家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!

灯璃

文字の大きさ
8 / 31

ごめんより、

しおりを挟む

 四日目。

 さすがに、もう邪険にはされないだろうと、慧は少しだけ軽い気持ちでインターホンを鳴らした。
 すると、すぐ中から、ドタドタと昨日と同じく慌ただしい物音がした後、予想外にそっと扉が開いた。

「あっ、こ、こんにちは。良かった、来てくれたんだね……」

 扉から顔をのぞかせた龍士郎は、昨日と同じくイケメンのままだが、何故か慧を見てあからさまにホッとしていた。何故そんな安堵をされたのかわからないが、慧は首を傾げながらも、いつもの事務的な挨拶をした。

「えっと、はい。本日もよろしくお願いします」
「う、うん、よろしくね」

 そんな慧の挨拶に、龍士郎は少しだけ眉を下げ、苦笑した顔で中に招き入れた。
 挙動不審なのを不思議に思いながらも、慧はいつも通り中に入っていった。



 いつものように仕事道具を設置し、さて、と掃除に取り掛かろうと立ち上がると。

「わっ」
「あっ、ご、ごめん」

 何か質量を持ったものに、ぶつかった。
 それは生暖かく少し硬い、龍士郎だった。そんなに近い所に居るとは思ってもおらず、慧は一瞬固まってしまった。この距離は、まずい。
 慌てて後ずさり、謝ろうとした瞬間、何かを、踏んだ。それは、後で使おうと思って用意していた、雑巾。まさか、こんなベタなコントのような事をしてしまうなんて。
 色々な後悔と恐怖が襲うがなすすべなく、倒れ――。

「危ない!」

 何かにぐいっと引っ張られ、抱きしめられた。誰にか。もちろん、龍士郎だ。

「すっ、すみません!」

 どうやら、腕を引っ張られ龍士郎の方にもたれかかったようだった。
 慌てて慧が離れようとすると、パッと手が離れた。どちらともなく、お互いなんとなく恥ずかしい雰囲気になる。

「すみません。お怪我は、無いですか」

 慧が改めて頭を下げて謝ると、龍士郎は何かを言いかけたが、ふむ、と少しだけ間を置いて口を開いた。

「オレは大丈夫。それに、オレのせいで危ない目に遭わせちゃったんだから、謝るのはオレの方だよ。ごめんね」
「そんなっ」

 謝られた慧が、気まずそうに再び謝罪の言葉を口にしようとした時、龍士郎がニッと笑った。目を細め、慧を見つめる。

「それに、ごめんより、ありがとうの方が聞きたいな、オレ」

 ドクン、と再び嫌な動悸がした。心臓が、跳ねる。
 もう、さすがに慧にもわかりかけていた……これは、命令コマンドだ。
 弱い、互いを探るような、コマンド。
 おそらく、断っても慧であればそんなに酷い事にはならないであろう、というくらいの。

 だから、嫌だと拒否しても良いのだ。
 だけど、拒否するのも、嫌だと慧は思った。
 なぜそう思ったのか。人として、龍士郎が間違った事を言ってないからだろうか。これに、はい、と言った方が良い事だと慧も思う。

 ただ、それにコマンドを使うのが、なんとなく気に入らない。
 支配されたい、というのは、人にもよるだろうが、人形になりたいという事ではないのだ。
 慧は、少しだけ躊躇った後、

「……ありがとう、ございます」

 そう、口にした。
 総合的に考えて、そっちの方が常識的に考えて良い事だと思ったからだ。

 だから、龍士郎のコマンドを受け入れたわけでは、ない。
 特定の安心できるパートナーが居た事が無い慧にとって、コマンドとは苦痛でしかないのだ。
 だから、これは、違う。その証拠にほら、嬉しい気持ちになんかなったりしてない。

 そう心の中で言い訳をしながら、慧が龍士郎を見ると、ちょっとだけ眉を下げていた。困っているというより、少しだけ悲しんでいるようにも見えて、ちょっとびっくりしてしまった。

「もしかして、君」

 そんな龍士郎が、今度は何を言い出すのかわからないので、慧は失礼だと思いつつも、

「すみません。本日の業務をそろそろさせて頂いても良いでしょうか。予定が遅れておりますので」

 そう、事務的に突き放すように言って、くるっと踵を返した。
 てきぱきと仕事の準備を整え、さっさと掃除をはじめた。一回も振り返らなかったので、龍士郎がどんな表情をしているのかわからなかったが、気にしないように自分に言い聞かせて、自分の仕事に打ち込んだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。

しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。 基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。 一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。 それでも宜しければどうぞ。

【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

僕の恋人は、超イケメン!!

八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

【短編】初対面の推しになぜか好意を向けられています

大河
BL
夜間学校に通いながらコンビニバイトをしている黒澤悠人には、楽しみにしていることがある。それは、たまにバイト先のコンビニに買い物に来る人気アイドル俳優・天野玲央を密かに眺めることだった。 冴えない夜間学生と人気アイドル俳優。住む世界の違う二人の恋愛模様を描いた全8話の短編小説です。箸休めにどうぞ。 ※「BLove」さんの第1回BLove小説・漫画コンテストに応募中の作品です

可愛いがすぎる

たかさき
BL
会長×会計(平凡)。

『アルファ拒食症』のオメガですが、運命の番に出会いました

小池 月
BL
 大学一年の半田壱兎<はんだ いちと>は男性オメガ。壱兎は生涯ひとりを貫くことを決めた『アルファ拒食症』のバース性診断をうけている。  壱兎は過去に、オメガであるために男子の輪に入れず、女子からは異端として避けられ、孤独を経験している。  加えてベータ男子からの性的からかいを受けて不登校も経験した。そんな経緯から徹底してオメガ性を抑えベータとして生きる『アルファ拒食症』の道を選んだ。  大学に入り壱兎は初めてアルファと出会う。  そのアルファ男性が、壱兎とは違う学部の相川弘夢<あいかわ ひろむ>だった。壱兎と弘夢はすぐに仲良くなるが、弘夢のアルファフェロモンの影響で壱兎に発情期が来てしまう。そこから壱兎のオメガ性との向き合い、弘夢との関係への向き合いが始まるーー。 ☆BLです。全年齢対応作品です☆

処理中です...