私の婚約者に手を出すな! ~愛する婚約者を狙う鬼畜令嬢たちとの奮闘記~ 

千依央

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第一章:暴虐令嬢アンヘル

野盗が街にやってきた!

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「アッシュ、ポリーナ。そろそろ一息いれんかね?」
 もうそんな長い時間、私達が式の話をつめていたのに、全然気づかなかった。



 私はポリーナ。ミーニャ伯爵が統治する、王都の城下町に嫁ぐ予定の子爵令嬢。
 私の父とミーニャ伯爵は、優秀な貴族子女だけが通える王立学院の同学。
 自分の子供達を結婚させて両家の絆を強固なものにしようと約束。
 親が決めた婚約者なんて、貴族の間では珍しいことじゃない。

 それに私、優しくて頭のいいアッシュのこと、子供の頃から好きだったし、全然イヤじゃない。



「ありがとうございます、伯爵。お言葉に甘えますわ」
「父上、僕も手伝います」

 ああ……やっぱりアッシュはステキ!

 伯爵令息なのに自分の身の回りのことは自分でできるし、使用人にも気遣いを忘れない。
 だから領民にも慕われる。
 こういう殿方と人生を築いていきたい。

 そう思ってたけど、やっぱりステキなアッシュは、いろんな女性に狙われてしまう……それだけが心配。





 久しぶりにアッシュと領内を歩いて、領民から話を聞きに行く。
 こういうのも統治に必要なこと。

 領民もアッシュや伯爵を慕ってくれているし、私の話も聞いてくれる。

 今日は港で、魚介類の水揚げ量や海況を聞きに行ってた。

 この城下町は海産物や農産物、工芸品や生活用品など、たくさんの高品質な交易品を売って発展している。

 それはミーニャ伯爵の手腕とこの地の特徴がうまく合わさったから。

 ただ、豊かな土地であるからこそ、狙われることも多い……。

「アッシュ様、最近嫌な話を聞いたんですよ」

「どんなことですか? 父上に報告しますので、くわしく聞かせてください」



 網元あみもとさんはアッシュに、「嫌な話」の内容を語ってくれた。

 最近、近くの村を野盗一団が襲撃してきた、と。

「野盗一団は、背が高くて髪の長い、オオカミみたいな目の女が頭目と呼ばれてまして」
「斧の紋章の旗を掲げていたとか」

 あ……アッシュの顔が曇った。

「……噂には聞いたことがあります。斧の紋章……おそらくディベルシオーン商会。かれらは地上げや低品質な商品を押し売りする、ならずものだと。商人を騙った野盗だと、西方の領地で有名だったそうです」

 アッシュは網元さんに礼を言って、私と一緒に伯爵のもとへ急いだ。



 伯爵邸に戻ると、来客が。
 初老の男性ともう少し若い、中年の女性。
 初めて見る顔。

「おお、おかえりアッシュ、ポリーナ。紹介しよう」
 お二人に目をやる。
「こちらは先週まで王都で水軍の将軍を務めていらした、トゥチニャーク閣下と、奥方だよ」
 軍を引退されて、引っ越してこられたとの話。
 アッシュが返事するより早く、私が反応した。
「それはちょうどいいですわ! 伯爵、先ほどアッシュと港で……」
 網元さんから聞いた話を伯爵に報告すると、やはりお顔を曇らせた。
「迎え撃てばよい。奴らは規模こそ大きくないが、その分機動力がある。遅くとも今日の夜にはここにつくだろう」
「それに……女頭目アンヘルは、若く知的な貴族の美男子を好み連れ去って弄ぶ、ともっぱらの噂でね。アッシュ様はアンヘルの好みではないかと……」
 将軍夫妻がアッシュを見て、そんな怖いことを言い放つから、私は戦慄した。



 応接間でそんな話をしていると、執事が駆け込んできた。
「旦那様! やと……いえ、悪名高きディベルシオーン商会が襲撃してきました!」
 ウソ!? まだ夕方前なのに、来るのが早すぎる!
 窓の下に目をやると、下品なならずものの中に、まるで娼婦みたいな恰好をした女。
「あの女が、ディベルシオーン商会の女頭目『美男子食いのアンヘル』ですよ」
 将軍夫人が私に教えてくれた。
 アンヘルは窓際に立っていたアッシュを見上げて、下品に舌なめずりしている……。
 気持ち悪い女……!
 アッシュは私の未来の旦那様……だから、私が守らなくては!
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