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学園編
7.私は保護観察中…
しおりを挟む「あの……なぜ一日前に学園へ? 以前もそうだったのですか?」
「前は来てなかった。俺はお前が一日早く来るって聞いたから来ただけだ」
「え? わ、私……??」
なぜだろう? パトリックの言葉に、自分でも思っていた以上に動揺してしまった。彼は、私の動揺した様子に気づき、不審者を見る目でこちらを見ていた……。あの、本当になにも企んでおりませんので。パトリックから信頼を得たいなんて、そんな恐れ多いことは考えていない。考えてはいないけれど――。
「そしたらクリスもついてきたんだ。理由は知らん。――で、お前なんでそんな格好してんだ?」
――二人きりになったら、先程のマリー・トーマンに向けていたキラキラした雰囲気が霧散してしまった。よそ行きのキラキラ仕様ではあったのだけれど……やはり、他の人に対するものとマリー・トーマンに対する態度は、違うんだな。
「部屋の片付けをするのに都合がよかったので。でも……困りました。彼女に接触するつもりはなかったのですが」
「どういうことだ?」
「今回は、関わらずにいこうかと。そうすれば、傲慢な貴族に絡まれることはないかな、と……」
思っていたのだけれど。少なくとも、前回、彼女がそういったトラブルに巻き込まれたのは、わたくしの仕業だったから。なのに気づけば、日本人名まで名乗っていた。なにをやっているんだ、私は。いや、でも、あの子なんか不思議な吸引力があるというか……。
「なんでだ? 普通に仲良くすればいいじゃねぇか」
どうした、パトリック・シュトルツァー? 私は、希代の悪女、ミーシャ・デュ・シテリンだぞ? 今生で、他の誰が知らずとも、彼だけは知っているのに?
「……さすがに、公爵令嬢のお前が自分の髪売ってまで孤児院に寄付してるってなったら……考えるだろ、普通……」
パトリックはおかしな顔をしている。苦虫をかみ潰したようというか、グロい物を見ているというか、ゲテモノ料理を食べているようなというか……失礼な顔をしている。まあ、いいのですけれどもね? 自業自得なので、はい。
「それに、定期的に髪を切っているお陰で、王女様のお茶会にも参加しなくてよくなりましたし」
「……クリスとも、あれから会ってないのか?」
「…………ええ、まあ……」
十二歳のあの日以来――クリストフ殿下と会うことはなかった。
定期的に『王妃様のお茶会』に誘われてはいたのだけれど、私が髪を切り出したので父が醜聞を恐れ、あれこれ理由をつけて断るようになったのだ。
王家側はそれをすぐに了承した。私とクリストフ殿下の関係性が変化したことを悟っていたのだろうか?
だとしたら、王家にとってクリストフ殿下の優先度は、かなり低いということになる。……気になる。それは軽く虐待に近いのでは? でも、私はこれ以上踏み込めない。将来変化するかもしれない殿下への感情、私はそれへの対策を立てられない。
恋心なんて、理性で制御できるものではないから。
今ないから今後も絶対に生まれないなんて……私には思えない。あの全身を焦がすような狂気にも似た激しい胸が苦しい感覚を、私は今も覚えているのに。
でもそんなの、『わたくし』に限った話ではなかったのだ。
だって、そうじゃないか。理性で考えたら、あり得ないだろう。いくら性格に難があるからといって、第二王子が他国の縁者である公爵令嬢との婚約を破棄し、平民と結婚しようだなんて。
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