この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

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9. (カイン視点) 『……この世界におまえが生まれたこと、それがすべての始まりだった』

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ルカと初めて出会った日──

僕は、自分の心に初めて「痛み」と「熱」があることを知った。

 



 

「カインは、表情がないから分かりにくいね」

よく言われる。
でもそれは違う。

 

僕の感情は、全部“体の奥”で静かに燃えている。
ただ、外に出せないだけだ。

 

けれど──

 

あの日。園の門をくぐってきた、小さな小さな存在。
ぬいぐるみと同じくらいの背丈。光をまとった声。

 

「……うわぁ、ちっちゃい……!かわいいね、ミミル……」

 

その子が、ぬいぐるみに頬ずりしながら言った一言で、
僕の中の“何か”が決壊した。

 

 

(守りたい)

 

そう思った。
世界のすべてを敵に回してでも、ルカだけは。

 



 

それから、目で追ってしまうようになった。

教室の片隅にいても、すぐに居場所がわかる。
小さな指、ふわふわの髪、儚い声。

 

──誰よりも繊細で、誰よりも強く生きてる。

 

(……なにが、あの子をあんなに優しくするんだろう)

 

僕は、ぬいぐるみ“ミミル”に嫉妬している。

ルカが一番に抱くのは、いつだってミミルだから。

 

でも、ミミルがいてくれるからこそ、ルカは安心して笑える。

それも分かってる。だから奪えない。

 



 

補佐係選抜の話を聞いたとき。
迷いはなかった。

 

名乗りはしない。
名簿にも書かない。

 

──けれど、誰よりも、そばにいる。

 

それが、僕の“やり方”だ。

 

今日もルカは、誰かに囲まれて笑っていた。
その笑顔は、時々少し困っているようにも見える。

 

だから、僕は見守る。

 

いざというとき、誰より早く動けるように。

 



 

……だけど。
今朝、ルカが僕の名前を呼んだ。

 

「かいんくん、これあげるね。ミミルとおそろいの、リボン……!」

 

──時間が止まった気がした。

 

ルカの手の中にある、小さな水色のリボン。
それを、僕の手に乗せた瞬間──

僕の体が、ふるえた。

 

「かいんくん、すごくやさしいって、ミミルが言ってたよ」

 

……涙が出そうになった。

でも、出なかった。

 

僕はまだ、泣けるほど自分の気持ちを整理できてない。

 

ただ、ひとつだけはっきりしてる。

 

**“ルカが好きだ”**ってこと。

 



 

夜、ベッドの中で。
ルカがくれたリボンを、胸に抱いた。

 

ミミルにすら嫉妬してしまうこの感情が、
どんな名前なのか、まだよくわからない。

 

でも──

 

「……いつか、ぎゅって、できたら……いいな……」

 

小さな声が、空気に消えていった。

 

 



 

翌日の魔法カレンダーには、こう書かれていた。

『触れられない想いほど、深く、強く、優しい。
 でも、それはいつか、形になる』

 

僕の想いも、いつか──
触れても、いいものになるだろうか。
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