面持ちでジェヒューを見ている。
「ルイーゼ、母上とモークリー公とはこっちで話を付けるから、お前はエルウィン君と本邸で休んでいろ」
「どうして!」
「お前、母上に殴りかかりそうで危なっかしいんだよ……」
「そんなこと――」
「するだろ。俺が割って入ってなきゃ絶対そうしてた」
確かに、それは否定しきれない。しかもジェヒューは断言している……。
「そうだな」エルウィンまでぼそっと同意を示している!
今回の件についてはジェヒューも思うところがあるようだし、今より悪い状況になることはない……と、思いたい。
「ルイーゼ、ジェヒュー様に任せておけば大丈夫だ」
慣れたやさしい手の温もりを肩に感じて、ルイーゼは母親に対して言いたいことも思うところもたくさんあったが……この手に免じて、今は退いてやってもいいと思った。
「……分かった」
それでもすぐに母親への怒りを収めることはできず、怒りを込めた眼差しを母に送りながら応接室を後にした。エルウィンに誘導されながら。
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