東大受験物語

けんしろー

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第二章 最初の挑戦

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第2章:最初の挑戦

入学から数日後、ついに正式な授業が始まった。

1限目の教科は――現代文。
教壇には、スーツ姿に小ぶりの丸メガネをかけた中年の男性教師が立っていた。
名前は竹原(たけはら)先生。一見穏やかだが、何か鋭いものを内に秘めている雰囲気の人物だった。

「さて、1年5組の皆さん。初めまして、現代文を担当する竹原です」

竹原先生は、黒板にそう書きながら、くるりと振り返ると、いきなりこう言った。

「今日はね、東大の入試問題をやってみようと思う」

ざわっ、と教室が揺れた。

「え、マジで?」 「いきなり東大!?」 「まだ教科書も開いてないのに……」

そんなざわめきの中、悠真は戸惑いと不安に包まれていた。

(……東大って、あの“東大”?)

先生は微笑を浮かべながら、生徒たちにプリントを配り始めた。

「これは、数年前の東京大学の国語、現代文の問題です。まだ入試の形式なんて知らない人がほとんどでしょう。でも構いません。ただ、読んで感じて、頭を使って、考えてみてください」

悠真の手元にも、真っ白な紙が配られる。

そこには、びっしりと小さな文字で文章が並んでいた。
筆者の名前も、テーマも、どこか遠い世界のもののようで、悠真は最初の一文からすでに圧倒されていた。

(なに言ってんのか、さっぱり分かんねぇ……)

文章のテーマは「共同体における自己の構築」――というような、抽象的で難解な内容だった。

だが、教室の前の方では何人かの生徒が真剣にプリントに目を通し、鉛筆を走らせている。

(うそだろ……読めてんのか?)

竹原先生は全員に目を配りながら、静かに問いかけた。

「どうですか? 意味が取れなくても構いません。言葉の流れ、筆者の主張、問いとの関係。それを“つかもう”とすることから、東大の国語は始まるんです」

悠真は、頭の中が真っ白になっていた。

(これが、東大……)

自分が「行きたい」と言っていた場所。
テレビ越しに「すげえ」と思っただけの、あの場所の現実が、今、目の前に突きつけられている。

(……俺、こんなの読めるようになんのか?)

心の中に、またひとつ、大きな壁が立ちはだかる。

だが――そのとき、ふと前の席の高村が、小さくつぶやいた。

「うわ、これ難しいな……でも、面白い。どっから切り込めばいいんだろ」

その声を聞いて、悠真は少しだけ、顔を上げた。

“こんなの読めない”じゃない。
“どう読んでやろうか”と、考える。

(あいつにはできるのか……いや、俺にも)

小さな決意が、心の奥に灯る。

竹原先生の声が、静かに響いた。

「東大の国語は、知識ではなく“思考”の試験です。ここから3年後、皆さんの中に、これを“楽しめる”ようになる人がきっといます」

その言葉が、まるで悠真の胸に向けて放たれたように思えた。

(楽しめるように……俺が?)

この日、相馬悠真は、生まれて初めて“本気の問い”に触れた。
それは、簡単な道ではない。けれど――
彼はこの授業のあと、初めて図書室に足を運ぶことになる。

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