私の婚約者に手を出すな! ~愛する婚約者を狙う鬼畜令嬢たちとの奮闘記~ 

千依央

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第一章:暴虐令嬢アンヘル

逆恨みもいいところ

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「港町で聞いたという、奴らに襲われた村というのはどこかお分かりですかな?」
 閣下が腰を低くし私に尋ねてくる。
 閣下の見立てだと、その村を現在の拠点にしてミーニャに来たのだろう、と。
「アッシュ様もそこに連れ込まれていると思います。ただ」
「ただ?」
 私の疑問に、ソコルが苦い顔を見せながら、嫌そうに言う。
「十中八九、村も連中に略奪されています」

 ……私は、あのなんたらベルが、そういうことをする破落戸ならずものだと失念していた。
 村が蹂躙されているところを見たら、優しいアッシュがどんなに心を痛めることか。

 アッシュを連れ去ったことも許せないけど。
 もっと許せないのは、伯爵とアッシュが大切にしてる領民を苦しめること。
 そう考えていたのが顔に出ていた様で、先生がくぎをさしてきた。

「ポリーナ、あんたついてくるつもりだろ」
「もちろんです。アッシュは私の婚約者ですから!」
 やれやれとため息をつくも、私も同行させてもらえた。



 空が暗くなってきたぐらいの時刻、網元さんから聞いた村に近づいてきた。
 村の上空に何か、球体で薄い色がついた、透明な壁みたいなものが見える。
 先生によると、結界らしい。



 私をそっちのけで、将軍夫妻と先生が何か色々やって、結界は破られた。
 正直、将軍夫妻と先生の三人だけで、なんたらベルは成敗できた。
「三人だけであの破落戸野盗を討伐しちゃうなんて……」

 アッシュを気絶させた、黒メガネの太った男は、将軍に投げ飛ばされ気絶していた。
 石火矢の男は、ソコルに蹴り飛ばされ気絶している。

 先生に呼ばれて魔法使いの若い男の近くに行くと、彼は首輪をはめられていた。
「あれは隷属の魔道具。アンヘルにつけられてたんだろう」

 隷属の魔道具……つい二十年ほど前まで、権力者が敗戦国の捕虜に使っていた禁忌の道具。
 主に女性や子供につけさせ、労働を強制したり弄んだりしていた。
 大人の男性には、戦場の最前線に立たせていたという。
 今の国王陛下が使用を禁じ、宮廷魔導士達が悪徳貴族から押収したはず。

「まだこんな忌まわしい物が残っていたんですね……」
 あのなんたらベルならやりそうだと思ってしまう。
 あれをアッシュにつけて、アッシュを弄んでるのだとしたら……。
 許せない! 絶対アッシュに手は出させない!



 先生は隷属の魔道具を魔法で破壊し、魔法使いの若い男から情報を引き出す。
「……アンヘルはアッシュ様を寝屋に連れ込んでいます……」
 彼によると、アンヘルはことに及ぶ前、長時間入浴する習慣があるそう。
「今ならまだ出ていないはずですから、アッシュ様を助けられるはずです」
 案内してもらい寝屋に急ぐと、拘束されたアッシュがいた。

「アッシュ!」
 暴力は振るわれてなかった様で、彼の無事に安堵した。
「ポリーナ……助けに来てくれたんだね」
 私は思わずアッシュに抱き着いた。

 閣下が拘束を解き、アッシュを抱えて脱出しようとする。
「アッシュ様、ポリーナ様。主人とホーカー様について、先にお戻りください」
「ソコルは一緒に行かないの?」
「私は主要な構成員を引っ立てます。衛兵の到着を待っていたら、逃げられます」
 ソコルは以前、名うての賞金稼ぎだったそうで、荒事に向いているのだとか。



 伯爵邸に戻った私達は、伯爵に村の被害状況を報告。
 伯爵は王都に早馬を出して、彼らに対する裁判を請願してくだった。

 帰ってきたソコルが尋問した結果によると、アンヘルは爵位を剥奪された元貴族の令嬢。
 剥奪の原因はやはり、領民や捕虜に対する非人道的な扱いが原因。
 しかも国王陛下が押収したハズの隷属の魔道具を、多数所持していたということ。
「それを報告したのが、私の父でね」
 アンヘルの父であったディヴェルシオーン元侯爵は、それを恨みながら絶命したのだそう。

 だからって国王陛下と法律に従った伯爵を恨むのは筋違い。
 そんなのは逆恨みもいいところ。
 現伯爵からアッシュへの代替わりの時期を待って、乗っ取りを画策してたのだと思う。

「大丈夫だよ、僕はポリーナ以外の女性と結婚なんてしない」
 私の目を見て誓ってくれたアッシュの力強い言葉は、その後の私を支えることになる。
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