この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

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101. 「手紙の返事は、プロポーズでした」

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──夜。
未来種子の畑を見つめながら、ルカはぽつりと呟いた。

「……ボク、明日、返事を書くね」

“誰のものにもならない”と決めたこと。
それでも、世界の誰よりもみんなを好きでいたいということ。

小さな決意が、ひとつの芽になって胸に根を張っていた。

そして、翌朝――。

「……ルカ様、王都から封書が届いています」

そう告げられて手渡されたのは、濃紺の紙に金の封蝋が押された一通の手紙だった。

それを見た瞬間、ルカのまぶたがぱちぱちと跳ねる。

「……うわぁ、きれい……これ、“とくべつ”なやつ?」

封蝋には、フェルシュタイン王国・王家の正式紋章が刻まれていた。

「……まさか……」

ノアが青ざめ、カインが嫌な予感を察知して前髪をぐしゃぐしゃにかき上げた。

レオンは手紙に目を細め、ユリウスはなにかを悟ったように静かに立ち上がる。

「ルカ、開けてみろ」

ユリウスの声は、ふだんより少し硬い。

ルカは頷き、ミミルを膝に置いてそっと封を解いた。

中からは、淡い香水の香りと、流れるような筆致で綴られた一通の手紙。



《いと尊き神子ルカ様へ》

あの日、あなたに出逢ってから、私の世界は新たに生まれ変わりました。

あなたが地に触れ、祈りを捧げ、涙をぬぐうその姿。
それは、もはや人ではなく、光そのものでした。

この気持ちは、衝動ではありません。
私は、国を懸けてあなたをお迎えします。

どうか、私の王妃として――
フェルシュタイン王国に、共に希望を灯してください。

あなたのすべてに、未来を捧げます。

──リュカ・フェルシュタイン
(フェルシュタイン王国 第一王子)



「……っ」

便箋が、ルカの手からふわりと滑り落ちた。

目を丸くしたまま、ルカはただぽかんと立ち尽くしていた。

「……これって……えっと……プロポーズ……?」

一拍置いて、背後から怒涛の反応が爆発した。

「ちょっと待てぇぇえええええ!!!」

「は!? 王妃!? 誰が!? おいふざけるなよ!!」

「……外交の皮を被った求婚じゃないか、これは」

「ルカ様を……誰かのものに……? 違う、違うよ、そんなの……」

「……………………(無言で刀の柄を握りしめるユリウス)」

ルカはきょとんとみんなを見渡した。

「えっと……断った方が、いいの?」

「当たり前だッ!!」

怒号が響く。

だがその裏で、園児たちの胸には、うまく言葉にならない恐怖が広がっていた。

──自分たちの“好き”が、国家という巨大な力によって脅かされようとしている。

「……ルカは、どう思った?」

ユリウスの声は静かだった。

ルカは、ふと窓の外を見た。

朝日を受けて、未来種子の畑に光が差し込んでいる。

金色の若芽が、そっと揺れていた。

「うれしかった。でも……選べないよ。
だって、“誰かひとり”を選んだら、他のみんなが泣いちゃうでしょ?」

「だから、ボク……ちゃんと返事を書くね」

「“ごめんなさい”じゃなくて、“みんなを大切にしたい”って」

──それは、“誰のものにもならない”と決めたルカの、はじめての公式な返答だった。

けれど世界は、それをどう受け止めるのか。

静かに、争奪の火蓋が切られた音がした。
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