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88. 「騎士団からの訪問者」
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それは、特別授業の翌朝のことだった。
園の門前に、漆黒のマントをはためかせたひとりの男が立っていた。
「王都直属・第一騎士団、団長代理――ゼクス・グレイグ。
ルカ・リュミエール殿に、謁見の許可をいただきたく」
園長先生が、思わず目を見開いた。
「第一騎士団……しかも“団長代理”が、直々に?」
その名は、王国でもっとも格式高い騎士団の名。
“王と国を守る存在”であり、滅多に民間には姿を現さないとされている。
しかも“団長代理”といえば、本来の団長が不在の今、実質トップということだった。
(……なにか、すごいことになってる?)
ボクは、ミミルを抱いたまま門の奥から顔をのぞかせた。
「ボクに……用事ですか?」
ゼクスはひざをつき、騎士の礼を取った。
「ルカ・リュミエール殿。あなたの“光の魔法”と“世界樹の呼びかけ”の件、
王より正式に聴取を仰せつかって参上いたしました」
「王様が……?」
(どうしよう、なんだか……ものすごく“国の人”が来た……!)
**
園長先生とゼクス団長は、園の応接間で話をしたあと、
ボクは改めて、小さな庭に案内された。
ゼクスは、黒い手袋を外し、膝をついたまま言った。
「王は、あなたに深い興味と敬意を抱いておられます。
“世界樹の守人”として、正式に王宮に招きたい――それが、今回のご用件です」
「……でも、ボク、まだ園児です」
「存じております。だからこそ、これは“命令”ではありません。
あくまで、“お願い”です」
ゼクスの目は、冷たくも、どこかまっすぐだった。
「あなたの持つ“魔力”と“影響力”は、もはや園の枠を超えています。
王国が正式に庇護し、守り、その力を導く必要がある」
ボクは、ミミルの耳をぎゅっと握った。
(……王国。精霊。世界)
(ぜんぶが、すこしずつ、ボクを“外”に連れていこうとしてる)
「……でも」
ボクは、勇気を出して言った。
「ボク、まだみんなと遊びたいです。
朝にノアと鬼ごっこして、レオンと給食取り合いして、
ユリウスと絵本読んで、カインと黙って手をつないでるだけで、すごく、幸せなんです」
ゼクスは、しばらく黙っていた。
そして、静かにうなずいた。
「……あなたの“意志”が、すでに王の期待を超えている。
それでこそ、“光の名を持つ者”だ」
彼は立ち上がり、マントを翻した。
「本件、いったん報告に戻ります。
園での暮らしを、どうか誇りに思ってください。
あなたは、ここで生まれた“国宝”です」
**
帰り際。ゼクスは、ボクに一冊の分厚い本を渡した。
「“魔法と国の歴史”。子ども向けに書き直した副読本です。
気が向いたら、読んでみてください。王が選んだ一冊です」
**
その夜。
園の男子たちは集まって、大騒ぎだった。
「王宮!?」「え、国宝!?」「やばくない!?」「結婚!?」「いやそれはまだ!」
「ボクが“先生”したのが、王様に伝わったのかも……」
「じゃあ次は王宮で授業か!?」「光の使徒!」「天使降臨!!」
──どうやら、騒ぎはしばらく続きそうだった。
でもボクは、本の表紙を撫でながら、思ってた。
(“呼ばれる”ことと、“行く”ことはちがう)
いつか、必要になったらそのとき考えよう。
今は、みんなと笑っていられるこの時間を、
ちゃんと抱きしめていたい。
園の門前に、漆黒のマントをはためかせたひとりの男が立っていた。
「王都直属・第一騎士団、団長代理――ゼクス・グレイグ。
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園長先生が、思わず目を見開いた。
「第一騎士団……しかも“団長代理”が、直々に?」
その名は、王国でもっとも格式高い騎士団の名。
“王と国を守る存在”であり、滅多に民間には姿を現さないとされている。
しかも“団長代理”といえば、本来の団長が不在の今、実質トップということだった。
(……なにか、すごいことになってる?)
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「ボクに……用事ですか?」
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「ルカ・リュミエール殿。あなたの“光の魔法”と“世界樹の呼びかけ”の件、
王より正式に聴取を仰せつかって参上いたしました」
「王様が……?」
(どうしよう、なんだか……ものすごく“国の人”が来た……!)
**
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「存じております。だからこそ、これは“命令”ではありません。
あくまで、“お願い”です」
ゼクスの目は、冷たくも、どこかまっすぐだった。
「あなたの持つ“魔力”と“影響力”は、もはや園の枠を超えています。
王国が正式に庇護し、守り、その力を導く必要がある」
ボクは、ミミルの耳をぎゅっと握った。
(……王国。精霊。世界)
(ぜんぶが、すこしずつ、ボクを“外”に連れていこうとしてる)
「……でも」
ボクは、勇気を出して言った。
「ボク、まだみんなと遊びたいです。
朝にノアと鬼ごっこして、レオンと給食取り合いして、
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ゼクスは、しばらく黙っていた。
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「……あなたの“意志”が、すでに王の期待を超えている。
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「本件、いったん報告に戻ります。
園での暮らしを、どうか誇りに思ってください。
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**
帰り際。ゼクスは、ボクに一冊の分厚い本を渡した。
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その夜。
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ちゃんと抱きしめていたい。
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