『ボクの名前を呼んでくれるまで』

COCO

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第8話:「はじめての、おともだち」

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春の風が、ようやく冷たさをやわらげたころ。
澪はポチと一緒に、いつもの公園へ出かけた。

 

──しゃべらなくても、だいじょうぶ。
ここでは、誰も無理に言葉を求めないから。

 

ポチといる時間は、世界のノイズがすっと消えていく。
だけどその日、公園のベンチには先客がいた。

 

「……あれ? この犬……もしかして“ポチ”?」

 

話しかけてきたのは、ふわふわ髪の女の子。
小さなノートに動物の絵を描いていた。

 

「ポチの絵……描いたこと、あるんだよ」

 

澪は戸惑った。
この子は、クラスの女の子──**遥(はるか)**だった。

学校では少し浮いていた。澪と同じように。

本が好きで、静かで、どこか遠くを見ているような目をしていた。

 

「あなた……澪ちゃん、でしょ?」

 

こくん、と頷く。

 

「よかった……ずっと話したかったの。でも、私もなんか……へたくそで」

 

遥は笑った。自分をからかうように。
でもその笑顔は、とてもやさしかった。

 

「ポチ、かわいいね。わたし、犬飼いたいけど──パパがアレルギーでさ」

 

澪の指先が、ノートを指した。
ポチの絵が、そこにあった。

 

「……じょうず」

 

それは、澪が自分から言葉にした、初めての“ほめことば”だった。

遥は目をまん丸にして、でもすぐに嬉しそうに笑った。

 

「ありがとう……! ほんとに、ありがとう」

 

その日から、公園には新しい風が吹いた。

ポチを真ん中にして、澪と遥は少しずつ言葉を交わしはじめる。

たった一言でいい。
気持ちを伝えられる、そんな一言。

 

──「ありがとう」って、こんなにも胸があったかくなるんだ。

 

澪はまだ、ポチの名前を呼べていない。

でも、確かに心はほどけ始めていた。
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