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学園編
10.覚えのある入学式
しおりを挟む女子寮三階、そこにグニラ・オレーンの部屋がある。彼女が使用しているのは、二人部屋だ。なぜ私が彼女の部屋を知っているのかと言うと、夕食後、部屋へ戻る彼女を尾行したからだ。
最初から尾行するつもりでいたので、今度は、至って平均的なご令嬢スタイルで食堂へ出向いた。
春になったとはいえ、午後五時を過ぎたところで辺りは暗くなっていた。前回、夕食は寮の食堂で済ませていた。だから、一人で暗がりを歩いていると……よからぬ事をしていた当時の記憶がまざまざと蘇ってくる。今はドレスを着ているから尚更。「ドレスコードが人をつくる」とはよく言ったものだ。
ルームメイトを外出させた隙に部屋へ忍び込み、無事、グニラ・オレーンと『話し合い』事は平和的に解決した。いやぁ、物わかりのいいお嬢様というのはいいね!
……別にあくどい意味ではない…………そういうつもりでいるわけではないのだが…………えっと、状況はパトリックにも報告しよう。うん、そうしよう。
一人で抱えていると、あくどい意味合いになりそうだ…………。
――グニラ・オレーンには「悪徳業者を嫌うのは分かりますが、新興成金を敵に回しては、貴女にも不都合があるのでは? その素敵なドレスも装飾品もなにもかも……ご用意できてよかったですね?」的なことをオブラートに包みプレゼントしただけだ。
大人しくさせるのに弱点を突きはしたが、悪いことには使いません! 毒をもって毒を制しただけです!
…………こんな言い訳をしている時点で、私はやはり……悪役令嬢のままなのではないだろうか…………?
◇◆◇ ◇◆◇
瓶底眼鏡に肩より少し長いくらいの赤いボブヘア。ミーシャの髪をそのまま流用して、ちょっと無造作風ヘアにしてみた。
ロングヘアの存在感というものは、実はかなりバカにできないものだということに、最近気づいた。髪をバッサリ切っただけで、一瞥しただけでは家族ですら気づかないのだ! 瓶底眼鏡までかければもう……他人から見れば完全に別人!
入学式にはミーシャ・デュ・シテリンとして参加しなければならない。なので、エクステは女スパイさながら、ガーターに袋に入れた状態で巻き付け携帯している。ちなみに、この作戦のために学園入学と同時に、髪をお団子に結い上げるのを止めました。自分ではできないしね!
――さて、そんな私が入学式が行われる講堂へ向かわずに、なぜ正門付近でウロウロしているかと言えば、マリー・トーマンを探しているのだ! 朝起きて、食堂へご一緒しようと誘いに行ったら既に外出した後だった!
私も慌てて食堂へ向かったけれど、昨日と打って変わり、今日は制服の少年少女でごった返していた。この中から、たった一人の少女を見つけ出すのは、いくら私でも無理だ。
その場は大人しく朝食だけ済ませて、早々に食堂を後にした。
今日は、前回ミーシャ・デュ・シテリンがマリー・トーマンへ暴虐の限りを尽くした日! ここでの行いが、マリーの学園での位置づけを決めてしまったと言っても過言ではない。
――イジメはしない・させない・傍観しない! そのためにも、会場入りするまでは一緒に行動して、彼女を守ろうと思っていたのに。
なら、昨日会った時に約束しておけばいいだろうって? ……今朝、本当にギリギリまで、本当は悩んでいた。マリー・トーマンのそばで守るか、遠くから見守るか。どちらが、誰にとって安全なのか。この日本人の感覚を、いつまで抱いていることができるのか……。
『菊原菜々美』の記憶が、感覚がなくなってしまったら…………私はまた、あの残虐非道で人非人、人の皮を被った醜悪な化け物に、成り下がってしまうのだろうか……?
それに、少々気になることもある。
昨日、私と別れた後、マリー・トーマンとクリストフ殿下では、良い感じになっていたのだろうか?
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